44
「あはは。それは災難だったねえ」
圭太の話を聞いて、おねえちゃんは笑った。
けがもなく、健康そのものの、つやつやした顔色をしている。
対して圭太は、おでこのあたりに、派手な絆創膏を貼られていた。
スーパーおろちの外に出て、毛むくじゃらの動物の姿になった今でも、この絆創膏は、取ることを許されなかった。
……。
「白亜紀のバイキンが入ったら、大変です!」
デッキから、白蛇が、金切り声で叫んだものだ。
「絆創膏ぐらい、我慢しなさい!」
……。
……だって、このまま絆創膏がはがれたら、痛いんだよ。
……絆創膏と一緒に、毛が、たくさん抜けちゃうから。
「なんで、なかなか帰ってきてくれなかったのさ!? おかげで僕一人で、大変な目に遭ったんだよ!」
圭太はむくれた。
おねえちゃんは、けろりとしている。
「カイバがいたじゃない」
「カイバは僕を、助けてくれなかった!」
向こうは、夫婦2羽で襲ってきたというのに!
「カイバ、トリ、キライ。トリ、イタラ、ニゲル」
きっぱりとカイバが言いきった。
深い深いため息を、圭太はついた。
「ああ。でこが痛い……」
「ラプトルが……グノールのパパね。そいつが、なかなか、いなくなってくれなくて」
木の前に、でんと居座っていたのだと、おねえちゃんは説明した。
「うろの中は、暖かくてねえ。ちょうどいい狭さだったし。それで、つい、うとうとと……」
気がついたら、夜になっていたという。
さすがに、巣に残してきた卵が心配になったのだろう。ラプトルの父親の姿は消えていた。
「でも、圭太だって悪いわよ」
おねえちゃんの目が、険悪な光を帯びた。
「チョキが出せないのに、じゃんけんなんかさせるから!」
「おねえちゃんも、パーを出せばよかっただろ!」
「咄嗟に出なかったのよ! 決して、チョキが出せないことを忘れてたわけじゃないわ!」
「しっ! 声が大きい」
慌てて圭太はおねえちゃんを黙らせた。
ここは、あの鳥の夫婦の、巣の下だ。
そろそろ、卵が孵るころだ。
鳥の親にみつかるとまずいので、圭太とおねえちゃんは、頭に、枯れ葉を乗せている。2人で、大きな木の、影になるところに潜んでいた。
何日、そうして、見守っていたろう。
時折、くぐもった小さな音が聞こえるようになっていた。
雛が、卵の内側から、殻を叩いている音だ。
雛たちはこうやって、同じタイミングを計って、孵化する。
雛たちの立てる音を、卵の中で、グノールも聞いている筈だ。彼自身も、かたい殻を、くちばしで叩いているかもしれない。
……孵化する前から、グノールは、鳥の仲間なんだ!
ググググググ。
かすかな音が聞こえた。
かすかだが、くぐもっていない。
卵の中からじゃない。
外で鳴いている!
「ねえ……」
「あっ!」
2人は同時に、巣を見上げた。
黄緑色の長い顔、頭にオレンジ色のとさかを乗せがラプトルの赤ちゃんが、圭太たちを、見下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます