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 「圭太」


 鳥たちの歌声が途切れると、グノールが呼んだ。

 見ると、小型のラプトルの肩に、かわいらしい小鳥が止まっていた。


「飛べなくても、いいんだ。だって彼女は、いつでも、僕のところへ帰ってきてくれるから。僕のきょうだいたちも!」


 ……彼女?



「へえ」

 間抜けな声を出したのは、おねえちゃんだった。

「いつの間に……」



「長い間、ありがとう」

 グノールは言った。

「君たちの活躍を、祈っているよ」


「ま、待って! 冷凍庫、買わない?」


 任務に失敗したら、食べられてしまう。

 その原則を、忘れるわけにはいかない。



「いらないよ!」

朗らかに、殆ど歌うように、グノールは答えた。

「僕と彼女は、2人で子どもを育てるもの! 餌も、2人で協力して運ぶから、大丈夫」

「……はあ」


「それにね。冷凍のネズミは、やっぱりちょっと、冷たかったよ。しゃりしゃりしてたしね。哺乳類は、新鮮なのが、何よりだね!」


 穏やかに、グノールは笑った。



「シッパイ、ケイタ、オネエチャン、マタ、シッパイ!」


 上から声が降ってきた。

 カイバだ。


「クワレル! ケイタ、オネエチャン、キョウリュウ ニ、クワレル!」



「僕はこの人たちを、食べたりしない!」


 グノールが、鼻から息を噴き出した。



「キャーーーーーーーーーッ」


 かぴかぴに干からびたタツノオトシゴは、遠くに吹き飛ばされていった。



「僕には、君たちに仕事を依頼した記憶がない。依頼してないんだもの、失敗も成功もないよ。だから、ハッピーだいちゃん♡ は、失敗なんか、していない」


「そっかー!」

圭太は感心した。


 すごい三段論法だ。

 ラプトルは、頭がいいと言われるわけだ!




「さ、行くわよ、圭太」

おねえちゃんが、圭太の尻尾を引っ張った。


「え? もう?」


 グノールと、別れがたかった。だって、圭太たちが、手塩にかけて育てた(あっという間に育ったけど)ラプトルだもの。



「あたしたちは、お邪魔虫。気を利かせなさいよ!」


「え……でも……」



 圭太は立ち止まり、振り返った。


 グノールの肩に止まった小鳥が、彼の頬をくちばしでつついた。グノールは首を傾げ、くすぐったそうに笑っている。


 自分たちを見つめている圭太たちに気がつき、グノールは、ひどく照れくさそうだった。



 強引に、おねえちゃんが、圭太を引っ張っていった。

 グノールは、引き留めなかった。







◇:*:☆:*:◇:*:☆:*:◇:*:☆:*:◇:*:☆:*:◇


お話の中にあるように、ラプトルの色については、ミクロラプトルの羽毛の他は、わかっていません。

グノールは、だから、特定のラプトルではありません。こんな派手なのがいたら楽しいだろうなあ、という、私の願望でした。







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