16 


 「どうして、リボンなんか買ってきたんだよ」


 振り返って圭太は、小声で、白蛇に文句を言った。


 白蛇は、スーパーおろち号のデッキから、こっちを見ていた。

 どうやら、恐竜のそばに来たくないようだった。


 圭太に聞かれ、白蛇は、首を振った。


「だって、ひも持ってきて、って言ったじゃないですか。でも、スーパーには、手頃なひもが、売ってなかったんですもん」


「スーパーなんか行くからだ。ホームセンターに行けばよかったのに」

圭太はぶつぶつ言った。


「さあ、できた!」

 満足そうに、お姉ちゃんが言う。


 治したばかりの角の根元には、ピンクのリボンが、かわいらしく蝶結びされていた。


 マフラは、とても満足そうだった。


「もう一つの角にもつけて。右の角にも」


「お安い御用です!」


いそいそと、おねえちゃんが、リボンを手にする。



 ……恐竜にリボンって。

 しかも、ピンクのふりふりの?


 圭太はため息を吐いた。



「あら、かわいい」


 結び終わり、お姉ちゃんは、マフラの頭から飛び降りた。一歩下がって、しげしげと、自分の作品を見ている。


「女の子にもてそう?」

マフラも、まんざらでもなさそうだった。


「もっちろん」

おねえちゃんは、すごく楽しそうだ。



 圭太は、少し、気を悪くした。


「どうして、そんなに女の子にもてたいのさ」


 ……女の子なんて、おしゃべりで意地悪で、勝手なもんなのに。



「決まってるだろ。僕の子どもをたくさん産んで欲しいからさ」



「え……」


 楽しそうだったおねえちゃんが、きょとんとした。

 それから、こそこそと圭太に近づき、恐竜に聞こえないように、そっとささやいた。


「あんまりよねえ」


「そんなもんじゃないの?」


圭太はそっけなく、答えた。



 「ありがとう。これで、群れに帰れる」


トリケラトプスのマフラは、嬉しそうに、圭太とおねえちゃんにお礼を言った。



「じゃ、さっそく、群れのみなさんに、便利な道具の宣伝を……」


「駄目だよ」


おねえちゃんのセールストークの途中で、マフラは、ぴしゃりと遮った。


「便利な道具の話をしたら、僕の角が折れたことがばれちゃうじゃないか。それに、この、リボン? こいつを他のやつにつけるのもダメだ。だって、僕よりもてるトリケラトプスが出て来ちゃうかもしれないからね! だから、この話は、内緒」


「えええーーーーーっ!」

おねえちゃんが叫んだ。


 圭太も少し、むっとした。

 なんだかすごく、わがまま勝手な理由だと思ったからだ。



 マフラは目をぱちぱちとさせた。


「そのかわり、他に、角が折れたトリケラトプスがいたら、ハッピーだいちゃん♡  のことを、そっと教えてあげる。そいつが、信用できる奴だったらね」


 マフラは、満足そうに立ち上がった。森の向こうを顎で示す。


「ほら、木がたくさん倒れたから、君らにも、僕の群れが見えるだろ? あそこの、とってもかわいい女の子、あれが、僕の彼女さ。隣に立っている不細工で弱そうな奴、あいつが、僕の幼なじみ」



 手近な木に登ると、スーパーおろち号がなぎたおした木々の間から、森の外れが見えた。そこでは、トリケラトプスの群れが、呑気に葉っぱを食べている。


 マフラの教えてくれた彼女は、すぐにわかったが、他のトリケラトプスと比べて、かわいいかどうか、圭太にはわからなかった。眠そうに、ゆっくりと口を動かしている。


 隣に、彼女より、一回り大きなトリケラトプスがいて、大きなくちばしで、えらそうに葉をむしっている。


 全然弱そうには見えなかったけど、特別強そうにも見えなかった。



「群れのボスの息子なんだ」


マフラは、悔しそうにつぶやいた。


「でも、角が直ったから、もう大丈夫。僕は、彼女を取り返して、群れの次のリーダーになるんだ」


 マフラは、圭太とおねえちゃんに、そっと鼻をすりつけた。


「トリケラトプスにとって、角は、命よりも大事なものだ。ありがとう。君らは、命の恩人だよ」



 「えー、また角の折れたトリケラトプスがいたら、ハッピーだいちゃん♡  の宣伝の件、お忘れなく」


スーパーおろちのデッキから、ぬかりなく、白蛇が宣伝した。


「わかった」


 マフラは、ゆっくりと、森を出て行った。自信をもった歩き方で、初めて会った時とは、見違えるように堂々としていた。







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