耳垢を札束に変える能力
音麺
最終話
ある月曜日の朝。
ボンシャカラカはいつも通り、月曜日の学校に行く前の耳掃除をしていた。
耳に必要以上の耳垢が詰まった状態で登校するのは厭だ。別に一日ぐらい掃除をしなかったところで聴力に問題が出るわけではない。が、月曜日の耳掃除は、一週間を過ごすモチベーションの維持のためには重要なファクターだ。ある種、ボンシャカラカにとってのルーティンのようなものだろう。
「ふぅ……」
右耳の掃除が一通り終わった所で、広げたティッシュの上に並べた耳垢を見つめる。そこでボンシャカラカは悲しい気分になった。
「こいつらって……せっかくこの世に生まれたっていうのに……何の価値も見出される事なく捨てられていくんだな……」
そう呟いて左耳の掃除を始める。そこで
おお、すげえと声を上げて喜ぶも、すぐにボンシャカラカは落ち着いた。
「こんなに大きくても、こんなに耳がスッキリしても、こいつには一切価値が付けられないんだ……」
その悲しい気持ちを耳垢と一緒に包み込むようなつもりでティッシュを丸め、ゴミ箱へと放り込もうとしたその刹那、ボンシャカラカは無意識に言葉を発していた。
「せめて…こいつに価値が付けられたらなぁ……」
次の瞬間、耳垢を包んだティッシュは、眩い光と異臭を放った。
「お主、なかなか良い事を言うではないか。フォッフォッフォ」
丸めたティッシュが広がったと思えば、光の中から全裸の老人が出てきたではないか。
「誰だ貴様ッ!」
ボンシャカラカが咄嗟に身構えると、老人は唐突に股間をボンシャカラカに向けた体勢でM字開脚をした。
「フォッフォ、そう警戒するな。この通りじゃよ」
どうやらこれは、この老人なりに誠意を込めたポーズらしい。
「儂は耳垢の神。お主と同じ、耳垢に価値が付かない事を悲しむ者じゃよ」
老人は脚を閉じると、神妙な面持ちでボンシャカラカの前に正座した。
「ここからは真面目な話じゃ。儂は、キミのような人材をずうっと待っておった。『耳垢に価値を与えたい』。そう願う者をな」
老人のへそから光る球が飛び出し、宙に浮く。と思ったらその光る球は老人の肛門へと入り、老人の体を光らせた。
「今からキミに力を授ける。耳垢に価値を与える力を」
光る球は、例えるならば産卵のように老人の口から出てきた。そして老人はその光る球をボンシャカラカに差し出す。
「食え」
「やったあ」
ボンシャカラカは迷いなくそれを食べた。とても美味しかったです。
「では儂の仕事はここで終わりじゃ」
老人の体は猛暑日のバターのごとくゆっくり溶け、絨毯に染み込んでいった。
「この絨毯捨てなきゃ」
そこでボンシャカラカは、もらった力を試してみた。老人が出てきた耳垢をまだ捨てていなかったため、それを被験体として。
「破ぁ!」
耳垢に向かってボンシャカラカが叫ぶと、耳垢は見る見る間に札束へと姿を変えた。
「すげぇ!コレ何枚あるんだ?」
札の枚数を数えようと札束を手に取ると、信じられないほどの異臭がボンシャカラカの鼻腔を襲う。
思わず仰け反ったボンシャカラカの脳内を「これって耳垢の価値じゃなくて札束の価値だよな」という考えがよぎり、ボンシャカラカは気付く。
「まだ朝飯食ってねえ」
耳垢を札束に変える能力 音麺 @SimoYake
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