22


 圭太、おねえちゃん、白蛇、カイバは、そろって、先頭の司令室へ駆けていった。


 スーパーおろちのメインコンピューターからは、白い細い紙が、しゅるしゅると湧き出されていた。


「なに、今度は?」

おねえちゃんが覗き込む。


「う、読めない」


 圭太も覗いてみた。紙には、小さな穴がぼちぼちと開いているだけで、もちろん、圭太にも意味不明だ。。



 「うーん」

紙の穴を読みながら、白蛇がうなった。


「なんだろう、これは……。おじいちゃんを助けて、おじいちゃんを助けて、おじいちゃんを助けて……。これだけですよ。子どもかな、依頼竜は」


「何竜なの、相手は?」


「ディプロドクス。ジュラ紀のカミナリ竜です」


「首としっぽの長い?」


「きわめておとなしい植物食の恐竜です。ただし、大きいですよ。おとなになると、全長30メートルを超えます。体重は、だいたい、40トン。君は、30メートル、泳げますか?」



「二人とも何の話、してんのよ!」

ぎりぎりと歯軋りしながらおねえちゃんが叫んだ。


「依頼よ、依頼! さあ、お仕事へ行くのよ!」




「ディプロドクスの子どもからの依頼のようです」

コホンと咳払いをして、白蛇が宣言した。


「タイムマシンスーパーおろち号、今から、ジュラ紀へと進路をとります!」


 コンピューターのキーボードの上をのたくる。


 スーパーおろちは、ゆっくりと上昇し始めた。まもなく、白亜紀の森も砂漠も消え、あの、さまざまな色の光る、時空空間へと突入した。





 「山よ、山!」

先を走っていたおねえちゃんが叫ぶ。


 ここは、ジュラ紀。


 急な上り坂が続く。木やシダは生えておらず、なだらかな傾斜が続く。どうやら、山のようだ。


 おねえちゃんに続いて走りながら、圭太も、さすがに息が切れてきた。


「ずいぶん、高い山ねえ。えんえん坂道だよ。この山の向こうにいるのかしら、その、ディ、ディプ、ディップ……?」


「ディプロドクス」

圭太が言う。



 スーパーおろちは、もう少し手前に止めてある。恐竜のあんまりそばまで乗っていくのは、恐竜がびっくりするからよくない、と、おねえちゃんと圭太が言ったのだ。


 お目つけ役のカイバだけが、坂道なんて関係ないやといわんばかりに、のんびり浮かんでついてきた。



「あれ、鳥が!」


 思わず圭太は叫んだ。

 そのくらいの大きさの物体が、空を飛んでいる。


「変な形。鳥じゃなくて、虫よ」


 おねえちゃんが言う。

 確かに大きさは「現代」の鳥くらいだが、形はどちらかというと、虫に近い。「現代」の、テントウムシのような形だ。


「ねえ、ちょっと捕まえていこうか」


恐竜時代の虫だ。圭太は、心が弾んだ。


「何言ってんの。仕事が先よ」


 きろり。

 たぬき(のような)目で、おねえちゃんが睨む。



 「おーい、君たち、どこへ行くんだあー!」


 突然、その虫が話しかけてきた。

 驚いて、圭太とおねえちゃんは、顔を見合わせた。


「わっ、びっくりした」

「言葉がわかるのは、恐竜だけじゃないのね」


 甲羅のような固そうな殻の下に、薄い羽がついていて、ぶんぶんと、圭太たちの方へ舞ってくる。


「私たち、おいしくないからねっ。かまないでよ」

すかさずおねえちゃんが釘を刺す。


「哺乳類なんて、およびじゃないよ」

虫は、むっとしたようだった。


「僕はね、もっとずっと大きな生き物に寄生するんだ。その生き物の上で餌をつかまえ、うんちやおしっこをし、そして子どもをこしらえる」


「大きな生き物?」


「そう、ここは、僕の縄張りなんだ。勝手に入ってくんなよ。つまり、僕はそう言いたかったわけで……」


 その時、大地がぐらりと揺れた。圭太とおねえちゃんは、横にどたっ、と倒れた。

 そのまま、ずずずずーと下へ滑る。


「きゃー、地震!」

「ちがうよ、おねえちゃん。ここは……」


 圭太が言いかけた時、何物かが、そっと圭太とおねえちゃんをくわえた。空高く持ち上げる。その高さで、ゆっくりゆっくり運んでいく。


「きゃーっ、なにーーーーっ?」


 そして、柔らかく、いい匂いのする大地の上に、そっと降ろされた。


「来てくれたんだね。ありがとう」


 声は、空から降って来た。






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