第二章 君との過去
第7話 コクハク
あの日は、雨が少し降っていた。
五限の講義を終え、友達と帰ろうとした時に腕を捕まれ引き倒されそうになった。振り返ると小柄な女性が僕の左腕を両手で掴んでいた。見た目のわりに力が強くまったく離そうとしない。
「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
漫画のような出会い。これが僕と彼女の初めての会話だった。
僕は中学校の頃、恋愛がらみで友達がいじめにあった。異性と下校していただけで噂を立てられた。別に何を言われてもいいと思えたけど、標的は僕じゃなくて女の子方だった。
僕が友達だと思ってたやつも、何人かは周りと一緒になっていじめていた。
正直言って僕は友達に対する好意と異性に対する好意の違いが分からなかった。だから、その子のことも仲がいい友達としか思っていなかった。
それでも、僕の大事な友達ということは分かっていた。その子を守るため僕は距離を取った。
それから恋愛というものを否定するようになった。友達でいい。それ以上の関係なんていらない。
そう言い聞かせ告白されようともラブコメの主人公みたいに聞こえないふりや分からない振りをした。恋愛に興味がない。そんなキャラを演じそうやって逃げ続けた。
今回も逃げようとした。だけど腕を掴まれていて振りほどくこともできない。買い物に付き合ってって意味?とかにして逃れようにもハッキリと告白されてしまい誤魔化すこともできない。
そもそも僕は彼女の名前すら知らない。頭の中はスクランブルエッグよりぐっちゃぐちゃだ。
僕が困惑しているのを彼女の友達達が気づいてくれてその場はライン交換で済んだ。廊下で堂々と告白されてしまったから周りの人何人か気づいたと思う。
付き合ったらまた友達がいなくなるのかな。
断ったら傷つくよな。
家に帰るまでずっとその繰り返しだ。
帰ってきてコートを脱いで、すぐ横になった。
スマホを開くとその子からLINEが来ていた。
「
内容を見て、夢じゃなかったのだと再認識させられた。
とりあえずスタンプを送って、僕は友達に連絡をとった。
水沢さんは僕の事をどこで出会ったのかを知りたかった。きっと、僕が覚えていないだけで何かの講義とかで一緒になったのだろうと考えたのだ。
もう一つはいつまでに返事をすればいいのかを聞きたかった。
幼馴染にはよく女心が分かっていないと言われるし、自分から告白もしたことが無い僕はそういうものが分からなかった。
返事が来て分かった事は講義などでは必修科目で一緒にはなっているということだった。つまる何百人というグループの一人でしかないということだ。
もう一つの方は返事は一週間くらいにした方がいいらしい。僕は一ヶ月くらいじゃないのか聞いたら、待たせすぎだと怒られてしまった。
僕は水沢さんと話した記憶がない。学部が一緒でも見たこともない気がする。何とか一週間以内に思い出そうと心に決めた。
水沢さんとLINEを交換して三日後だった。電話がかかってきて返事を聞かれた。
……いつでも良くなかった。
水沢さんは一時間くらいどうしても付き合いたいと言い続けてきた。真っ直ぐ気持ちを伝えてくる姿勢に僕は嘘をつきたくないと思い、自分の過去を話した。それと、水沢さんと話したのは前が初めてだと思っている事を言った。
水沢さんから返ってきた言葉は意外だった。
「ウチらが話したのあれが初めてだよ?」
「え、でもずっと前からって」
「うん。前から一目惚れしてたの」
そんな水沢さんの反応に僕は思わず笑ってしまった。三日間ずっと考えていたのに、全て無駄だったのだ。
「ね、お願い。お試しでもいいから」
「ほんとに俺でいいの?」
「悠翔君がいいの」
「……分かった」
「ほんと! やった!」
水沢さんは喜んで、電話してることも忘れてかしばらく鼻歌を歌っていた。
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