37
「どこかしら」
「この森のどこかで待ってるはずだよ」
小さな動物の姿になって、圭太とおねえちゃんは、進んでいく。
熱帯雨林、という感じではない。木々の間はゆるやかに
「森の、入口近くにいるって、白蛇は言ってたけどなあ……」
依頼の内容は聞いていなかった。
本人(竜)が、直接、話すというのだ。
……
「なんだかひどく、照れくさそうですねえ」
受信した紙を見ながら、白蛇は言った。細い紙に、ぽつぽつ開けられた穴からは、依頼してきた恐竜の心理状態も、わかるという。
「照れくさい?」
「大方、恋の悩みじゃないでしょうか? そんな匂いがする」
今度は、紙の匂いを嗅いでいる。
電波で伝えられた信号から、匂いがするなんて!
圭太は呆れてしまった。
……。
「ねえ。もう疲れちゃった。この辺でひとやすみしな、」
おねえちゃんが言いかけた時だった。
がさがさがさ。
すぐ横の茂みが動いた。
「うわっ!」
茂みではなかった。
そこには、カンガルーのような動物が立っていた。
目が覚めるような黄緑色の。
「遅かったねえ。僕は、グノール。ラプトルのグノールだ」
「うきゃあ! カワイイ!」
おねえちゃんの目が、ハートになった。
「あれ? スピノサウルス・ラブじゃなかったの?」
思わず圭太はつぶやいた。
「シレンが好きじゃなかったの?」
「シレン? 誰だっけ。……ああ、スピノサウルスか」
どうやらおねえちゃんにとって、シレンは、「過去のオトコ」になってしまったようだ。
……女の子って、怖い。
圭太は怯えた。
「ねえ、圭太! この子ったら、とってもラブリーよ!」
グノールと名乗ったこのラプトルには、全身に、明るい緑色の、羽毛が生えていた。
二本足で立ち上がり、高さは、人の腰くらいまでだろうか。
胸の辺りに上げた前足は、羽で覆われている。まるで小型の翼みたいだ。
頭のてっぺんには、羽毛が盛り上がっていた。まるで、とさかみたいだ。しかも、そのとさかは、派手な蛍光オレンジだった。
長い尻尾も、目の覚めるような、ド派手なオレンジ色だ。
「もふもふ、もふもふだわっ!」
引き寄せられるように、おねえちゃんは、ラプトルに近づいていく。
「ねえ。もふっていい?」
「いーよ」
グノールと名乗ったラプトルは、おおらかに笑った。
「けどさ。僕らの主食は、哺乳類なんだよね。君らくらいの大きさの」
「きゃっ!」
慌てたおねえちゃんは、ぴょんと後ろへ飛び下がった。
その拍子に、圭太にぶつかった。
「あれ、肉食恐竜よ」
声が震えている。
「ラプトルなら、そうだよ」
これは、ヴェロキラプトルだろうか、それとも、オヴィラプトル? 大きさや場所から、ユタラプトルじゃないよな。
一生懸命圭太は考えたけど、わからなかった。
せっかく、世紀の大発見、恐竜の色がわかったというのに!
「大丈夫。君らを食べたりしないから。まだ、今はね」
グノールが笑った。
大きな口から覗く歯は、横に、のこぎりのようなぎざぎざがついている。
明らかに、肉食恐竜の歯だ。
「哺乳類なら、他にいっぱいいるし」
「哺乳類の中には、人間の先祖もいるのよね?」
こそこそと、おねえちゃんが念を押す。
「いるよ」
圭太は答えた。
ひえっ。
おねえちゃんが震えあがった。
「もしもそいつが食べられちゃったら、未来は、どうなるのかな」
もしも、人間の祖先になる哺乳類が、恐竜に、食べられてしまったら?
圭太が生まれることはない。
圭太の友達も。
お母さんも。
「べつにいいんじゃない?」
「ええーーーっ!」
おねえちゃんがのけぞった。
「この、ヒトデナシ! じゃなくて、ヒコクミン! あれ、違う。ヒ、ホニュウルウイ……ヒ、ニンゲン……」
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