第3話 飲み込んだ思い

「あと二人ってどんな子が来るの?」

 キャベツを頬張りながら聞く朱里に桃花が答える。

「私と同じ職場で働いてる舞ちゃんとそのお友達です」

「ちなみに舞は俺の高校の時の友達でもある」

 ふーんと朱里が興味があるのか無いのかよく分からない反応を見せる。

「あ、噂をすればもうすぐ着くみたい。私ちょっと迎えに行ってくるね」

 桃花が上着を着て階段を降りていく。

 完全に姿が見えなくなった途端、朱里が顔を勢いよく上げた。

「どーせなら男呼んでよ」

「俺もたまたま駅で会ったの」

「一人くらい暇な友達いるでしょ? ほら、ちょっとスマホ貸して」

 そう言って朱里は僕のスマホを取り、奪い返されないようすぐに背中を向けた。まぁ、取り返すつもりもないのだけれど。

「ゆーとパスワード教えて」

 取り返さなかった理由はこれだ。

「ゆーとって誕生日六月の三十日だよね? 開かないんだけど」

「パスワード誕生日にするほど甘かねーよ」

「教えろー!!」

 朱里が胸ぐらを掴んで前後に揺らしてくる。

「おまたせー」

 されるがままに揺らされていると桃花が帰ってきた。そして、桃花の後ろにいた女性が呆れた顔でこちらを見ている。

「久しぶりー。何と言うか相変わらずだねー」

 朱里の腕を掴み揺するのを止め、その言葉に軽く返事をした。

「ほら朱里。この子がさっき言ってたまいさんだよ。そんでもう一人は苺……だよな?」

「イチゴ!?」

「もう一人な。名前だからな。ヨダレ拭け」

「どうも~」

 舞の後ろから髪の長い女性が、何度も軽く頭を下げながら姿を現す。

 桃花が二人に席を勧め、最後に桃花が座った。

「二人とも久しぶり。んっと桃花から聞いたかもしれないけど俺の横にいるのが幼馴染の立花朱里。そんで桃花の横にいるのが舞でそのさらに横が塩原苺しおばらいちご。この子も高校の時の友達」

「よろしくー」

 舞と苺が朱里に頭を少し下げながら挨拶をした。それとほぼ同じタイミングで定員がやってきた。

「おしぼりお持ちしましたぁああ!!ご注文のお飲み物になります!」

「あ、私カシスオレンジでお願いしますー」

「私もそれで」

 舞に苺が合わせるような形で二人が注文をした。癖の強い定員は強豪野球部並に声量で返事をしていった。

「あれ? ゆうちゃんお酒飲めないっけ?」

 僕がオレンジジュースを頼んでいた事に舞が気づいた。

「酒は飲めるけど、好きじゃないだけ」

「ゆーとはいつもオレンジジュースかコーラだよ」

 朱里がケラケラと笑いながら説明する。


 酒は好きじゃないだけ。自分に言い聞かせる。そう言い聞かせないと君との約束を思い出す。溢れだしそうになる思いをオレンジジュースで流し込んだ。

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