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 「ウホッホイ、ウホッホイ、捕まえたぁー」

足元のシダの茂みから、嬉しげな歓声が上がった。


「あっ、白蛇!」


 すっかり忘れていた。

 白蛇は、とぐろをまいている。うろこがぬめぬめと光って、なんだか、不気味だ。



「キー、キー」


 とぐろの中心から、悲しげな声が聞こえた。よく見ると、毛の生えた、ねずみのようなものが、しっかり巻き込まれている。



「なに、なによ!」

おねえちゃんが横っ飛びに飛びのく。



「捕まえた、捕まえた!」


 ねずみのような生き物を、とぐろでがっしりと巻き込め、白蛇は、得意げだった。

 ほとんど、半狂乱といっていいほど、舞い上がっている。


「圭太、おねえちゃん。よくお聞きなさい。これから氷河期が訪れ、恐竜は滅亡します。恐竜の時代はこれで終わります」



「その運命を変えるのではなかったの!? 人間の文明の力で!」

思わず圭太は叫んだ。


「そうよ! 今だったら、まだ、生き残っている恐竜だっているはずよ! その子たちを救い出して……」

おねえちゃんがこぶしを握る。



「いいえ。もう。いいんです。人間の道具によって恐竜を繁栄させることは、私はもう、諦めました」


 白蛇はここで、ぎゅっと力をこめた。


 きゅー。

 とぐろの真ん中のもふもふした毛の塊が、苦しげに鳴く。


「今この時代に、こいつらを殺せばいいんですよ。そうすれば、未来永劫、人類は出現しない」



「なによ、それ。どういうことよ」



「頭の悪い人ですね」


白蛇は、見下したように言う。


「地球を汚し、壊すのは、誰ですか? 大気汚染、温暖化、偏った富、そして戦争。人間は、自分のことしか考えない、自分勝手で愚かな生き物です。存在することは、許されない。恐竜がいる間は、哺乳類は進化しようがない。だから、恐竜には繁栄を続けてもらう必要があった。しかし、考え方を変えればいいのだ。恐竜が滅びても、とにかく、人類が出現さえしなければいい、と」


 赤い舌をぺろぺろ出した。

 笑っているのだ。


 とぐろに巻きつけたもふもふの頭を、ぺろりと舐めた。



「今から私は、こいつを殺します。そしたら……」



 感極まったのか。

 一瞬、白蛇は目を閉じた。下から上がった瞼が、眼球を覆い隠す。

 すぐに、かっと見開いた。



「そしたら、地球の支配者は、我々、爬虫類だ! 恐竜の次に地球を支配するのは、実に、我々蛇一族なのです」



 高らかに宣言した。その姿は、今まで旅を共にしてきた白蛇とは、全然違って見えた。全然違って……もっと邪悪で、いやらしいものに見えた。


 とぐろの中の、苦しげな声が弱々しく響く。



 「しっぽの中の、そいつは?」


白蛇の剣幕に押されて、恐る恐る圭太は問うてみる。



「おお、よくぞ聞いてくれました。このしゅこそ、隕石衝突にも耐えて生き抜いた哺乳類の一種、いずれ分化して人間になる、まあ、君らの遠い先祖です」


こらえきれずに、白蛇は、ひひひ、と不気味な声で笑った。


「圭太君。君のお陰ですよ。君がタイムパラドックスについて、教えてくれたから。だから。私は、考えたんです。人類を滅ぼすのでは、手遅れだ。それより、最初から人類を発生させなければいい、って」



 白蛇の尾にがっちりと巻き込まれたそいつの目に、涙が光ったように、圭太は感じた。


「やめなよ。苦しがってるよ」


「いいんですよ、こいつら、どうせ皆殺しにするのですから」



「ちょっと、どういうことよ」

おねえちゃんが叫ぶ。



「ひひひ。未来から、いろいろな病原菌を頂いてきましてね。哺乳類を大量死させる、ウイルスです。これを、この時代のあちこちにばらまきます」



「そんなことしたら、君らの先祖だって死ぬことになるんだぞ!」


 びっくりして圭太は叫んだ。姿が見えなかったと思ったら、白蛇の奴、ウイルスを集めにタイムトラベルしてたんだ。


 それにしても、蛇が地球を支配するって?



「我々は大丈夫。それによって死に至るのは、哺乳類だけです。哺乳類に対して発動するウィルスですから。コレラとかチフスとかインフルエンザ、とかね」


白蛇は余裕しゃくしゃくだ。


「ウィルス……」


 圭太はぞっとした。

 そんなものを意識的に流行らせたなら、この時代の哺乳類など、ひとたまりもないだろう。







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