15
「角の具合は?」
おねえちゃんが、言うと、トリケラトプスの頭によじ登っていく。
慌てて、圭太も後を追った。
肩の位置までくると、地面は、遥か下に見えた。
……恐竜によじ登ってるんだ、僕。
胸が高鳴った。
マフラの、左角は、ぽっきりと折れていた。折れた角の他に破片が出ておらず、きれいに、根本から折れていた。
「うーん」
「これなら、うまくくっつくかもしれないわね」
おねえちゃんと圭太は顔を見合わせて頷きあう。
「えっ! つくの!?」
凄く嬉しそうな声。
同時に二人は、マフラの頭から振り落とされてしまった。
「うーーー、乱暴ねえ」
起き上がり、おねえちゃんが文句を言う。
「ごめんごめん」
でも、マフラは小躍りを続けている。
「ねえ、マフラ。頭を下げて」
圭太が頼むと、恐竜は、素直に頭を下げてくれた。
折れた角を、頭の折れ目に乗せてみる。角は、とても大きく重かったので、おねえちゃんとふたりがかりだ。
「どう? どう?」
折れた角は、頭の根元に、ぴったりとはまった。
「ついたの?」
「あ、動かないで」
けれども、マフラがちょっと頭を高く上げただけで、すぐに落ちてしまった。
「ああ、やっぱり」
がっくりと、マフラは、座りこんでしまった。
「大丈夫、便利な道具を使えば……」
言いながら、おねえちゃんは、瞬間接着剤を取り出した。
「これはね。瞬間接着剤と言って……」
「しゅんかん……」
「便利な道具なんだよ」
圭太は言った。
「文明の利器です」
すぐにおねえちゃんが言い直す。
二人は、折れた角の断面に、瞬間接着剤を、丹念にぬりつけていく。
「頭に残ってる角の折れ目にも、つけた方がいいね」
「そうね、たっぷりつけた方がいいと思う」
「痛くない?」
心配そうな声が聞いた。
大きななりをして、随分怖がりだなあ、と、圭太は思った。
「大丈夫、全然痛くないから」
圭太は、頭を下げたマフラスの頭によじのぼった。折れた角の根本に、瞬間接着剤をぐちゅーっと、絞り出す。手が、人間の手でなくなっていたので、とてもやりにくかった。
「ずいぶん、変な匂いだね」
マフラが言った。
それは、圭太も感じていた。
……接着剤って、こんなに強い匂いだったけ?
体が縮んだせいか、圭太にも、強烈な匂いに感じられた。
全てが、自然のものしかない世界では、こうなのだろうか。
人の作り出したものは、いやな匂いが一層強まるとか?
「どうしてこんなことになっちゃったの?」
くらくらする気分を紛らわせようと、圭太は聞いてみた。
ぶおっ、と、マフラが息を吐きだす。
「幼なじみと頭突きしたのさ」
「けんか?」
「女の子の取り合い」
「ふうん」
当然、負けちゃったんだよね、圭太は思った。
「ここまで逃げてきて、ほっとしたら、角がぽろっととれちゃったんだ。もう、群れには帰れない、って思ってたら、ハッピーだいちゃん♡ の超音波広告が聞こえたのさ」
超音波で広告を流すのか。タイムマシンから。凄いな。圭太は、スーパーおろち号の凄さに、改めて感心した。
「さ、塗り終わったわよ」
夢中になってぬりぬりしていたおねえちゃんが、声をかけた。
「もう、かんぺき。私って、天才」
おねえちゃんが、接着剤を塗り終えた角を、二人がかりでマフラの頭へくっつける。マフラが頭を下げたままだったので、やりやすかった。
「早くしないとね、乾いちゃう」
なにしろ、瞬間接着剤だ。
角は、見事にくっついた。
「すごいっ!」
「しばらく、じっとしててね。動いたら駄目」
「わかった」
マフラは、素直に、頭を下げたまま、おとなしくしていた。
おねえちゃんが、鼻歌を歌いながら、白蛇が持ってきた荷物の山をかきまわしている。
やがて、とても嬉しそうに、何かをくわえて走ってきた。
「ね、補強しよ、補強」
「何、補強って……」
圭太は、おねえちゃんが足元に落としたものを見て、ひえっと思った。
「まさか、トリケラトプスにつけるの?」
それは、ピンクのふりふりしたリボンだった。
「何、それ?」
マフラが不思議そうに聞く。
「女の子にもてる、おまじない」
おねえちゃんったら、でたらめ言ってる。圭太は気が気ではない。
「よしなよ。恐竜にリボンつけるの」
「いいじゃない。カワイイと思うの」
「だって……」
「つけて。僕、女の子にもてたいんだ」
マフラが割り込んだ。随分、きっぱりとした口調だ。
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