トリケラトプス

11



 圭太は、ふにゃふにゃしたいい気分で眠っていた。なんだか心地よい揺れで……。



 「藤原圭太さま、神崎りささま、白蛇さまがお呼びです。至急、先頭車両までおいで下さい」


 放送の音と同時に、かさかさにひからびた口で耳たぶをかまれた。

 はっと目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


 ……ここは?

 ……自分の部屋と違う。団地の、狭いあの部屋とは。


 そうだ! ここは、スーパーおろち号の中だ! 僕は、恐竜の世界へ行くんだ!


 一気に目が覚めた。



 圭太の耳に噛み付いていたのは、カイバだった。


 「シロヘビ、ヨンデル、シロヘビ、ヨンデル」


 カイバはそう言うと、圭太の顔の高さまで、空中浮遊した。どうやら、目を覚ましたのを確認したらしい。


 満足そうにうなずくと、下のベッドへと漂っていった。おねえちゃんを起こしに行ったのだ。



「繰り返します。藤原圭太さま、神崎りささま、白蛇さまがお呼びです……」



 車内放送が、しつこく繰り返される。それが、白蛇の声であることに気がついて、圭太は、にやりとした。自分のことを「白蛇さま」という、白蛇が、おかしかったのである。





 「仕事です」


 圭太とおねえちゃんが、先頭車両に入るなり、白蛇は、きっぱりと言った。車両先頭部にいて、とぐろを巻いた背中を、こちらに向けたままだ。


 「仕事? どんな?」

まだ、完全に目が覚めていないのか、おねえちゃんがぼーっとした声で聞き返す。


 「たった今、連絡が入ったのです」


 白蛇は、入ってきた二人の方など、見向きもしない。もたげた鎌首を、てきぱきと上下に動かしている。スーパーおろち号のコンピューターのキーボードを叩いている。


「初めての依頼竜は、トリケラトプス、白亜紀の角竜です。依頼内容は、角が折れてしまったので、なんとかしてくれ、ということです」


「トリケラトプス……」


「知ってるの?」



 もちろん、圭太は、知っていた。トリケラトプスは、大好きな恐竜、ナンバーワンだ。



「北アメリカで発見された有名な恐竜だよ。植物食だけど、大きいんだ。角は3本あって、頭に2本、鼻先に1本。鼻先についてるのは、短いんだ……」


「へえー。あんたも、男の子なんだねえ」


「見ればわかるじゃん」


「くだらないことを知ってるところが、男の子なんだよ」

おねえちゃんは、機嫌が悪そうだった。


 白蛇がやっと、2人の方へ振り向いた。


「今、スーパーおろち号は、時間を超えつつ、空間移動もしています」


「わお! タイムマシンなのに、空間まで移動できるんだね!」

圭太の胸が高鳴る。


「そりゃ、元々は、電車ですからね……」

白蛇も、まんざらでもなさそうだった。






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