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 「どこかしら」

「この森のどこかで待ってるはずだよ」


小さな動物の姿になって、圭太とおねえちゃんは、進んでいく。


 熱帯雨林、という感じではない。木々の間はゆるやかにいていて、どちらかという、林みたいな感じだった。けもの道のように、細く踏み固められた帯の上を、圭太とおねえちゃんは、進んでいく。



「森の、入口近くにいるって、白蛇は言ってたけどなあ……」


 依頼の内容は聞いていなかった。

 本人(竜)が、直接、話すというのだ。




 ……


 「なんだかひどく、照れくさそうですねえ」


 受信した紙を見ながら、白蛇は言った。細い紙に、ぽつぽつ開けられた穴からは、依頼してきた恐竜の心理状態も、わかるという。


「照れくさい?」


「大方、恋の悩みじゃないでしょうか? そんな匂いがする」


 今度は、紙の匂いを嗅いでいる。


 電波で伝えられた信号から、匂いがするなんて!

 圭太は呆れてしまった。


 ……。




 「ねえ。もう疲れちゃった。この辺でひとやすみしな、」

おねえちゃんが言いかけた時だった。


 がさがさがさ。

 すぐ横の茂みが動いた。


「うわっ!」


 茂みではなかった。


 そこには、カンガルーのような動物が立っていた。

 目が覚めるような黄緑色の。



「遅かったねえ。僕は、グノール。ラプトルのグノールだ」


「うきゃあ! カワイイ!」

おねえちゃんの目が、ハートになった。


「あれ? スピノサウルス・ラブじゃなかったの?」

思わず圭太はつぶやいた。


「シレンが好きじゃなかったの?」


「シレン? 誰だっけ。……ああ、スピノサウルスか」


 どうやらおねえちゃんにとって、シレンは、「過去のオトコ」になってしまったようだ。


 ……女の子って、怖い。

 圭太は怯えた。



「ねえ、圭太! この子ったら、とってもラブリーよ!」


 グノールと名乗ったこのラプトルには、全身に、明るい緑色の、羽毛が生えていた。


 二本足で立ち上がり、高さは、人の腰くらいまでだろうか。


 胸の辺りに上げた前足は、羽で覆われている。まるで小型の翼みたいだ。


 頭のてっぺんには、羽毛が盛り上がっていた。まるで、みたいだ。しかも、そのは、派手な蛍光オレンジだった。


 長い尻尾も、目の覚めるような、ド派手なオレンジ色だ。



 「もふもふ、もふもふだわっ!」


引き寄せられるように、おねえちゃんは、ラプトルに近づいていく。


「ねえ。もふっていい?」



「いーよ」


 グノールと名乗ったラプトルは、おおらかに笑った。


「けどさ。僕らの主食は、哺乳類なんだよね。君らくらいの大きさの」



「きゃっ!」


 慌てたおねえちゃんは、ぴょんと後ろへ飛び下がった。

 その拍子に、圭太にぶつかった。


「あれ、肉食恐竜よ」

声が震えている。


「ラプトルなら、そうだよ」



 これは、ヴェロキラプトルだろうか、それとも、オヴィラプトル? 大きさや場所から、ユタラプトルじゃないよな。


 一生懸命圭太は考えたけど、わからなかった。

 せっかく、世紀の大発見、恐竜の色がわかったというのに!



「大丈夫。君らを食べたりしないから。まだ、今はね」


 グノールが笑った。


 大きな口から覗く歯は、横に、のこぎりのようなぎざぎざがついている。

 明らかに、肉食恐竜の歯だ。


「哺乳類なら、他にいっぱいいるし」



「哺乳類の中には、人間の先祖もいるのよね?」

こそこそと、おねえちゃんが念を押す。


「いるよ」

圭太は答えた。


 ひえっ。

 おねえちゃんが震えあがった。


「もしもそいつが食べられちゃったら、未来は、どうなるのかな」



 もしも、人間の祖先になる哺乳類が、恐竜に、食べられてしまったら?

 圭太が生まれることはない。


 圭太の友達も。

 お母さんも。



「べつにいいんじゃない?」


「ええーーーっ!」

おねえちゃんがのけぞった。

「この、ヒトデナシ! じゃなくて、ヒコクミン! あれ、違う。ヒ、ホニュウルウイ……ヒ、ニンゲン……」







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