スピノサウルス
30
ざっぱん。
ざっぱん。
波が打ち寄せる。
ここは、海ではない。圭太は、さっき水をなめてみた。水は、真水だった。
川なのだ。
それなのに、波が打ち寄せてくる。真ん中の水深ときたら、どれほどあるのだろう。
想像もつかない。
すごく大きな川だ。
実際には見たことはないけど、現代のナイル川やアマゾン川よりも、ずっと大きいに違いない。
「きゃっはーっ!」
水際でおねえちゃんがはしゃいでいる。
「気持ちいーわよーっ。あんたもいらっしゃいよ」
たぬきのような小動物に変身したおねえちゃんは、おおはしゃぎで、水辺を、じゃぶじゃぶ歩いている。
「危ないよ、水に入ったら」
圭太は言った。知らない川で遊ぶなんて、おねえちゃんは無防備すぎると思う。
「臆病ねえ」
馬鹿にしたような声が返ってくる。
頭から、ばしゃりと水をかけられた。
四つん這いになったおねえちゃんが、後足で水を蹴っている。
「ひっどーい!」
「あははは。ここまでおいでーーー」
水際を、どんどんと川下へ向かって走っていく。
仕方なく、圭太も立ち上がった。
同じく四つ足で走り出そうとして……、
「!」
息を呑んだ。
「おねえちゃん!」
「こっちへおいで、弱虫ちゃん!」
「おねえちゃんっ!」
「なによ」
「後ろ! 後ろ後ろ後ろーーーーーっ!!!!」
圭太は絶叫した。
「……?」
振り返って、おねえちゃんは固まった。
だって、おねえちゃんのすぐ後ろには、大きな口が、
水の中から、大きな長い口が、
ぱっくりと……。
「きゃーーーーーーーっ!」
*
「僕は、シレン」
川際で気絶したおねえちゃんを運んできて、そいつは名乗った。
「きっ、君が、依頼竜?」
やっとのことで、圭太は尋ねた。
「そう。超音波広告を聞いて、ハッピーだいちゃん♡ に依頼した」
背中の大きな突起を動かす。長い尻尾は、太くたくましい。
圭太の胸がときめいた。
「君が、スピノサウルス!」
*
スーパーおろち号が、恐竜からの仕事依頼を受信したのは、少し前のことだった。
「スピノサウルスから、依頼がありました!」
白蛇が叫んだ。
「只今から、ジュラ紀のエジプトへ向かいまーす!」
「知ってる! スピノサウルス、知ってる!」
珍しくおねえちゃんがはしゃいだ声を出す。
「ティラノサウルスより強いのよ、そいつ!」
「そんなんじゃないよ。確かに大きさは、Tレックスより大きいけど」
圭太は不満だった。
だって、スピノサウルスは……。
「それで、依頼って何?」
人の話など、おねえちゃんは、全く聞いていない。
「ナビ、だそうです」
「ナビ?」
「ナビって、何?」
圭太は尋ねた。
「ナビゲートじゃないでしょうか。道案内ですよ」
すまして、白蛇が答えた。
「道案内かあ。ガイドさんみたいなものね!」
おねえちゃんはうきうきしている。
「でも、僕、エジプトの道なんて、知らないよ?」
圭太は、不安でいっぱいだ
「ジュラ紀の道も知らないし。つか、ジュラ紀に道があるの?」
「いいのよ、知らなくたって、道がなくたって!」」
おねえちゃんは、平然としている。
「ないのに案内するって……、それって、詐欺じゃない!?」
「大丈夫。道なきところに道は開けるものよ!」
「とにかく、あなた方に断る道はありませんから」
白蛇がにたりと笑った。
「ジュラ紀の肉食竜は、それはそれは多彩で……」
「行く! 行くから!」
大声で圭太は叫んだ。
肉食竜に、食べられたくない。
仕事を断ったり失敗したりしたら、圭太もおねえちゃんも、肉食竜の餌になるのだから。
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