28
「発車しますよ!」
白蛇の声が聞こえた。圭太とおねえちゃんも、慌てて、モーモの隣に飛び乗った。
「荷台じゃ、人間の姿に戻れないのね」
おねえちゃんは、残念そうだ。
スーパーおろち号は、ゆっくりと前進し始めた。背の低い木々をなぎ倒すようにして、進んでいく。緑の匂いが、強烈だった。
「アロサウルスは?!」
アロサウルスたちは、どいつも、体を丸めて、しっぽの付け根に鼻を突っ込むような格好をしていた。
「あいつら、スーパーおろちを怖がってるんだ」
圭太が言うと、馬鹿にしたように、おねえちゃんがあかんべをした。
「まるで猫が怯えているみたいなかっこね!」
スーパーおろち号は、車体を傾けて、前方の車両から順に、大きくカーブしていく。
「おじいちゃん!」
モーモが叫んだ。
電車は、岩場に入った。大きなごつごつした岩の角を回ると、倒れているいるおじいさん恐竜の姿は、見えなくなった。
*
セイスモサウルスの群れが、ゆっくりと葉を食べていた。
長い首を水平にのばし、体から遠く離れたところにある葉も、歯で、すきとって、食べる。
高い木の葉を食べる時には、後ろ脚で立ち上がる。木の葉を口に含んで前足をおろすと、どおん、と、かみなりのような音が響き渡った。
スーパーおろち号は、芸術的ともいえるほどの静けさで、停車した。
「やればできるじゃん。毎回毎回騒々しく登場して」
おねえちゃんが毒づいた。
セイスモサウルスの群れは、走ってきた鉄の塊には、何の興味もないようだった。2~3頭がちらっとこちらを見たが、すぐに、素知らぬ顔で、木の葉を食べ出した。
「さあ、ついたよ。モーモ。ご苦労さん」
乗ることができたので、モーモは、自信がついたようだ。怖がりもせず、優雅な足さばきで、地面に降り立った。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
「えー、感謝の気持ちを形に。どうです、電車、便利でしょ? ジュラ紀の森に、電車はいかがです? アロサウルスも近づきません」
白蛇がやってきて、セールスした。
モーモは、ため息を吐いた。
「便利な道具はいらないんだ。おじいちゃんが言っただろ? 恐竜に道具は似合わない。僕、少し気持ち悪くなっちゃった」
「酔ったんだね」
圭太には、心当たりがあった。
圭太は、乗り物酔いがひどかった。不思議なことに、スーパーおろちに乗っていても、少しも酔わないのだが。
モーモは頷いた。
「それに、随分、木を倒しちゃったし」
「あーあ、また、売り込み失敗か」
しんから失望したように、白蛇がつぶやいた。
「クワレル……」
言いかけたカイバを、モーモが遮った。
「いいや。君らには感謝している。君らの仕事は成功だよ。だから、ジュラ紀の恐竜は、君らを食べることはない。……さっきは、ひどいことを言って、ごめんね」
「いいんだよ」
わかっているよ、という気持ちをこめて、圭太はうなずいた。
おじいさん恐竜があんなことになって、モーモは悲しくて辛くて、気が変になっていたんだ。
「さ、引き上げですよ。売り込みが失敗したからには、早く次の仕事を探さなくちゃ。スーパーおろち号、発車ですよ」
不機嫌そうに、白蛇がせきたてた。
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