33



 「うわあ! 楽ちーん!」

 スピノサウルスの背中で、おねえちゃんは、上機嫌だ。

「このまま海まで、レッツ・ゴーよ!」



 圭太は、腹ばいになり、水に顔をひっつけるようにしていた。


 スピノサウルスの尾の動きが、素晴らしいのだ。


 左右に大きくくねらせ、水を掻きわけている。力強いだけではなく、とても優美な動きだ。


 よく見れば、シレンの尾は、まるでオールのような形をしている。


 短い手足は、胸と腹の辺りにひきつけられていた。泳ぎの、邪魔にならないようにだ。



 圭太とおねえちゃんは、背中の帆のような突起のてっぺんにいた。


 だから、今はシレンは、その部分を、水の外へ出してくれている。だが、完全に水の中へ潜れば、この突起は、水の抵抗を受け流す役割を果たすだろう。ちょうど、魚の背びれのように。



 ちゃぽん。


 すれ違ったカエル……にしては大きかったが……が、驚いたように、こっちを見ている。


 小魚の群れが、すぐ近くまでやってきて、すぐに逃げていった。




 らくちんで、そして、楽しかった。


 川の匂いが、鼻をくすぐる。


 隣ではしゃぐおねえちゃんがうるさかったが、このままどこまでも、流されていきたかった。






 「大変です! そこにいたらダメです!」

頭上から声が降ってきた。


 のんびりと川の旅を楽しんでいた圭太とおねえちゃんは、びっくりして空を見上げた。


 スーパーおろち号だった。


 いつの間に現れたのか、頭上に、スーパーおろちが浮かんでいた。窓から身を乗り出さんばかりにして、白蛇が首を横に振っている。


「危ない! そこにいたらダメだ!」


「いったいどうしたっていうのよ?」


 寝そべっていたおねえちゃんが立ち上がった。

 空を見上げ、怒鳴り返す。


「滝です! この先に、大きな滝が!」

「えっ!」


 ざばん。

 大きな音がした。


 シレンが水から顔を上げていた。


「滝なんかないはずだよ? だってみんな、この川を通って、海へ帰っていったのだもの!」


「2~3日前に、ひどい地震があったんです!」

きんきんと鋭い声で、白蛇がわめいている。


「その地震で、川床の一部が陥没したらしい。そこに大きな滝ができたのです!」


「滝……」

呆然として圭太はつぶやく。



「かなり大きいです! ナイアガラの滝くらいは、軽くあります!」


 それがどれほどの大きさか、圭太にはわからなかった。


「死にます! あの滝から落ちたら、確実に死んでしまう!」



「逃げましょう」

きっぱりとおねえちゃんが言った。

「白蛇、私たちを引き上げて!」


「無理です!」


「はあ? 無理? だって、モーモはできたじゃないの!」


 モーモは、セイスモサウルスだ。前にスーパーおろち号に載せたことがある。


「それは、陸だったから! スーパーおろち号を着水させることはできませんし、恐竜を川から引き上げるなんて、絶対、無理!」


「じゃ、どうすればいいのさ!」

圭太はぞっとした。


「私達だけ逃げる!」


言ってから、おねえちゃんは、圭太を見た。黙って、続きを促す。


「なんて、できないよね」

圭太は答えた。



 にっこりと、おねえちゃんは笑った。







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