34
「考えよう!」
必死で圭太は言った。
急に、水の音が大きくなった気がする。
「滝を無事に下る方法を」
「波乗り!」
すかさずおねえちゃんが叫ぶ。
「海じゃないんだよ? 滝の落下だもん、波なんかない!」
「垂直に走り抜ける!」
「滝つぼに真っ逆さまだよ!」
圭太は泣きたくなった。
「どうやって……どうやって……」
「圭太……」
おねえちゃんが絶句した。
その視線の先を追って、圭太も息を呑んだ。
満々と続いていた川が、突如として、なくなっている。
行先には、立ち上る細かな霧と、その上に、抜けるような青空が見えるだけ。
ごうごうと水の落ちる音が、急に大きくなった。
滝だ。
あの先は、滝なんだ!
「どうしよう……」
「君らには、便利な道具があるんだろ?」
その時、水の中から声がした。
シレンだった。
「何か、使えるものはないの?」
「ヘリ! ヘリコプター!」
滝の音に負けじと、圭太は叫ぶ。
「ダメです! 滝はもうすぐそこだ。恐竜を固定している時間がありません!」
空から白蛇の声が降ってきた。
「うーーーーー」
「私達だけで逃げたりしない!」
再びおねえちゃんが、大声で確認する。
「考えるのよ、圭太!」
ぎゅっ、と、圭太は目をつぶった。
滝の音は、まるで雷鳴のように大きくなっていた。まともにものを考えられる状況ではない。
……集中するんだ。
瞼に力をこめる。目の前に、赤や青の点が、浮かんで見えた。
「風船……」
「風船?」
「ダメだ、気球に熱をこめている時間なんてない。そうだ! パラグライダーだ!」
「パラグライダー!?」
「白蛇! パラグライダーを持ってきて! とびきり丈夫で、大きい奴!」
「まさか! 恐竜に装着する気ですか!?」
「そうだよ!」
「いったいどれだけの大きさの……」
「未来の時間なら、いくらでも使えるだろ! 早く! 早く行って、作ってもらって!」
しゃっ!
返事をする間もなく、白蛇と、彼を乗せたスーパーおろち号の姿は、空宙に消えた。
一瞬の後。
スーパーおろちが虚空に現れた。
限界まで川に近づく。
「使えるかどうか……」
白蛇が現れた。
げっそりした顔をしている。
無我夢中だった。
圭太とおねえちゃんは、パラグライダーのロープ(それはほとんど、鋼鉄だった)を、スピノサウルスに括り付け始めた。
顎の下と。
しっぽと。
両端にしっかりと結びつける。
それから、手分けして、尻尾の付け根と、胴体に結わえていく。
帆のような背びれは、骨が折れないように、ゆるく結び付けた。
「なにそれ?」
不安そうに、シレンが尋ねる。
「これに風をはらんで、飛ぶんだ」
圭太は答えた。
ロープの反対の端には、丈夫な防水の布が取り付けられている。
この布で、凧のように、空に浮かび上がることができるはずだ。
「ついでに、大きなサーキュレーターを借りてきました。私は、滝の上から、風を送ります」
「頼んだ、白蛇!」
圭太が叫んだ直後……。
ふわり。
恐竜の体が、宙に浮いた。
落下する水の音が、凶暴な響きをあげて、立ち上ってくる。
圭太とおねえちゃんを背中にのせたまま、スピノサウルスは、ゆらゆらと、霧の中を漂う。
圭太の全身は、たちまち、霧でぐっしょりになってしまった。
ぶおーーーーーーーっ!
後ろから、激しい風が吹きつけてきた。
パラグライダーが、うまく滑空できるよう、スーパーおろちが、援護の風を送っていた。
滝の音をかき消すほどの強風だ。
「うわっ! 揺れ、」
おねえちゃんの悲鳴が、途中で途切れた。
揺れが激しく、圭太も舌を噛みそうだ。
「しっかりつかまって!」
足元から、シレンの声がする。
2人はもう、声も出せず、シレンの背びれにしがみついた。
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