ラプトル

36


 海岸線から帰ってきたばかりの圭太たちを、白蛇が出迎えた。


「さあ、仕事仕事! 新しいお仕事が入りましたよん」


「ええーーっ! 少しは休ませてよ!」


 ここは、スーパーおろち号先頭車両だ。豪華なソファーに、どんと腰を下ろして、おねえちゃんが不平を垂れた。


「やっと人間の姿に戻れたところなのに」



「何言ってんですか! お仕事があるのはいいことです。働かざる者、食うべからずですよ!」



「そういうあんたはどうなのよ!」


 おねえちゃんが白蛇を睨んだ。シャワーを浴びたばかりの髪を振り立て、ぷりぷりしている。


「スピノサウルスの依頼では、あんた、スーパーおろちから、一歩も出なかったじゃない」



「えええーーーーっ! ひどい! 私は、白亜紀と現代を往復したじゃないですか! 丈夫で巨大なパラグライダーを作らせるのには、何日も徹夜しなくちゃなりませんでした。また、強力なサーキュレーターを探すのに、東奔西走、」


「それで、今度はどんな仕事なの? 依頼竜は、誰?」


 圭太は割って入った。

 次はどんな恐竜に出会えるかと思うと、わくわくする。


「そうよ! 早く言いなさいよ!」


 自分が話をそらせたくせに、おねえちゃんが催促する。


「体の大きな生き物って、ステキ! スピノサウルスは、紳士だったわ!」



 最初は、恐竜なんて大嫌いだ、って言ってたくせに。


 どうやらおねえちゃんは、スピノサウルスのシレンのことを、好きになってしまったようだ。


 シレンの方は、おねえちゃんのことを、友達としか思っていないみたいだった。だから、おねえちゃんの恋は、完璧に片想いだ。



 思わず圭太はつぶやいた。

「気の毒に」


「何? 何か言った?」

「えっ? あっ! 何でもない!」



「体の大きな生き物がステキ、ですって?」

 白蛇が、首をぐるっと回した。人間なら、肩を竦めた感じだ。


「恐竜は、みんながみんな、巨大なわけじゃ、ないんですよ? 残念ながら、今回の依頼竜は、小型の恐竜です」


「なあんだ。つまんないの」

あっさりとおねえちゃんが匙を投げた。


 だが、圭太は違う。

「小型だっていいじゃん。どの恐竜なの?」


 恐竜は恐竜だ。小さくたって、それなりの特徴がある。

 次はどんな恐竜に会えるのだろう。早く知りたい。


「ラプトルです」


「出た、ラプトル!」


 圭太は、飛び上がった。

 凄く嬉しい。


「なに、ラプトルって?」


圭太のはしゃぎぶりに、おねえちゃんも興味を引かれたようだ。


「動きが早くて、頭がいいんだ! それに……彼らには、羽毛があるんだよ!」


「羽毛!」


「実際のラプトルを見れるんだ! いったい、どんな風に羽毛が生えているんだろう。その羽毛は、どんな色をしてるんだろう……」



 長く、恐竜の色は、謎とされてきた。


 ところが最近になって、ちょっとだけ、色がわかる恐竜が出てきた。

 羽毛の化石のおかげである。


 羽毛が柔らかい泥の間で化石になった場合、色を表す粒子まで、泥に転写されて残っていたりする。


 この粒子を電子顕微鏡で調べると、羽毛の色がわかるというのだ。


 ただ、実際に色が分かったものはごく少ない。それも、黒や白や灰色ばかりだ。しかし、中には、オレンジと白の縞模様などという、はっちゃけている恐竜もいたことがわかっている。


 ラプトルの仲間では、ミクロラプトルがほぼ黒かったというが、あれは、すごく小さい恐竜だ。身を守る為に、地味にならざるを得なかったのだろう。


 でも、もっと大型のラプトルなら……。



 「白亜紀が続きます。後期へ。地理、北へ移動ゲオグラフィカリー・ムーブ、ノース……」



 白蛇が叫ぶ。

 スーパーおろち号は、悠然と、舵を切った。

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