ゴミと私と灰の町

@manta100

『あ、すいません。痛いのは嫌ですが掘り出しはしてもらえると助かります』

チュインチュインチュインチュイン。矢鱈に銃弾を撃ち込まれる。

背後でコンクリートの地面と壁が抉れ、破片が舞う。


「うおぁぁぁぁ!?うっそでしょーッ!」


――それに追い回される”アタシ”、星熊ほしぐまイデスは見てわかる通り滅茶苦茶なピンチに陥っていた。


――まあ、全部アタシが悪いんだけどさ!

そろそろ夏休みに入るから、急いで学費を集めようと欲張ったのが良くなかった!


「銃器、銃器は汚いって!”ホッパー”は…まだ動くな、よし」

パッと見ただけでも向こうの戦力は《サボテン》が3体以上いる、アタシ一人で勝てるわけない!


走り、急ぎ角を曲がる。一瞬向こうの視線が途切れる。

足フレームについた”ホッパー”を全力稼働させる。


「どっせい!」ドウンッ!

板バネが動き、地面を蹴る。と言うよりは”跳躍”する。


ジャッ、ドウンッ!ジャリリッ、ドウンッ!

右足、左足、また右足。

負担を考えながら両方を使い、見える角に飛び込み、曲がる。


跳ぶ、曲がる。跳ぶ、曲がる。跳ぶ、曲がる。


「……だいぶ距離は離せた、けどまだ…」まだ気配がする。

よって足を止めるわけにはいかない。


背負ったバックパック(リュックサックをカッコつけて言ってるだけだろ、とか言うな)に満載された部品が音を立てる。

重いが、これが今日の飯の種。捨てるわけにもいかな――


――そんなことを考えていたばちでも当たったのか。

あるいは追っ手を気にして後ろばっかり見てたのが良くなかったのか。多分後者だ。


「――あ」足が空を切る。


アタシが飛び出した先は縦に長い、大穴だった。底が見えないほどの――


「――っ、そでしょぉぉぉぉ――――ッ!?何でいきなり通路が途切れてんのーッ!?」


叫んだってこの星の原則、重力加速度9.8m/s²と言う力が変わるはずもなくアタシの身体は落ちていく。って言うかヤバイ。死ぬ、マジで死ぬ!!!


「うわああーッ!!!ホッパー!動けーッ!!!」

逆に底が見えないぐらい長いし、落ち方も斜め。

これなら、落ち切る前に壁に届く!


ガリッ!壁に接地、した瞬間に――

「うおおおーッ!!!」

ドドウンッ!!!両足のホッパーを同時に使い、壁を蹴り、落ちながら跳ぶ!


一瞬無重力、には届かないぐらいの浮遊感。

当然それぐらいでは落ちる速度が一瞬落ちる程度。

――だから、何度もやる!


四方はコンクリ、斜めに跳んで、これを繰り返して落ちて行けば何とか、何とかなる!


「死ねるかーッ!!!こんなとこで―ッ!!!明日の給食はプリンーッ!!!」

ガリッ!ドドウンッ!!!ガリッ!ドドウンッ!!!2回、3回、4回――


壁を抉り、三角跳びを繰り返す。

そして底が垣間見え。


「よし、後2,3回――」ガリッ。そして少し気が緩んだ時。


べきん。

左足の方から聞きたくない音が聞こえた。ホッパーの板バネが折れる音。


「…で、あ…」ついでとばかりに接地面積が変わり、アタシ自身もバランスを崩す。


「…安物売りつけやがったなクソ店主野郎~~~ッ!!!」


――そんな叫びと共にアタシは真っ逆さまに落っこちていった。



衝撃。

一瞬、意識がぶっ飛び復帰する。


「……ぅあー……やらかした…」

ガシャン、ガン、ゴン。自転車用ヘルメット、買っておいてよかったと思う。

降り注ぐがらくたの中でアタシは一人ごちる。


滅茶苦茶痛い。痛いってことは生きてるってことだ。小学6年生でもそれ位わかる。

それでも痛いものは痛い、滅茶苦茶痛い。ふざけんな。


「いよ、…っと、いちち……」

起き上がるのにも多少難儀したけど、どこがが折れたりはしてないみたいだ。

どてっぱらを打ち付けたくらいか。いや痛いわ。


「っ、ていうか…なんだろ、ここ…」


フレームに内蔵されてるライトを付ける(左の板バネはやっぱり折れてた)。

普段は機械兵に見つかりやすくなるから使わないけど、ここにはいないだろう。


――何せ、見渡す限り、と言うより地面と盛り上がった山全部が、がらくたであるのだから。


「……ゴミ捨て場、廃棄場…どうなんだろ…って言うか出口ある…?」


とにかく、逃げ切れはしたみたいだから、今日は帰ろう。帰れるのなら…


がらくたの山を踏みしめ、探索を始める。

出口があればそれでいい、質の良いパーツでもあれば更に良い。


――出口が無かったら?その想像は努めて頭から振り落とした。


「コンクリ片、いらない、モーター…これは壊れてる、部品取り…」バックパックに放り込む。


壁を見渡す、穴はない。


「電線、ハンドル、…お、《サボテン》の奴かこれ、ガトリング…でもこれ持って帰れないか…分解…する暇がないか、今は」


四方を見渡す、出口はない。


「……」

アタシが落っこちてきた、と言うことを考えるとまるで穴がないというのは考えにくい。

そしてこのがらくたの山…


少し、上を見上げて待つ。

ドシャン、ガシャン。

――そうすると、いくつか振ってくるがらくたがある事を確認できる。


「…やっぱりここは《工場》のゴミ捨て場って所かな…つまりアタシはダストシュートに落ちて…やってらんねぇー!」

イラッと来てつい右足のホッパーでひと際大きな山を蹴っ飛ばす。


ドゴンッ。ガラガラガラガラッ。

山が崩れ、辺り中にがらくたの津波が起こる。


「うわ、思ったより崩れた!…お?」

その中に、今まで見たことのない部位、パーツが見えた。


山の中から突きだす、何かの砲身らしき物体。手がついてるから腕か。

品質もかなり良さそうだ。


「おおーっ!お宝発見!」

アタシは帰り道のことも忘れてそれに食いついた。

引っ張り出そうと近づき、掴む。


「ッ、ッッッ……ふんぎぎぎぎ……かった…重い…!」


『あいたたたた!痛い痛い!痛い!もげる!』


「いや、痛いとかって何……………え?」


――そのパーツが喋りだすなんて、アタシには予想外も予想外だったのだが。


「……え、え、え?」一旦引っ張るのをやめる。


『あ、すいません。痛いのは嫌ですが掘り出しはしてもらえると助かります』

ぶんぶんその突き出た”腕”が振られアピールされる。


「…………………厚かましいなアンタ?!」

アタシはとりあえず、そう返すのが精いっぱいだったのだ。

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