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 「考えよう!」


 必死で圭太は言った。

 急に、水の音が大きくなった気がする。


「滝を無事に下る方法を」



「波乗り!」

すかさずおねえちゃんが叫ぶ。


「海じゃないんだよ? 滝の落下だもん、波なんかない!」


「垂直に走り抜ける!」


「滝つぼに真っ逆さまだよ!」

圭太は泣きたくなった。


「どうやって……どうやって……」




 「圭太……」

おねえちゃんが絶句した。


 その視線の先を追って、圭太も息を呑んだ。

 満々と続いていた川が、突如として、なくなっている。


 行先には、立ち上る細かな霧と、その上に、抜けるような青空が見えるだけ。

 ごうごうと水の落ちる音が、急に大きくなった。



 滝だ。

 あの先は、滝なんだ!



「どうしよう……」


「君らには、便利な道具があるんだろ?」


 その時、水の中から声がした。

 シレンだった。


「何か、使えるものはないの?」


「ヘリ! ヘリコプター!」

滝の音に負けじと、圭太は叫ぶ。


「ダメです! 滝はもうすぐそこだ。恐竜を固定している時間がありません!」

空から白蛇の声が降ってきた。


「うーーーーー」


「私達だけで逃げたりしない!」

再びおねえちゃんが、大声で確認する。

「考えるのよ、圭太!」



 ぎゅっ、と、圭太は目をつぶった。


 滝の音は、まるで雷鳴のように大きくなっていた。まともにものを考えられる状況ではない。


 ……集中するんだ。


 瞼に力をこめる。目の前に、赤や青の点が、浮かんで見えた。


「風船……」

「風船?」


「ダメだ、気球に熱をこめている時間なんてない。そうだ! パラグライダーだ!」

「パラグライダー!?」



「白蛇! パラグライダーを持ってきて! とびきり丈夫で、大きい奴!」


「まさか! 恐竜に装着する気ですか!?」


「そうだよ!」


「いったいどれだけの大きさの……」


「未来の時間なら、いくらでも使えるだろ! 早く! 早く行って、作ってもらって!」



 しゃっ!

 返事をする間もなく、白蛇と、彼を乗せたスーパーおろち号の姿は、空宙に消えた。



 一瞬の後。

 スーパーおろちが虚空に現れた。


 限界まで川に近づく。



「使えるかどうか……」


 白蛇が現れた。

 げっそりした顔をしている。


 無我夢中だった。

 圭太とおねえちゃんは、パラグライダーのロープ(それはほとんど、鋼鉄だった)を、スピノサウルスに括り付け始めた。


 顎の下と。

 しっぽと。

 両端にしっかりと結びつける。


 それから、手分けして、尻尾の付け根と、胴体に結わえていく。

 帆のような背びれは、骨が折れないように、ゆるく結び付けた。



「なにそれ?」

不安そうに、シレンが尋ねる。


「これに風をはらんで、飛ぶんだ」

圭太は答えた。



 ロープの反対の端には、丈夫な防水の布が取り付けられている。

 この布で、凧のように、空に浮かび上がることができるはずだ。



「ついでに、大きなサーキュレーターを借りてきました。私は、滝の上から、風を送ります」


「頼んだ、白蛇!」



 圭太が叫んだ直後……。


 ふわり。

 恐竜の体が、宙に浮いた。



 落下する水の音が、凶暴な響きをあげて、立ち上ってくる。



 圭太とおねえちゃんを背中にのせたまま、スピノサウルスは、ゆらゆらと、霧の中を漂う。


 圭太の全身は、たちまち、霧でぐっしょりになってしまった。



 ぶおーーーーーーーっ!


 後ろから、激しい風が吹きつけてきた。

 パラグライダーが、うまく滑空できるよう、スーパーおろちが、援護の風を送っていた。


 滝の音をかき消すほどの強風だ。



「うわっ! 揺れ、」

おねえちゃんの悲鳴が、途中で途切れた。


 揺れが激しく、圭太も舌を噛みそうだ。



「しっかりつかまって!」

足元から、シレンの声がする。


 2人はもう、声も出せず、シレンの背びれにしがみついた。







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