十日と石蕗

花萌橋 遼弥

十日と石蕗

12月10日 (木)


 信じるものがほしい。なんでもいいけどもう空っぽは嫌だ。


 昨日のカウンセリングの内容が頭にひっかかってる。

 人は誰しもどこかぽっかり穴が空いていて、その穴はどうしたって埋まることはない。それを埋めようとするのは人の自由だから、無理に埋めようとしなくていいんだよ、って。

 勝手だなって思った。私の傷も知らないのに好き勝手言われて、土足で私の世界に踏み入られたような気持ちになった。結局誰にも理解されないことが心地いいのかもしれない。勝手なのは私の方だな。

 

 とにかくこのイライラを発散したくててきとうに花言葉の本を買ってみた。その花がいつの誕生花なのかもわかるらしい。自分の誕生花でも探そう。お花とか言葉でいいから早く私を私にしてほしい。今日はもう目が疲れたから、また明日、寝る前にでも読もう。


 おやすみ


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12月11日 (金)


 花ってこんなにたくさんあったんだ。誕生花が一日一つじゃないのもそういうことなのかな。

 花言葉も色々あるんだね。暗いのから明るいのまで。

 愛に関係する言葉が多いなぁって感じた。もう私の手元には残ってない感情とかたくさんあった。誰が花に言葉を与えたんだろう。


 私の誕生日、12月28日の誕生花もいくつかあった。

 柘榴とか、ミカンとか、 熊笹とか、ストロベリーキャンドルなんてのも。

 その中でも一番目を引いたのは「ツワブキ」っていうお花だった。

 別に一際きれいとかではないし、名前だって華やかではない。ただ、少しエキゾチックで、花と葉が歪に不釣り合いで、どこか現実離れした見た目に興味がそそられた。

 どこに咲いてるんだろう。どの季節が見頃なんだろう。どんなふうに目に映るのかな。私の手には届かない、遠く離れた場所に在るんだろうな。

 こんな気持ちで満たされたのは、久しぶりだ。

 

 時間があれば、探してみよ。


 おやすみ


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12月12日 (土)


 嫌なことばっかり思い出す。もう忘れたいのに。


 人の冷たさがこわい。今日も強く当たられた気がした。なにか悪いことしちゃったかな。

 そういえば昔から人よりも不器用で周りに迷惑かけてばっかりだったな。歩み寄ってくれた人の神経も逆なでてしまっているような気がするから人と関わるのもこわいし。

 でも人のことを好きになってしまうのは止められなくって、報われるわけでもないのに勝手に好きになって、遠くから見てるだけしかできなかったな。心底そんな自分にうんざりだったし、息を吸うのもいやになったりして。


 あぁ、これ以上書いたら止まらなくなっちゃいそうだ。


 今日はもういいや


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12月13日(日)


 特に何もなかった。


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12月14日(月)


 ツワブキ、見つけた。


 アパートのドアを開けてすぐ目の前に咲いていた。なんで気づかなかったんだろう。もう枯れかけてるけど、写真でみたまんまだった。きれいとかは思わなかったけど、胸になにかが滲むような感じがした。どこかで感じたことがあるような感覚だった。


 こんな近くにあったんだ。不釣り合いな花と葉がどうしても愛おしくて、ちょっと笑ってしまった。いつまで、咲いているんだろう。誕生日まで咲いていてほしいな。


 少しだけ明日が来るのが楽しみだ。ドアを開ける瞬間が待ち遠しい。

 今日は早めに寝ようと思う。


 おやすみ


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12月15日(火)


 また嫌なことがあった。

 でも帰ってきたら黄色の花が咲っててくれるから、ちょっとは気持ちが楽になった気がする。本当に感謝してもしきれないや。


 ただ、いつまでも見て見ぬ振りはできないから、問題も解決していかないと。

 変わらないと。


 明日も頑張ろ。


 おやすみ

 

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12月16日(水)


 今日はカウンセリングがあった。

 

 ツワブキの話はしなかった。なんかちょっと恥ずかしくなってしまって話す機会を逃してしまった。でも、ちょっと明るくなったねって先生は言ってた。

 ただ、だんだんツワブキの花弁の色がくすんでしおれていってる。最近寒くなってきてるから仕方ないのかもしれないけど、明日には枯れてしまっているかもしれない。そう考えると、ちょっとさみしい。


 今日はいつもより冷えるな。もう寝よう。


 おやすみ


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12月17日(木)


 枯れてた。朝見たときは残り少なかった花弁の黄色も、帰ってきた時にはもうしおれてた。

 もっと早くにツワブキのこと知っていたら、もっとたくさん眺めていられたのかな。なんでいつもこう、タイミングが悪いんだろう。人も花も私のために待ってくれることはないのに。もう見れないのかな。来年も咲いてくれるだろうか。


 明日がこわい


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12月18日(金)


 一日中気分が沈んで仕方がなかったけど、ひさしぶりに花言葉の本を読んでみたら、少し晴れた気がする。


 ツワブキの花言葉を信じて、来年も待とう。きっとまた咲いてくれる。それまでは、頑張らなきゃ。あと十日だけ、ツワブキを想いながら、前は向いていたい。もうなんでもいいから、信じてみたい。

 ぽっかり空いた穴を埋めるのは私の自由。私は、この心の穴を空けたまま、生きていけないと思う。だから、この花に託してみたい。人に預けるのは、まだこわいから。


 明日から、どう生きよう。


 おやすみ




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 追記: 花言葉、愛は蘇る。

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