3
「席替えをする」
教壇に立った先生は言った。
新学期の、朝だ。
推薦で6人の班長が決められた。むろん、圭太はその中に入っていない。
「好きな子同士の班にしようよ!」
いつもにぎやかなナツキが甲高い声で叫んだ。賛成の声が、クラスのあちこちから沸きあがる。
「そうしたら、お前ら、授業中、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、おしゃべるするだろ?」
野上先生が、明るい声で、制した。
「でも、君らの意見も尊重したい。じゃ、こういうやり方はどうかな」
野上先生は、生徒の心がよくわかると、評判の先生だ。
「班長が、副班長を選ぶ。自分の補佐はよく知っている人に、というのは、大人の世界でもよくあることなんだ。そして、二人で相談して、班の人を選んでいく。公平にね。まず、1班から6班まで、順番に、一人ずつ、選んでいく。これで、各班の人は、何人になる?」
「3人!」
クラスのみんなは声を合わせた。
先生は頷いた。
「そうだね。班長、副班長、新しく選ばれたその人も入れて、全部で3人だ。次に、この3人で相談して、次の人を選ぶんだ。今度は、6班から順番に、1班まで。そうやって、順々に、班の仲間を増やしていく」
「わっ、面白そう!」
京香が声をあげた。
先生は、嬉しそうな顔になった。
「最初、みんな自分の席に立っていて、班が決まった人は、班長のそばに集まる。こうすれば、だぶって選ばれたりしないだろ?」
クラスのみんなは頷いた。
みんな、先生の頭の良さに、感心している。
圭太は、いやな予感がした。
「さあ、起立!」
威勢よく、先生が叫んだ。
全員が、立ち上がった。
「1班の班長、相沢か。さあ、副班長を選んで」
相沢さんは、仲良しの小渕さんを選んだ。
こうして、班づくりが始まった。
指名された子から、次々と、班長のそばに集まっていく。
名前を呼ばれた子は、うれしそうなくすぐったそうな顔になる。弾むように新しい班の仲間の所に飛んで行って、床に腰を下ろす。
3巡目に、圭太の隣のノンノンが5班に指名された。こいつなら、僕を、5班の仲間に入れてくれるかな。
けれども、5班が次に指名したのは、泣き虫の翔平だった。
立ったままの、つまり指名されない人は、どんどん減っていく。圭太を入れて、もう、あと、4人、あ、ひとり座った。また、一人。そして、また、一人。
そして、とうとう。
残っているのは、圭太だけになった。
その時点で、6班から始まった指名は、1班で終わっていた。各班の人数は、どこも5人。
圭太のクラスは、31人だ。
つまり、一人、余るわけで。
最後まで突っ立ったままの圭太が、余分なわけで。
進級したばかりの、このクラスの中で。
ざわざわと、ざわめきが起こった。
野上先生は、困ったように、窓に寄りかかている。
かっと、頬が赤くなった。顔なんて、上げれられない。
圭太は、恥ずかしくて恥ずかしくて、たまらなかった。
選ばれなかったことが。
たったひとり、残ってしまったことが。
その時、突風が、教室の中を吹き渡った。
続いて、ごおーっという大きな音。
凄まじい風だ。目を開けていられない。
クラスの誰かが悲鳴をあげたとしても、隣の人の耳にさえ、届かないだろう。
まして圭太は、たったひとり、自分の席に立ったままでいた。すごい風圧を一身に受け、飛ばされそうになる。足の踏ん張りがきかず、ふらりとよろけた。
何かが、こちらへ近づいてくる!?
嵐のようなそれが、間近に迫っていた。あまりの圧に、息が詰まりそうだ。
それは、すぐそばまで来ていた。
気圧が変わり、痛くなり始めた耳の奥に、ごうーっと音が届いた。
耳が潰れそうな轟音だ。
なんだかわからないけど、それは、圭太のすぐそばを、通り過ぎている!?
怖いと思う暇もなかった。
突然、骨ばったものが、圭太の右腕をがっしとつかんだのだ。そのまま、物凄い力で、引き上げる。……ばけもののような早さで走り続ける、何かの上へ。
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