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 最後尾車両の、一番後ろは窓になっていた。確かに、流れ去ってゆく景色も見える設計だ。けれど、先頭車両ほどの迫力はない気がする。


 それに今は、タイムトンネルを走っているから、外は真っ暗だ。



 車内には、寝台車のようなスチール製の二段ベッドが置いてあった。

 先頭車両の豪華なソファーに比べると、格段に質素で、実用的だ。



 「ぼく、上の段!」


 圭太は、叫んだ。ハッピーだいちゃん♡ なんて変な名前をつけられたから、今度は負けられない。


「はいはい、どーぞ。あたしはどっちでもいいです」


 意外にもあっさり、おねえちゃんは、そう言った。



 おねえちゃんの気の変わらないうちに、とベッドによじのぼると、カイバがふわふわとついてきた。


 「ねえ、カイバ、白蛇の言ったことは本当かな? 本当に、このままだと人間は滅びちゃうのかな」


 白蛇の話は、いまひとつ、圭太には難しかった。だけど、人間が地球を壊そうとしているということだけは、よくわかった。モニターで見せられたような、あんな、砂しかない所では、生きていけない。


 「シンパイ、シンパイ」

かぼそい声で言って、カイバがすりよってきた。


「うん、心配だよ」

圭太は、ちょっと考えた。


「じゃ、いままでって、何だったのかな、って考えちゃう。スイミングやサッカーなんかのスポーツクラブに通ってるやつらとか、学習塾で勉強しているやつらとか。あいつら、放課後も、忙しくてさ。親も一生懸命で。でも、何をやっても、結局、人間は滅びるんだもの。うざいよね」


「ウザイカ? ケイタ、ウザイカ」


「僕? ううん、僕はうざくない。だって、僕は何もやってないもの……」


 言ってはみたが、なんだか、虚しかった。

 だって、塾やスイミングは、お金がかかる……。


「でも、結局は、全部、無駄なんだ。だって、このままいったら、人間は滅びるんだもの」



「キョウリュウ、スクウ。キョウリュウ、ニンゲン、ノ、ミライ、モ、スクウ」

カイバがむきにになって言う。


「本当はね、ぼく、ちょっとこわいんだ。恐竜の化石って、すんごくでかいんだよ。ぼくなんか、食後のデザートだよ。恐竜に噛み付かれたら、痛いだろうなあ。噛み付いて頭を振ったら、ぼくの胴体なんか、簡単に、ちぎれちゃうんだろうなあ」


「キョウリュウ、コワイ、キョウリュウ、コワイ」

もっともらしい顔でカイバはうなずいた。



 「うるさいわね、眠れないじゃないの」

下のベッドから、おねえちゃんの声が聞こえてきた。


「ねえ、おねえちゃんは、こわくないの?」


「べつに」


「恐竜に食べられても平気?」


「食べられやしないって。もし、白蛇が食べられたって、あたしはだいじょうぶ。もし、あんたが食べられたとしても、あたしだけは、逃げられる」


「なにそれ」

圭太は心底むっとした。


「僕だって、食べられたりするもんか。おねえちゃんこそ、気をつけなよね。おねえちゃんの方が太くておいしそうだもの」


「なによ!」


「イッテイハイケナイ、イッテハイケナイ」


 カイバが、小声で言ったが、もう遅かった。


 下の段を抜け出したおねえちゃんが、はしごを半分くらいのぼってきて、圭太の半ズボンから出ている脚をぐいっ、とつねった。


「いたたたたー!」

圭太は叫んだ。


「あのね。たとえ今まで通りの生活をしていても、人間の世界はもう、長くないの。あたしたちが年寄りになる頃には、生きていくのが、とても辛くなるかもしれない。ううん、つらくなる。そんなの、あたしは、や。何があっても、どこでだって、あたしは、最後まで楽しく生きる。生きてみせる」


「ゴリッパ、ゴリッパ」

カイバがきんきんと言った。


「あんたが一番うるさい。もうあたしは寝るんだから、静かにしてよ」


 そうして、ずんずんと地響きをたてて、はしごを降りていった。

 見ると、圭太の脚には、つねられたあざができていた。


「まったく、やられたらやり返しなよね、張り合いのない」

下の段から、ぶつぶつ声が聞こえた。


「ま、やり返すことができるような子なら、ここには来なかったでしょうけど。気が弱くて優しい子が、選ばれたのよ、竜王に。あたしみたいな」


「誰が、気が弱くて優しいって?」


圭太は大声で聞いたが、下のベッドからは、すやすやと安らかな寝息しか聞こえてこなかった。







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