「あっはっはー、いつもすまないねえ星熊ちゃん」

小学校は何時もの通り行き、勉強して、給食のプリンをたっぷり堪能してきた。

周りのクソどもから色々されたりしたがいつもどおりの些細な事なので割愛する。

プリンのおいしさの方がはるかに重要だった。



母校たる廃棄物小学校から、アタシの家がある星屑廃棄場までは絶妙にうっとおしいくらいの距離である。

住宅団地を挟んで歩き、そこから郊外に出てもうちょっとと言う所だ。


金網を蹴っ飛ばし入り、右に二回曲がる。


「ただい…まああああ!?」

「あ、おかえりなさいイデス」がりっ、ごりっ。

「あんた何食ってるの!?」


アールこのアホはアタシの家周りに積まれているがらくたをそのでっかい口でばりぼりと齧っている最中であった。


「あまりおいしくないですね、素材の差でしょうか…」ごーりごーり。

「そう言う問題じゃないわい!!!ここ!あたしの!家の!屋根代わり!」


所々に齧られた跡が見え、ただでさえぼろっちく頼りない壁と屋根は更にボロボロになっていた。


「もー!良いからバックパック入って!行くわよ!」

「はあ、行くとはどこに」

「いいから入る!ちゃんと頭まで!」


がぼん。ずぼん。

ランドセルを家に置き、空っぽのバックパックを叩きつけアールをぶち込んでいく。


「あんたみたいな奴を調べたりする人の所よ、”ホッパー”も修理しないとならないし」

「ああ、その板バネはかなり質がよさそうですね、おいしそうです」

「食べちゃダメに決まってんでしょうが!」


アールを積めて歩き出す。

ちょっと逆さに入ったけど別に不都合もないだろう。

アールの文句は聞き流してさっさと行くことにする。


がたんごとん。


『次は~廃棄物電気町~廃棄物電気町~降りる際はお忘れ物にご注意…』

「よっと」


最寄りから3駅先へ通った電車から降りる。

普段はホッパーですっ飛んで行くのだが故障してるのでは仕方あるまい。


「…窮屈です」もぞもぞ。

「こら、喋らないの…人いるんだから」ぼそぼそ。


機械類のパーツや修繕・改造・売却etc…

近辺の《工場漁り》たちの活動地域と言えばやはりここ、廃棄物電気街である(けったいな名前だと毎回思う、そんなものばかりだが)。

所狭しと建物が乱立し、その隙間の路地に怪しげな商店が立ち並んでいる。

だが今日の所はその辺には用はない。


通り慣れた裏道を通り、間の商店のパーツを横目で見ながら進んでいく。

胡散臭い旗である『工場漁り御用達』『ギルド公認店』などは無視。


そしてそっけなく『営業中』の看板だけ出ている店にたどり着く。

屋号は『ぽんこつや』。今にも崩れそうな二階建て木造の家。

このびっくりするぐらい胡散臭い店があたしの贔屓である。



がらがらがら。

「リー!あんた、アタシに安物の足売りつけたでしょーッ!!!」

開口一番恨み言を叫ぶ。


店内はほこりっぽく、ジャンクパーツにあふれ足の踏み場もない。

ついでに返事もない。

ずかずかと上がり込みカウンターの裏を確認する。


「…いない」普段ならここでぐーすか寝ているはずなのだが。


「さては本格的に寝てるわねアイツ」

カウンター横の二階へ上る階段を上る。

足元の木がぎしぎし言っている。


「起きなさーい!もう午後3時を回って…」

すぱーん!閉まっていた襖を思いっきり開け。


「…くっっっっさ!!!窓!開けなさい!」

そして充満していたハンダ付けの匂いに顔をしかめ対処に追われたのだった。



「あっはっはー、いつもすまないねえ星熊ちゃん」

「そう思うんならもっと片付けなさいよ!」

「やだ、めんどい」


あたしはへらへら笑う『ぽんこつや』の店主…千波ちなみリーを正座させ説教をかましていた。何度目だったかしら。あたしよりよっぽど年上のはずだけど?


「んで、今日は何?良い機械兵のパーツが入った?もしかしてホッパーのパーツがぶっ壊れでもしたかい?」

「やっぱりあれ壊れやすい奴だったのね…まあ、それはさておいて、見てほしい奴がある…いや、いるのよ」

「ほほーう?」


リーの眼がきらりと輝く。

こいつはアタシが言うのもなんだが社会不適合者のろくでもない人種であることは間違いない。

だが、こと《工場》周りのパーツ知識やフレームの整備・改造に置いてアタシの知る限り右に出るものはいない(あたしの知ってる範囲そのものが小さいのは置いておいて)。

こいつならアールのことについて何か知ってるかもしれない。


「ほい、アール出てきて」バックパックを小突く。

「あ、出ても大丈夫ですか」にょきっ。アールが顔を出す。


「…んぇ…?なにその子、機械兵?でも喋ってる?ふむふむふむふむ?」

アールを見た瞬間、目が輝き始める。

「ぇえ?何これ、もっとよく見せて、ほら早く早く早く早く」


「……イデス、この人なんだかわからないけれど怖いのですが」

「我慢して、こういうやつなの」


…そう、こいつは重度のマッドサイエンティストなのだ。

「何時の日か《工場》が作られた理由とかを解いて見せる」と豪語するような奴だ。

今日日、そんな夢物語は子供でも言わないような事だ。


「じゃあ、たっぷり弄られてきなさい、アール」すとん。

「えっ」

「さあてまずはどこから探ろうかやっぱり内部構造からいやいや取りあえずはなくなっている左腕とかそれとも思考回路、んんんん~~~~~~っ!!!迷っちゃうなあ!!!」

「えっえっえっ」


ウキウキになっているリーとわたわたしているアールを置いてアタシは下でホッパーの修理パーツを探すことにする。


二階から「助けてください~っ」って声が聞こえた気がするがきっと気のせいだ。

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ゴミと私と灰の町 @manta100

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