■ ノート（のーと）

原則（げんそく）として青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）の底本（ていほん）に書（か）かれているもともとのルビ（るび）は（わ）残（のこ）しつつ、フリガナ（ふりがな）を振（ふ）っていない漢字（かんじ）に振（ふ）り仮名（かめい）を振（ふ）っていく作業（さぎょう）をしています。

また、カタカナ（かたかな）版（ばん）とローマ（ろーま）字（じ）版（ばん）用（よう）に平仮名（ひらがな）の読（よ）みの区切（くぎ）りを分（わ）けていく作業（さぎょう）もしています。主（おも）に HTML（えいちてぃえむえる） Ruby（るび）タグ（たぐ）で囲（かこ）われたテキスト（てきすと）は（わ）自動（じどう）改行（かいぎょう）しませんので。

■ 伏字（ふせじ）漢字（かんじ）リスト（りすと）（❶（いち）～（から）❻（ろく）は（わ）小１（しょういち）～（から）小６（しょうろく）、❼（なな）は（わ）中学（ちゅうがく）で覚（おぼ）える漢字（かんじ）です）

　※ 日本（にほん）で暮（く）らす全（すべ）ての人（ひと）は、すべからくこれらの常用（じょうよう）漢字（かんじ）を知（し）っておくべきとされています。

小１,❶：生

小２,❷：何,活,自,近

小３,❸：持,級,身,階

小４,❹：説

■ 学習（がくしゅう）コンテンツ

　※ 読み仮名で『かんじ』の様（よう）に括弧（かっこ）の付（つ）いた漢字（かんじ）は原書（げんしょ）で読（よ）み仮名（がな）が付（つ）いている漢字（かんじ）です。これらは伏字（ふせじ）から除外（じょがい）します

作品（さくひん）名（めい）：小❹（しょうせつ）の読者（どくしゃ）

著者（ちょしゃ）名（めい）：芥川（あくたがわ）龍之介（りゅうのすけ）

　僕（ぼく）の経験（けいけん）するところによれば、今（いま）の小❹（しょうせつ）の読者（どくしゃ）とい（ゆ）うものは（わ）、大抵（『たいてい』）は（わ）その小❹（しょうせつ）の筋（すじ）を読（よ）んでゐ（い）る。その次（つ）ぎには（わ）、その小❹（しょうせつ）の中（なか）に描（『か』）かれた❶❷（せいかつ）に憧憬（『しようけい』）を❸（も）つてゐ（い）る。これには（わ）時々（ときどき）不思議（ふしぎ）な気❸（きもち）がしないことは（わ）ない。

　現（げん）に僕（ぼく）の知（し）つてゐ（い）る或（あ）る人（ひと）などは（わ）随分（『ずいぶん』）経済的（けいざいてき）に苦（くる）しい暮（く）らしをしてゐ（い）ながら、富豪（ふごう）や華族（かぞく）ばかり出（で）て来（く）る通俗（つうぞく）小❹（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）る。のみならず、この人（ひと）の❶❷（せいかつ）に❷（ちか）い❶❷（せいかつ）を書（か）いた小❹（しょうせつ）には（わ）全然（ぜんぜん）興味（きょうみ）を❸（も）つてゐ（い）ない。

　第三（だいさん）には（わ）、第二（だいに）と反対（はんたい）に、その次（つ）ぎには読者（どくしゃ）❷❸（じしん）の❶❷（せいかつ）に❷（ちか）いものばかり求（もと）めてゐ（い）る。

　僕（ぼく）は（わ）これらを必（かなら）ずしも悪（わる）いこととは（わ）思（おも）つてゐ（い）ない。この三（みっ）つの心❸（こころも）ちは（わ）、同時（どうじ）に僕（ぼく）❷❸（じしん）の中（『うち』）にも存在（そんざい）してゐ（い）る。僕（ぼく）は（わ）筋（すじ）の面白（おもしろ）い小❹（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）る。それから僕（ぼく）❷❸（じしん）の❶❷（せいかつ）に遠（とお）い❶❷（せいかつ）を書（か）いた小❹（しょうせつ）も愛読（あいどく）しないことは（わ）ない。最後（さいご）に、僕（ぼく）❷❸（じしん）の❶❷（せいかつ）に❷（ちか）い小❹（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）ることは（わ）勿論（もちろん）である。

　然（しか）し、それらの小❹（しょうせつ）を鑑賞（かんしょう）する時（とき）に、僕（ぼく）の評価（ひょうか）を決定（けってい）するものは（わ）必（かなら）ずしも、それらの気❸（きもち）では（わ）ない。若（も）し僕（ぼく）が（読者（どくしゃ）として）世間（せけん）の小❹（しょうせつ）の読者（どくしゃ）と違（ちが）つてゐ（い）るとするならば、かう云（い）ふ点（てん）にあると思（おも）つてゐ（い）る。では❷（なに）が僕（ぼく）の評価（ひょうか）を決定（けってい）するかと云（い）へ（え）ば感銘（『かんめい』）の深（ふか）さとでも云（い）ふほかは（わ）ない。それには（わ）筋（すじ）の面白（おもしろ）さとか、僕（ぼく）❷❸（じしん）の❶❷（せいかつ）に遠（とお）いこととか、或（あるい）は（わ）また僕（ぼく）❷❸（じしん）の❶❷（せいかつ）に❷（ちか）いこととか云（い）ふことも勿論（もちろん）、幾分（いくぶん）か影響（えいきょう）してゐ（い）るだらう。然（しか）しそれらの影響（えいきょう）のほかに未（『ま』）だ❷（なに）かあることを信（しん）じてゐ（い）る。

　この❷（なに）かに動（うご）かされる読者（どくしゃ）の一群（『いちぐん』）が、つまり読書（どくしょ）❸❸（かいきゅう）と呼（よ）ばれるのである。或（あるい）は（わ）文芸的（ぶんげいてき）知識（ちしき）❸❸（かいきゅう）と呼（よ）ばれるのである。

　かう云（い）ふ❸❸（かいきゅう）は（わ）存外（『ぞんぐわい』）狭（せま）い。おそらくは（わ）、西洋（せいよう）よりも一層（いっそう）狭（せま）いだらう。僕（ぼく）は（わ）今（いま）、かう云（い）ふ事実（じじつ）の善悪（ぜんあく）を論（ろん）じてゐ（い）るのでは（わ）ない。唯（ただ）事実（じじつ）として一寸（『ちよつと』）話（はな）すだけである。

　　（昭和（しょうわ）二年（にねん）三月（さんがつ））

■ コンテンツ（こんてんつ）

作品（さくひん）名（めい）：小説（しょうせつ）の読者（どくしゃ）

著者（ちょしゃ）名（めい）：芥川（あくたがわ）龍之介（りゅうのすけ）

　僕（ぼく）の経験（けいけん）するところによれば、今（いま）の小説（しょうせつ）の読者（どくしゃ）とい（ゆ）うものは（わ）、大抵（たいてい）は（わ）その小説（しょうせつ）の筋（すじ）を読（よ）んでゐ（い）る。その次（つ）ぎには（わ）、その小説（しょうせつ）の中（なか）に描（か）かれた生活（せいかつ）に憧憬（しようけい）を持（も）つてゐ（い）る。これには（わ）時々（ときどき）不思議（ふしぎ）な気持（きもち）がしないことは（わ）ない。

　現（げん）に僕（ぼく）の知（し）つてゐ（い）る或（あ）る人（ひと）などは（わ）随分（ずいぶん）経済的（けいざいてき）に苦（くる）しい暮（く）らしをしてゐ（い）ながら、富豪（ふごう）や華族（かぞく）ばかり出（で）て来（く）る通俗（つうぞく）小説（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）る。のみならず、この人（ひと）の生活（せいかつ）に近（ちか）い生活（せいかつ）を書（か）いた小説（しょうせつ）には（わ）全然（ぜんぜん）興味（きょうみ）を持（も）つてゐ（い）ない。

　第三（だいさん）には（わ）、第二（だいに）と反対（はんたい）に、その次（つ）ぎには読者（どくしゃ）自身（じしん）の生活（せいかつ）に近（ちか）いものばかり求（もと）めてゐ（い）る。

　僕（ぼく）は（わ）これらを必（かなら）ずしも悪（わる）いこととは（わ）思（おも）つてゐ（い）ない。この三（みっ）つの心持（こころも）ちは（わ）、同時（どうじ）に僕（ぼく）自身（じしん）の中（うち）にも存在（そんざい）してゐ（い）る。僕（ぼく）は（わ）筋（すじ）の面白（おもしろ）い小説（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）る。それから僕（ぼく）自身（じしん）の生活（せいかつ）に遠（とお）い生活（せいかつ）を書（か）いた小説（しょうせつ）も愛読（あいどく）しないことは（わ）ない。最後（さいご）に、僕（ぼく）自身（じしん）の生活（せいかつ）に近（ちか）い小説（しょうせつ）を愛読（あいどく）してゐ（い）ることは（わ）勿論（もちろん）である。

　然（しか）し、それらの小説（しょうせつ）を鑑賞（かんしょう）する時（とき）に、僕（ぼく）の評価（ひょうか）を決定（けってい）するものは（わ）必（かなら）ずしも、それらの気持（きもち）では（わ）ない。若（も）し僕（ぼく）が（読者（どくしゃ）として）世間（せけん）の小説（しょうせつ）の読者（どくしゃ）と違（ちが）つてゐ（い）るとするならば、かう云（い）ふ点（てん）にあると思（おも）つてゐ（い）る。では何（なに）が僕（ぼく）の評価（ひょうか）を決定（けってい）するかと云（い）へ（え）ば感銘（かんめい）の深（ふか）さとでも云（い）ふほかは（わ）ない。それには（わ）筋（すじ）の面白（おもしろ）さとか、僕（ぼく）自身（じしん）の生活（せいかつ）に遠（とお）いこととか、或（あるい）は（わ）また僕（ぼく）自身（じしん）の生活（せいかつ）に近（ちか）いこととか云（い）ふことも勿論（もちろん）、幾分（いくぶん）か影響（えいきょう）してゐ（い）るだらう。然（しか）しそれらの影響（えいきょう）のほかに未（ま）だ何（なに）かあることを信（しん）じてゐ（い）る。

　この何（なに）かに動（うご）かされる読者（どくしゃ）の一群（いちぐん）が、つまり読書（どくしょ）階級（かいきゅう）と呼（よ）ばれるのである。或（あるい）は（わ）文芸的（ぶんげいてき）知識（ちしき）階級（かいきゅう）と呼（よ）ばれるのである。

　かう云（い）ふ階級（かいきゅう）は（わ）存外（ぞんぐわい）狭（せま）い。おそらくは（わ）、西洋（せいよう）よりも一層（いっそう）狭（せま）いだらう。僕（ぼく）は（わ）今（いま）、かう云（い）ふ事実（じじつ）の善悪（ぜんあく）を論（ろん）じてゐ（い）るのでは（わ）ない。唯（ただ）事実（じじつ）として一寸（ちよつと）話（はな）すだけである。

　　（昭和（しょうわ）二年（にねん）三月（さんがつ））

■ 原書情報（青空文庫）

図書カード：No.3794（新字旧仮名）

https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card3794.html

https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3794_27310.html

底本：「筑摩全集類聚　芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房

　　　1971（昭和46）年6月5日初版第1刷発行

　　　1979（昭和54）年4月10日初版第11刷発行

入力：土屋隆

校正：松永正敏

■ 漢字（かんじ）の説明（せつめい）（カタカナは（わ）音（おん）読（よ）み、平仮名（ひらがな）は（わ）訓（くん）読（よ）みです）

❶：生：ソウ・セイ・ショウ・生（い）かす・生（い）きる・生（い）ける・生（う）まれる・生（う）む・生（なま）・生（は）える・生（は）やす・生（お）う・生（き）・生（いのち）・生（うぶ）・生（な）す・生（な）る【命（いのち）を保（たも）つ／生（い）きている間（あいだ）】

❷：何：カ・何（なん）・何（なに）・何（いず）れ・何（いず）く【不定（ふてい）の指示（しじ）代（だい）名詞（めいし）】

❷：活：カツ・ガチ・活（い）きる・活（い）ける・活（い）かす【生（い）きる事（こと）／暮（く）らす】

❷：自：ジ・シ・自（みずか）ら・自（おのずか）ら・自（よ）り【己（おのれ）／自分（じぶん）／自分（じぶん）自身（じしん）／当人（とうにん）／我（われ）】

❷：近：キン・コン・ゴン・近（ちか）い【距離（きょり）が近（ちか）い／場所（ばしょ）の隔（へだ）たりが短（みじか）く小（ちい）さい】

❸：持：ジ・チ・持（も）つ【手（て）に握（にぎ）る／身（み）に付（つ）ける】

❸：級：キュウ・級（しな）・級（くび）【位（くらい）／順序（じゅんじょ）／段階（だんかい）／程度（ていど）】

❸：身：シン・ゲン・ケン・カン・身（み）【人（ひと）や動物（どうぶつ）の体（からだ）／肉体（にくたい）／自分（じぶん）／己（おのれ）】

❸：階：カイ・階（はしご）・階（しな）・階（きざはし）【階段（かいだん）／上（のぼ）り下（くだ）りするための道具（どうぐ）／梯子（はしご）段（だん）】

❹：説：セツ・タツ・ゼイ・セイ・エツ・説（と）く・説（よろこ）ぶ【説（と）き明（あ）かす／述（の）べる／教（おし）える】

　※ 漢字（かんじ）説明（せつめい）はモジナビ https://mojinavi.com/ の各（かく）ページを参考（さんこう）にしています

■ 漢字（かんじ）の書（か）き順（じゅん）や詳（くわ）しい説明（せつめい）を知（し）りたい方（かた）は此方（こちら）をどうぞ

小１,❶：生 https://mojinavi.com/d/u751f

小２,❷：何 https://mojinavi.com/d/u4f55

小２,❷：活 https://mojinavi.com/d/u6d3b

小２,❷：自 https://mojinavi.com/d/u81ea

小２,❷：近 https://mojinavi.com/d/u8fd1

小３,❸：持 https://mojinavi.com/d/u6301

小３,❸：級 https://mojinavi.com/d/u7d1a

小３,❸：身 https://mojinavi.com/d/u8eab

小３,❸：階 https://mojinavi.com/d/u968e

小４,❹：説 https://mojinavi.com/d/u8aac

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★（通常（つうじょう）版（ばん））全部（ぜんぶ）の漢字（かんじ）にルビ（るび）を振（ふ）ってみたくはありませんか？

　　https://kakuyomu.jp/works/1177354055305889978/episodes/1177354055309571773

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★（カタカナ（かたかな）版（ばん））このクラシカル（くらしかる）なエッセイ（えっせい）にフリガナ（ふりがな）を！

　　https://kakuyomu.jp/works/1177354055324161539/episodes/1177354055329234965

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★（ローマ（ろーま）字（じ）版（ばん））こんな漢字（かんじ）にローマ（ろーま）字（じ）が振（ふ）れるわけがない！？

　　https://kakuyomu.jp/works/1177354055360859507/episodes/1177354055369624514

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https://www.aozora.gr.jp/

青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）とは（わ）？

　青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）は（わ）、誰（だれ）にでもアクセス（あくせす）できる自由（じゆう）な電子（でんし）本（ほん）を、図書館（としょかん）のようにインターネット（いんたーねっと）上（じょう）に集（あつ）めようとする活動（かつどう）です。

　著作（ちょさく）権（けん）の消滅（しょうめつ）した作品（さくひん）と、「自由（じゆう）に読（よ）んでもらってかまわない」とされたものを、テキスト（てきすと）とＸ（えっくす）ＨＴＭＬ（えいちてぃえむえる）（一部（いちぶ）は（わ）ＨＴＭＬ（えいちてぃえむえる））形式（けいしき）に電子（でんし）化（か）した上（うえ）で揃（そろ）えています。

https://www.aozora.gr.jp/guide/aozora_bunko_faq.html

Ｑ（きゅー）：青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）って、何（なに）ですか？

Ａ（えー）：1997（せんきゅうひゃくきゅうじゅうなな）年（ねん）に始（はじ）まったボランティア（ぼらんてぃあ）活動（かつどう）で、誰（だれ）にでもアクセス（あくせす）できる自由（じゆう）な電子（でんし）本（ぼん）を、共有（きょうゆう）可能（かのう）なものとして図書館（としょかん）のようにインターネット（いんたーねっと）上（じょう）に集（あつ）めようとしております。現在（げんざい）は（わ）、日本（にっぽん）国内（こくない）で著作（ちょさく）権（けん）保護（ほご）期間（きかん）の満了（まんりょう）した作品（さくひん）を中心（ちゅうしん）に、ボランティア（ぼらんてぃあ）のみなさんの力（ちから）によって電子（でんし）化（か）作業（さぎょう）を進（すす）めています。青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）は（わ）そういった電子（でんし）化（か）活動（かつどう）のための、またその成果（せいか）物（ぶつ）をアーカイヴ（あーかいゔ）しておくための場（ば）でもあり、そこからコピー（こぴー）された本（ほん）の集成（しゅうせい）や活用（かつよう）事例（じれい）もまた〈青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）〉と呼（よ）ばれることがあります。詳（くわ）しくは（わ）「青空（あおぞら）文庫（ぶんこ）のしくみ」（http://www.aozora.gr.jp/aozora_bunkono_shikumi.html）をご一読（いちどく）ください。