第34話 解
更新です。
目指せクリア
―――
ッッッッッ!!!!!
咆哮を上げるように身を震わす霧の巨人。
音はなくとも響き渡る気迫がびりびりと空気を震わせた。
睥睨する霧の巨人に、しかしただ気圧されるだけのふたりではない。
即座に走らす光の盾がその身を突き破り、風の刃が裂き散らす。
しかし霧の巨人はなにごともなかったかのようにまた集い、もぼぁとふたりに腕を伸ばした。
「んだよこいつッ!」
「霧の中のやつ!これ!多分!」
「そりゃあ見えねえはずだなおい!」
触手のように伸びる霧の腕を散らしつつ、ふたりは素早く距離を取る。
振り向いてみれば先ほどまで確かにあった階段は、それを包む霧ごと忽然と姿を消していた。
「ボスってやつかこいつ!」
「さすがにそう思いたいね!」
シズのスーパーシールドとローゼマリーの魔法が次々に霧の巨人を引き散らしていく。
しかし霧の巨人は意に介した様子なくずんずんとふたりに迫り、その腕でふたりを捉えんと伸ばしてくる。捕まればどうなるのかなど考えたくもないふたりはそれを優先して消し飛ばすが、腕は次々に巨人の身から生えてはふたりを追った。
「どうするこいつ普通にやれる感じじゃなくねえか?」
「かも!地図!地図なんかなってない!?」
「んぉ、ちょい待てよ!」
慌てて取り出した地図を見やるシズ。
先ほどまでくねりくねる道が走っていた地図に今は道はなかったが、ちょうどいま逃げ回っている広場を拡大したような地図となっていて、中央に目的地のマークがある。
「いっやこれ」
「あぶない!」
「おお!?」
地図に目を奪われて意識が逸れていたシズをローゼマリーが突き飛ばす。
そして高速で伸びる腕をショートソードで切り伏せるが、霧はぎゅるりと彼女の腕に絡みついた。
「うぁっ」
「やらせるかよッ!」
シズの振るうスーパーシールドが霧の腕を掻き散らす。
解放されたローゼマリーはお返しに突風の弾丸を叩き込みながら距離を取った。
「サンキュな!」
「ありがと!それでなにか分かった!?」
「いや!全然だ!なんもねえ!」
シズの手渡す地図をさらっと見渡してローゼマリーは顔をしかめる。
彼女の目からも特にヒントらしきものは見つからなかったようだった。
さてどうしたものかとふたりは顔を見合わせる。
散らせど散らせど変化のないなんとも叩きがいのない推定ボス。
なにかしらのギミック型だろうと推測したところで、そのギミックを明かさなければどうしようもない。
ローゼマリーは試しに風以外の魔法も何度か試してみるが、どれも霧を突き抜けるばかりでやはり手ごたえは感じられない。
「んぁー!ロンドン嫌いになりそう!」
「熱い風評被害だなおい!気持ちは分かるぜ!」
迫りくる霧を泣き言を漏らしながらばっしばっしと払い飛ばすローゼマリーにシズは笑う。
スーパーシールド自体をドリルのように回転させながら振り回すという効率的なやり方を開発してみたものの、それもほとんど効果を成さないので半分くらい自暴自棄だった。
「いっそ霧抜けてみるか?」
「やっちゃう!?」
「どのみちダメ元だ!やるぞ!」
「はーい!」
即座に身を翻し、周囲の霧の壁へと突撃するふたり。
しばらく走ったふたりは、いつも通りに階段の場所へとやってきた。
「元の場所だよなぁこれ」
「一応階段試してみる?」
「だな」
そして一度階段を登ってみるが、その先にはやはりこのミストへの入り口となった根っこの生えた場所に続いているだけ。とうぜん、戻ってみたところで状況は変わらない。
「てこたぁ、やっぱあれをどうにかしなきゃなんねえってこったよな」
「うぅん……どうすればいいんだろ」
ふたり揃って首を傾げる。
そもそもあの場所には霧くらいしか目につくものもなかった。そして霧の巨人に攻撃はまったく効果を成していない。
「むしろ掴まりに行ってみる?」
「……試してみるか」
ひとまず捻り出してみる、あまり期待できなさそうな方法。
しかしものは試しと、再度同じ手順を通って、先ほどの霧に囲まれた階段の空間へと向かうふたり。
「なるべく見ないでいいかね」
「私もちょっと怖いかなぁ」
霧の壁を抜けたところで、ふたりは立ち止まる。
すぐそこに階段があるのにたどり着けないもどかしさ。
「……あれ?消えない?」
「近づくと消えんじゃねえの」
行って近寄ろうとするシズを、ローゼマリーは慌ててとどめた。
「待って!地図!シズさん地図!」
「お、おお?」
焦った様子のローゼマリーに言われて地図を取り出したシズは目を見開く。
道だ。
この広場をグネグネとめぐる迷路のような道がそこには記載されていた。
シズとローゼマリーは顔を見合わせる。
「これか?」
「だよね?」
そしてふたりは後ろから追いついてきた霧の巨人の抱擁を受けた。
霧が晴れ、階段の近くにまた戻される。
しかしふたりはそんなことは気にせず頷き合った。
「つまり、霧を抜けたら巨人から逃げながら正しいルートを辿ってゴールに行くってことか?」
「それだね!さすがにこれは最後でしょ!」
「っし、気合入れてくぞー」
「おー!」
腕を突き上げ意気揚々と声を上げるふたり。
ようやく目前に見えたこのミストの攻略の気配に、ふたりはうきうきと胸躍らせていた。
とはいえ気は抜けない。
あの広いようで狭い空間を、巨人から逃れて決められた道を行こうというのだ。
できれば一度でクリアしてやりたいと、再度あの空間を目指しながらふたりは打ち合わせを行う。
「とりあえずスーパーシールドはぶん回すとしてだ。私が地図持てばいいよな?」
「うん。手がふさがっちゃうとね。見た感じ結構入り組んでたよね」
「多分一本道じゃねえな。解読してえ。直線はダッシュで抜けるか」
「そうだね。そこは頑張ってよ?」
「任せとけ。本番には強えんだ」
そんな風に作戦を立てつつ。
霧の中、階段の広場につながる最後の直線に着いたふたり。
顔を見合わせて頷き合うと、ひとつ気合を入れ直して再度霧の巨人に挑む。
「っしゃ、行くぜおい!」
「だーっしゅ!」
駆け出すふたり。
蠢く霧を駆け抜けて、視界が開けた瞬間から見下ろす地図。
案の定ゴールの階段までの迷路の様相を呈している道を睨むように見つめ、シズの目がぎゅるぎゅると高速に動く。
そして霧の壁から巨人がその身を表すよりも前に、シズはガバっと顔を上げた。
「、こっちだマリー!」
「さっすが!」
即座に動き出すふたり。
シズの見つけた道を辿って慎重に、しかしなるべく早足で進んで行く。
その四分の一も進めないところで、霧の巨人が広場に踏み入れる。
「頼んだぞマリー!」
「まかせて!」
駆け付け一発、放たれた風の弾丸が爆ぜて霧を吹き飛ばす。
シズも地図と道に集中しながらもスーパーシールドを振り回し、腕を伸ばし迫る霧の巨人をけん制した。
その腕さえ注意すれば動き自体は緩慢な霧の巨人である。
神経を張り詰めて歩むふたりは、気が付けばもうゴールを目前にしていた。
そしてその行く先に立ち塞がる霧の巨人。
「邪魔だ退きやがれッ!」
「ふっとべぇええええ!」
スクリュー回転するスーパーシールドと横向きの竜巻が霧の巨人を吹き散らす。
その向こう、露になった階段へと駆けこむふたり。
飛び込むように段差を踏み抜いたふたりは、その瞬間階段の通路に立っている。
左右と頭上を壁に囲われ、振り向けば、そこにはもう暗闇しかない。
「やったか……?」
「と、とりあえず行ってみよ!」
「おうよ」
見た目だけならば、最初の階段を登るのと同じに見える。
それが不安で、恐る恐ると階段を上がっていくふたり。
やがてふたりがたどり着いたその先で。
『環境系:
・霧に惑う
・場を知る
・道を辿る
・解に至る
「これは……マジかよ」
「あはは。じらすねー」
クリアした先に待ち受けていた『追憶の欠片』に、シズは顔をしかめローゼマリーは笑う。
どうやら迷宮の謎は、まだ終わりではないらしい。
◆
『霧の都』
・ロンドンのこと。冬季の夜や朝方など冷え込む時間帯に街を霧がつつみ、幻想的な風景となることから。産業革命後で石炭燃料の消費が莫大にも関わらず環境問題があまり重要視されていなかったころは霧の実際は煤などの大気汚染物質によるスモッグであり、特に一時期は立ち込める霧に呼吸器疾患が続発するなどといった事件もあったとか。もちろん現代は大気汚染も十分に改善されており、スモッグかもなどと不安に思う必要はない。
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