28


 「発車しますよ!」


白蛇の声が聞こえた。圭太とおねえちゃんも、慌てて、モーモの隣に飛び乗った。


「荷台じゃ、人間の姿に戻れないのね」

おねえちゃんは、残念そうだ。



 スーパーおろち号は、ゆっくりと前進し始めた。背の低い木々をなぎ倒すようにして、進んでいく。緑の匂いが、強烈だった。


 「アロサウルスは?!」


 アロサウルスたちは、どいつも、体を丸めて、しっぽの付け根に鼻を突っ込むような格好をしていた。


「あいつら、スーパーおろちを怖がってるんだ」


圭太が言うと、馬鹿にしたように、おねえちゃんがあかんべをした。


「まるで猫が怯えているみたいなかっこね!」




 スーパーおろち号は、車体を傾けて、前方の車両から順に、大きくカーブしていく。


 「おじいちゃん!」

モーモが叫んだ。


 電車は、岩場に入った。大きなごつごつした岩の角を回ると、倒れているいるおじいさん恐竜の姿は、見えなくなった。





 セイスモサウルスの群れが、ゆっくりと葉を食べていた。


 長い首を水平にのばし、体から遠く離れたところにある葉も、歯で、すきとって、食べる。


 高い木の葉を食べる時には、後ろ脚で立ち上がる。木の葉を口に含んで前足をおろすと、どおん、と、かみなりのような音が響き渡った。


 スーパーおろち号は、芸術的ともいえるほどの静けさで、停車した。



「やればできるじゃん。毎回毎回騒々しく登場して」

 おねえちゃんが毒づいた。



セイスモサウルスの群れは、走ってきた鉄の塊には、何の興味もないようだった。2~3頭がちらっとこちらを見たが、すぐに、素知らぬ顔で、木の葉を食べ出した。



 「さあ、ついたよ。モーモ。ご苦労さん」


 乗ることができたので、モーモは、自信がついたようだ。怖がりもせず、優雅な足さばきで、地面に降り立った。


 「ありがとう。本当に、ありがとう」


「えー、感謝の気持ちを形に。どうです、電車、便利でしょ? ジュラ紀の森に、電車はいかがです? アロサウルスも近づきません」


 白蛇がやってきて、セールスした。

 モーモは、ため息を吐いた。


「便利な道具はいらないんだ。おじいちゃんが言っただろ? 恐竜に道具は似合わない。僕、少し気持ち悪くなっちゃった」


「酔ったんだね」


 圭太には、心当たりがあった。

 圭太は、乗り物酔いがひどかった。不思議なことに、スーパーおろちに乗っていても、少しも酔わないのだが。



 モーモは頷いた。

「それに、随分、木を倒しちゃったし」


「あーあ、また、売り込み失敗か」

しんから失望したように、白蛇がつぶやいた。


「クワレル……」

言いかけたカイバを、モーモが遮った。


「いいや。君らには感謝している。君らの仕事は成功だよ。だから、ジュラ紀の恐竜は、君らを食べることはない。……さっきは、ひどいことを言って、ごめんね」


「いいんだよ」


 わかっているよ、という気持ちをこめて、圭太はうなずいた。

 おじいさん恐竜があんなことになって、モーモは悲しくて辛くて、気が変になっていたんだ。



 「さ、引き上げですよ。売り込みが失敗したからには、早く次の仕事を探さなくちゃ。スーパーおろち号、発車ですよ」


不機嫌そうに、白蛇がせきたてた。





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