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「それで、なんで、現代から哺乳類を?」
スーパーおろち号の指令室で、白蛇がむくれいている。
「だって、足りないんだもの。餌が」
「親鳥が持ってくるだけじゃ、ぜんぜん、足りないんだ!」
雛鳥たちと一緒に孵ったグノールを、鳥のお父さんとお母さんは、全く怪しまなかった。
自分の子どもたちと同じように、懸命に育てようとした。
けれど、恐竜は、鳥よりも、はるかにたくさん食べる。
「仕方ありませんね。ひな鳥たちには死んでもらいましょう。弱肉強食です」
あっさりと白蛇は言った。
「ちょっと! それじゃ意味ないでしょ! 今までの苦労が水の泡よ!」
「そうだよ! グノールは、鳥たちと、仲良くなりたいんだ! 一緒に育ちたいんだよ!」
「なら、あなた方が、餌を運んであげればいいでしょ?」
自分で言って、いい考えだと言わんばかりに、白蛇が鎌首を擡げた。
「あなた方が、小さな動物を捕まえて、巣に放り込んでやればいいんですよ!」
「そこが問題なんだ!」
「問題? どこが? 手間を惜しむのはいけませんねえ。子育ては、時間と手間がかかるものです」
「そうじゃなくて!」
圭太は足を踏み鳴らした。
まったくじれったい白蛇だ。
「タイムパラドックスだよ!」
「タイムパラドックス?」
「そう。グノールを卵に戻した時点で、すでに、タイムパラドックスが生じている。この上、僕らがえさを捕まえて、彼に食べさせたら。ラプトルの好きな、哺乳類を!」
……もしそれが、人間の先祖になる哺乳類だったら。
「あたしたちは、生れてこれなくなっちゃうのよ!」
「えと……」
「今、ここにいる僕たちが、消えてしまうかもしれないんだ!」
「それは大変!」
ようやく、白蛇にも、飲み込めたようだ。
「ラプトルが自分で捕食するならともかく、未来から来たあなた方が狩りをするとなると、確かに、問題があるかもしれませんね」
「かといって、鳥の親の運んでくる餌じゃ、とても足りないわけだし」
すかさずおねえちゃんが補足する。
「もし万が一、グノールが他の子たちの分まで食べちゃって、雛が死んでしまったら、彼は、どんなに傷つくか!」
言いながら圭太は、胸が痛くなった。
グノールを、そんな目に遭わせてはいけない。断じて。
「だから、『現代』から、運んできてほしいんだ。ネズミやモグラなんかの小動物を、ね!」
「うーーーーーん」
白蛇は渋い顔をした。
「私がネズミ捕りをするわけですか? 『現代』で?」
「売ってるから!」
口を挟んだのは、おねえちゃんだった。
「冷凍になって、売ってるから」
爬虫類や猛禽類などの、ペットの餌として、冷凍ネズミが売っているのだ、と、おねえちゃんは説明した。冷凍パックされたネズミを、実際に見たことがある、という。
「蛇の餌用に売ってたしぃ。あんただって知ってるでしょ、白蛇」
「私は、ヒトの、ペットなんかじゃありませんので」
白蛇は、むっとしたようだった。
「そしたら、それも売れるじゃん? 冷凍庫とか、真空パックとか!」
だが、圭太が口を挟むと、白蛇は、目を輝かせた。
「なるほど! 冷凍庫か。これは、大きな売り上げになりますね」
電気はどうするのだろう、と圭太は思ったが、とりあえず、口にチャックをした。
今は、余計なことは言わない方がいい。
「わかりました! では、現代に行ってきます!」
ようやく、白蛇は納得した。
彼は、なぜか、ひどく嬉しそうだった。
「それにしても、あなたは、頭がいいですね、圭太」
「え?」
褒められたのか?
白蛇に褒められるなんて……。
「タイムパラドックスですよ! そうか。今のうちに哺乳類を……」
にかっと、大きな口を開けた。
「何? 何の話?」
おねえちゃんが首をかしげる。
実は、おねえちゃんは、タイムパラドックスには、いまいち、懐疑的なのだ。
というより、よくわかっていないらしい。
「なんでもありません。では引き続き、ラプトルの養育を、お願いしますよ!」
圭太とおねえちゃんは、力強く、頷いた。
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