トリケラトプス
11
圭太は、ふにゃふにゃしたいい気分で眠っていた。なんだか心地よい揺れで……。
「藤原圭太さま、神崎りささま、白蛇さまがお呼びです。至急、先頭車両までおいで下さい」
放送の音と同時に、かさかさにひからびた口で耳たぶをかまれた。
はっと目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
……ここは?
……自分の部屋と違う。団地の、狭いあの部屋とは。
そうだ! ここは、スーパーおろち号の中だ! 僕は、恐竜の世界へ行くんだ!
一気に目が覚めた。
圭太の耳に噛み付いていたのは、カイバだった。
「シロヘビ、ヨンデル、シロヘビ、ヨンデル」
カイバはそう言うと、圭太の顔の高さまで、空中浮遊した。どうやら、目を覚ましたのを確認したらしい。
満足そうにうなずくと、下のベッドへと漂っていった。おねえちゃんを起こしに行ったのだ。
「繰り返します。藤原圭太さま、神崎りささま、白蛇さまがお呼びです……」
車内放送が、しつこく繰り返される。それが、白蛇の声であることに気がついて、圭太は、にやりとした。自分のことを「白蛇さま」という、白蛇が、おかしかったのである。
*
「仕事です」
圭太とおねえちゃんが、先頭車両に入るなり、白蛇は、きっぱりと言った。車両先頭部にいて、とぐろを巻いた背中を、こちらに向けたままだ。
「仕事? どんな?」
まだ、完全に目が覚めていないのか、おねえちゃんがぼーっとした声で聞き返す。
「たった今、連絡が入ったのです」
白蛇は、入ってきた二人の方など、見向きもしない。もたげた鎌首を、てきぱきと上下に動かしている。スーパーおろち号のコンピューターのキーボードを叩いている。
「初めての依頼竜は、トリケラトプス、白亜紀の角竜です。依頼内容は、角が折れてしまったので、なんとかしてくれ、ということです」
「トリケラトプス……」
「知ってるの?」
もちろん、圭太は、知っていた。トリケラトプスは、大好きな恐竜、ナンバーワンだ。
「北アメリカで発見された有名な恐竜だよ。植物食だけど、大きいんだ。角は3本あって、頭に2本、鼻先に1本。鼻先についてるのは、短いんだ……」
「へえー。あんたも、男の子なんだねえ」
「見ればわかるじゃん」
「くだらないことを知ってるところが、男の子なんだよ」
おねえちゃんは、機嫌が悪そうだった。
白蛇がやっと、2人の方へ振り向いた。
「今、スーパーおろち号は、時間を超えつつ、空間移動もしています」
「わお! タイムマシンなのに、空間まで移動できるんだね!」
圭太の胸が高鳴る。
「そりゃ、元々は、電車ですからね……」
白蛇も、まんざらでもなさそうだった。
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