第3話
神様というものがいるなら、意地悪だ。そういう表現を何度も見聞きした気がする。だけど、意地悪なんて言葉では済まない。
神様というものがいるなら、神様は私を嫌っているのだと思う。
「…どちら様ですか?」
「突然すみません。そちら、金子仁さんのお宅ですよね?」
いつものように仁君の家で待っていると鳴ったインターフォン。
宅配かと思ってモニターも見ず通話ボタンを押したことを後悔した。
「仁君に、お会いしたくて…。」
モニター越しにそう言ったのは、綺麗な大人の女性。
私が一番恐れていた事件が起こったと確信した。
「どうぞ。」
「…お邪魔します。」
エントランスのドアを解錠し、自宅まで上がってきた彼女を招き入れる。モニター越しではなく顔を合わせると、予想通りというかなんというか‥確信してしまった。
仁君の“忘れられない女性”は、彼女だろうと。
目に涙を浮かべて小さく「懐かしい」と呟いた彼女は私を見ると笑顔を浮かべた。
「仁君の妹さんですか?」
「いえ、私は仁君の…。」
「…もしかして、彼女?」
その言葉に申し訳なくなり、小さくうなずくと彼女は慌てて謝る。
「すみません。随分若そうに見えたから…。すごく失礼な事言っちゃった。」
「いえ…。」
「申し遅れました。私、林優香といいます。仁君とは古くからの友人なんです。」
「…有海です。木村有海…。」
小さな声で呟いた私の名前に、優香さんは少しだけ首をかしげて不思議そうな顔を浮かべる。
「有海ちゃん…。」
「はい。」
「よろしくね。」
そして、何かを吹っ切ったような顔で笑った。
「まだ、ここに住んでてよかった。」
「何か御用でしたか?」
「あー、うん。少しだけ。」
優香さんはそうほほ笑む。その笑顔が綺麗で、なんだか恋をしているように見えて自分が卑屈になっている事を実感させられた。
ああ、ここに居るべきは私じゃない。
帰ろう。いやでも、一人にはなりたくない。
いいや、どこだって。
そう思ってバッグに手を伸ばした時だった。
玄関が開く音が聞こえる。
「有海!」
本当に急いで帰ってきてくれたのだろう。少しだけ慌てたように家に入ってきた仁君は
「優香先輩?」
まるで浮気がバレた彼氏かのように目を泳がせて、優香さんをその目に移す。
「仁君、ごめんね。突然。」
「あ、いや…。」
その気まずさになぜか私が泣きそうになりながら、そのままバッグを肩にかけた。
「どこ行くの?」
「どこだっていいでしょ。」
「ダメだよ。」
私達の会話を、優香さんは申し訳なさそうに聞いていて仁君は私の鞄とって、また元あった場所へ置く。
「ちょっと出てくるから、家に居て。いいね。どこへもいっちゃだめだよ。」
私に念を押すようにそういうと、彼は優香さんを誘って外へ出た。
優香さんの申し訳なさそうな表情と、玄関が締まる音が頭に焼き付く。
逃げることもできない。
1人残された家でどうしようもない孤独が私を襲う。
ネガティブ思考に支配された頭だけど、はっきりわかった。
私は、もう彼と共にはいられないのだと。
ソファーにうなだれるように座ると、お尻のしたに違和感を持ち触る。
「…これ。」
違和感の正体は、先ほど貰った小瓶。ポケットから取り出して、しばらく眺めた。
1人で飲むのは駄目だと言われたけど…。どうせ。気休めのサプリかなんかだろう。
もう死んでもいい。
仁君に振られるくらいなら。
自棄を起こした私は、そのままその瓶に口をつける。
「…うえ、まずっ…。」
コトン、と瓶をテーブルに置いた。
「何か起こる訳ないよね。分かってるもん。現実を受け入れなきゃ…。」
1人呟いた声は、空気をかすめてまた私の耳にはいる。
「帰ろう。」
今日は、仁君の顔を見れる気分じゃない。
そう思って立ち上がった時だった。
頭がぐらっと揺れる。急激な吐き気を催して思わず口をおさえた 。
さっきの薬のせい?
慌てて小瓶に目を向ける。
それがゆっくり霞んで、私の視界は真っ暗になった。
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