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「何の話をしているの?」
グノールが、こっちを見ている。
「僕、スーパーおろちの、超音波広告を聞いた。君ら、まだ、仕事の失敗を、してないみたいだね」
「成功もしてないけどね」
謙虚に、圭太は本当のことを述べた。
トリケラトプスの折れた角は、完全には治せなかったし。
セイスモサウルスのおじいちゃんを、助けることもできなかった。
スピノサウルスは海に帰れたけど、道具は要らないと、断られちゃったし。
「でも、今まで食われなかったってことは、それなりに評価していいんじゃない?」
グルノールが、前足の羽をばさばささせている。
「そうよ。私たちは優秀なんです、ラプトルさん!」
おねえちゃんが胸を張った。急に自信がついたようだ。
「だから、やっぱり、ちょっとだけ、モフらせて?」
「いいよ」
「わーい!」
まるで磁石に引かれるように、おねえちゃんが、ラプトルに近づいていく。
近くの岩によじ登った。
「どの辺を、モフりたい?」
「頭」
ラプトルが頭を下げた。
「うわあ」
小動物の両手で、ラプトルのオレンジ色の頭をもふもふと、撫でる。
「うわあ」
うっとりしている。
「……」
岩の下で、圭太は、憮然としていた。
肉食恐竜を、カワイイとか? モフるとか!
なんだかひどい冒とくのような気が、圭太にはしていた。
けれど、オレンジ色の頭をもふもふしているおねえちゃんは、とても幸せそうだ。
うらやましい。
うらやましすぎる。
「僕にも!」
走って行って、後ろ足に飛びついた。
「……あれ?」
膝から下に長く伸びた足には、羽毛はなかった。ニワトリの足のように、裸だ。そして、指の先には、長いかぎ爪がついていた。
「変わったところをなでるね」
上からグノールの声が降ってきた。
「いや、あの……」
「ほら」
前足の、羽で隠れていた指先で摘まみ上げる。
そこにもやっぱり、かぎ爪が隠されていた。
「うへえ!」
「大丈夫。君を引き裂いたりしないから」
爪の先でそっと摘まんで、岩の上に乗せる。
「ほら、どうぞ」
再び、頭を差し出した。
「もふもふ、もふもふ」
おねえちゃんは、グノールの頭をなでている。ちょっと、半狂乱のようになっている。その横で、圭太も、恐る恐る、手を出してみた。
「わっ。やわらかい」
「ねっ! カワイイよねっ」
蛍光オレンジの羽毛は、とても柔らかく、ぬくぬくしていた。体温がかなり高いようだ。細かな肌触りで、とても気持ちいい。
長いかぎ爪のことなんか、あっという間に忘れた。圭太も、夢中になって、ラプトルの頭をなで続けた。
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