第8話 オモイデ

 付き合ってから最初にデートしたのは映画館もあるショッピングモールだった。

 映画まで時間があったから僕達は色んなお店に入って時間を潰した。

 水沢さんはどんなお店に入っても無邪気な子供みたいに楽しんでいた。たまに僕を置いて走っていってしまい、デートだという事を思い出して焦って戻ってきたりしていた。

「悠翔君はどこか入りたいとこある?」

「俺? んー本屋とか?」

「じゃあ行こ!」

 彼女は僕の左手を掴んで走り出した。


 しばらくすると映画の時間が近くなっていて僕達は映画館に向かった。

「悠翔君ウチの分のチケットも持っておいて。ウチいっつも無くしちゃうんだ。チケットとか切符とか。だからお願い」

「あいよ」

 ジュースを買ってポップコーンを買って僕達は席に座った。

 選んだ映画はその時話題だったスリラー映画。彼女の希望でその映画にしたのだが、水沢さんは映画が始まってから三十分程で寝てしまっていた。

 無理に起こさなくてもいいかと思い、僕はそのまま映画を見ていた。

 その後、水沢さんはとあるシーンの銃声でびっくりして目を覚ましていた。


 映画が終わり僕達はアイスを買ってフードコートで休憩をした。

「映画つまらなかった?」

「……どうして?」

 水沢さんはアイスを食べるスプーンを口に咥え目を合わせようとしなかった。

「寝てたから」

 彼女はそれを聞いて、顔を机にくっつけめり込ませるかのように頭をぐりぐりと動かした。

「気づいてたの!? 最悪ー!」

「気づかれてないと思ってたのね」

「なんで分かったの?」

「見たから」

「アイスあげるから許して!」

 別に怒ってはないのだが、彼女は僕の口にキャラメル味のアイスを突っ込んだ。


 僕達はアイスを食べ終わると、この後どうするか話し合あった。

「悠翔君にお願いがあります」

「眠い?」

「違うー! 本当に眠くないから!」

 水沢さんは手の平を僕に向け大丈夫だということを全力で伝えてくる。

「何がしたいの?」

「悠翔君と写真撮りたくてね、後お揃いの物が欲しいの」

 言われてみれば僕の友達でも付き合ってる人は何かしらお揃いのアクセサリーなどを持っていた気がする。

「いいよ。どんなのがいいとかあるの?」

「ほんと! ネックレスとかブレスレットとかがいい!」

 さっそく、僕達はアクセサリーショップに入った。

 誕生石のネックレスが目に止まった。

「こういうのは?」

「悠翔君って誕生日いつなの?」

「七月だからルビーだね」

「そうなんだ! うち十二月だから一緒じゃないや」

 水沢さんの反応を見ると、似ている物じゃなくて同じ物が欲しいようだ。

「じゃあ他のにしよっか」

「あ! これ凄くない!」

 水沢さんが見つけたのはペアの指輪だった。二つ揃えると中に文字が浮かび上がるという仕掛け付きだった。

「へー、面白いね」

「でも指輪って無くしそう……」

「じゃあチェーンも買って首から下げる?」

「そうしよ!」

 水沢さんは返事と一緒に定員さんを呼んだ。

「この指輪ください」

「指のサイズは分かりますか?」

 僕達は二人揃って首を横に振った。

「それではお計り致しますね」

 定員は水沢さんの薬指の大きさを計り商品を手に取り申し訳なさそうな顔をした。

「すいません。この指輪だと今あるサイズの中ですと小指のサイズしかなくて……」

「あ、小指で大丈夫です!」

「彼氏さんの方は……」

「僕も彼女と同じで小指でお願いします」

 こうして僕達は指輪を選び、僕は銀色のチェーンを、水沢さんは金色のチェーンを買った。

 定員さんにはこのまま着けて行くと話、袋は貰わなかった。

 お店を出ると水沢さんはすぐにつけてつけてとお願いしてきた。

 背中を向け、首が見えるように髪を上げる。そんな状況に少し緊張してつけるのに手間取った。何とか着け終わると水沢さんは振り向き僕の体を回し背中を向けさせた。

「別に自分でやるって」

「ウチがやりたいの!」

 理由は分からないが自分がやられる時の方が緊張した。

「えへへー」

「うれしそうだね」

「うん!」

「写真撮っちゃおっか?」

「うん! こっち向いて!」

 僕達は肩が当たるか当たらないかの距離まで近づいて写真を撮った。初めて二人で撮った写真

 はブレブレでお世辞にも綺麗に撮れてはなかった。

「悠翔君撮って」

「俺も写真下手だよ」

 今度はブレることなく綺麗に撮れた。

「これアイコンにしていい?」

「え?」

「ごめん、嫌だった?」

「悪い、ほら、前も言ったけど俺昔失敗してるからさ。あんまり友達にバレたくないなって」

「ううん、分かった! じゃあこれは二人だけの写真だね!」

「ごめんね。他のお願いだったら頑張るから何でも言って」

「じゃあ名前で呼ばれたい?」

「零菜ちゃんとか?」

「呼び捨てがいい」

「分かった。よろしく零菜」

 零菜はその後何度も僕の名前を呼びながら写真を見ていた。今日一緒にいて零菜はとても明るい子だと思った。一緒にいてこっちまで照らす様な、そんな子だ。

「そういえばさ、水……零菜は何の文字が入った指輪にしたの?」

「それはね――」


 ♢


「何だったの?勿体ぶらないで教えてよ」

 朱里が急かすように聞いてくる

「……思い出せないのです」

「何で!」

「英語で……零菜と合わせたこともなくて……」

「ばーかばーか、ゆーとのアホ」

「バカって言う方が馬鹿なんですー」

「ばーか、英語のテスト九点のばーか」

「うっせぇわデブ」

「はいハードル超えました! 棒高跳びくらいハードル超えました! 言ってはいけないこと言いました! 」

 怒って立ち上がった朱里を苺が宥めると、朱里は座りまた飲み始めた。

「それで、その時のがゆうちゃん左腕につけてるやつなのね」

「そういうこと」

「大学の途中からずっと着けてると思ったけどそういう思い出があったんか」

「俊にはそこまで話してないもんな」

 軽く謝った僕に俊は大丈夫だと言ってくれた。

「メンタル大丈夫か?」

 光太郎が心配する。

「まだ大丈夫」

「無理しなくていいからな」

「うん。じゃあ続き話すよ」

 僕はグラスに残った氷が溶け出来た水を、一口、口に入れた。

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