『――急速充填、5%。緊急発射』

『誰だか知りませんが、助かりましたよ』


掘り出された”そいつ”は能天気にそう宣った。


――機械兵の一種であることは間違いないだろう。

人型の機械兵自体はさして珍しい物でもない。

三角の砲身らしきものとそこに付いた右手と、意外と小さ目な胴体、そして人体とは全然違う、なんとも絶妙に四角く、口が大きい頭しかない事もまあ、許容できる範囲だろう。

左手と足をどこかで無くしたのだろう。実際たまにそう言った機械兵を見なかったわけでもない。


――ただ、機械兵が喋り、あまつさえ友好的な態度を取っていることそのものがおかしすぎて何も言えないのだが。


「…………いや、何?あんた何?」頭を抱える。だってこんなの聞いたこともない。

喋る?能天気?もうよくわからない。一度整理しよう。


機械兵。

各所の《工場》で生産され、人類に対しては基本的に無差別に攻撃を仕掛けてくる。

アタシが物心ついた時にはすでにいた存在。

反面、《工場》外に出ることはほぼ無い。

大事なのは、こいつらのパーツを売れば良い稼ぎになるってことだけ。

だからこうしてアタシは《工場漁り》を続けているわけだけど――


『おーい、どうしたのですかー』がんがん。

――今こうしてアタシの足元にいる”そいつ”はその常識から外れまくっている!


「いや知らんわ!!!どうしたじゃないよ!」

『いきなり大声出さないでくださいよ、びっくりするじゃないですか』

「勝手にびっくりしてろ!」


ああもう、こいつの能天気さが凄い癪に障る!


「あーもうっ!こんなんじゃ売っぱらえないじゃん!売ったら絶対なんか文句言われるよこれ!」

『え、私売られる予定だったので?』


頭をひっかきまくりながら考える。

今からもう一度埋めるか…?見なかったことにしようか…


ビュゥン。

――その思考は、上の方から聞こえる風切り音で中断された。


「……うげ…、マジ…?《バット》だ…追っかけてくる普通…?」

『《バット》?なんですそれ、ぐえっ』


つい、黙らせようとしてこいつの口をひっつかみながら隠れる。

捨ててくればよかったと思う。


――機械兵には種類があり、それぞれの判別コードが割り当てられてる奴もいる。

まあ、”わからない”ことの方が圧倒的に多いのだが…


とにかく、今私たちの上空を旋回している奴は《バット》。

浮遊しながら《工場》内をうろつきまわり――


バシャンッ。《バット》の腕から振動波が放出される。

がらくたの一角が粉微塵になり、消える。


こうして邪魔ながらくたを排除していく《工場》の掃除屋で――

人体にだってそれは例外なく作用するのだ。


「……どうしよ……」

そして今、アタシはホッパーが壊れている。

そもそもアタシは普段から機械兵の眼を潜り抜けてパーツ集めをしているのだ。

逃げ場のない今の状況は非常にまずい。


『おや、お困りで?』

そんな中、こんな能天気極まる発言を聞かされれば頭にくること間違いなし。


「どー見ても困ってんでしょーが…!」

ぼそぼそ小さめに怒る。見つかったら死んでしまう。死ぬのは嫌だ。


『ふむ、あの程度なら何とでもできますが』

――そして、このような信じがたい発言をされれば。


「はぁ!?」

つい叫んでしまうのも仕方がないとアタシは思うのだ。


それに反応し《バット》がこちらを向く。

「あ」『おや、気づかれましたね』


そして飛んでくる。一直線に。

「あ、アンタ本当にアレ何とか出来るの!?出来るならさっさとやって!」


『ふむ、では少しばかり頂きますね』

そしてこいつはそう言うとアタシのバックパックをひったくり。


「――は?」


じゃらりじゃらり。ばりぼりばりぼり。

――大口を開けて、いきなり部品を食べ始めやがったのだ!!!


「――アタシの飯の種がーッ!?!?」

『げぷっ』


アタシの嘆きをよそに、そいつはバックパックを投げ捨て、右手を掲げる。


バシャンッ。そして砲身らしき部分が三角に開く。

キュイイイイイ…その中に、充填される光。


『――急速充填、5%。緊急発射』


――――ボッッッ!!!光線が迸る。


その光線は《バット》の放った振動波を飲み込み、そのまま《バット》本体も飲み込み、ついでに射線上にあったがらくたを溶かしつくし。


――あまつさえ、その背後のコンクリ壁も貫いて。


「………ええ………」そして、アタシが眩しさから立ち直るとそこには。


『冷却シークエンス開始、再使用まで――』


――見事な夕焼け空が見える人一人分ぐらいの穴があったのだった。


「…………ええ―……」


『……お腹が空きました、もっとないですか』ぐぎゅるるる。


「――あるわけあるかぁああ――ッ!!!」


――つい、殴り飛ばしたのはアタシ悪くないと思う。

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