第24話 パズる

更新です。

よろしくお願いします。

―――



当然直ぐ元の場所にリスポーンしてみれば、なにやら地べたに落ちたまま自分を見上げるローズがいた。


「なにしてるの」

「……なんでもありませんけどっ」


ぷんっ、とそっぽを向き、かと思えばややためらいながらも魔法で自殺するローズ。

そうしてリスポーンしてくる間、レインは小部屋の一方を塞ぐ壁を眺めた。


七角形の小部屋の、その一方。

水晶玉の下の床からなにやら溝が伸びており、その先にこれまで通路が続いていたような枠があったが、そこには壁が立ち塞がっていた。

その壁には、何やら円形の模様とそれを囲む七色の宝玉が等間隔にはめ込まれている。


近づいてみてみると円形の模様は七重の円環とその中央の窪みから成っており、なにやらそれぞれに溝が走っていた。


「これが扉ということでしょうか」

「見れば分かるでしょ」

「……」


寄ってきたローズに冷ややかに言いながら、レインは壁の円環に触れてみる。

冷ややかな、のっぺりとした金属質な感触。

円環の外縁と内縁をぐねぐねと繋ぐ溝が、最も外側の円で49本。内側に行くほど数は少なく、数えてみると7ずつ減少し、最後の窪みに繋がる溝は7本。

指に力を込めてスライドさせてみると、円環はすぅ、と回転し、ある角度でカチッと音を立てた。

もう一度動かしてみると、また同じように、すぅ、かちっ。

よく見てみると円環の外縁に並ぶ溝の一端は等間隔で、一度のかちっによってひとつずつスライドするようになっているらしい。内側のものも、最外縁のものと同じ角度を一単位として回る。

そして、円環の模様を囲む宝玉からは、円環の外縁に向けて一本ずつの溝が伸びている。


つまり、円環を回して溝を組み合わせ、宝玉と窪みを接続するというパズルなのだろうとレインは当たりをつける。


「これまた難儀なものですね……」

「そうでもない」

「そうなんですか?」


はてなと首を傾げるローズにちらっと視線を向け、しかしなにを言うでもなくレインはパズルに挑む。


一時期、こういったパズルゲームにどハマりしていたレインである。

VR女体パズル(詳細は省く)などというものをプレイしている最中にふと我に返ってブームは過ぎ去ってしまったものの、培われたパズル的思考は損なわれていない。


溝の組み合わせは、一見49×42×35×28×21×14×7通りあるかのように見える。

しかし、七つの宝玉が等間隔に並んでいるということは、正解の形はそのまま回転させても正解の形として成立するということになる。つまり、例えば赤色の宝玉から窪みに繋がっているのなら、その回路はそのまま動かせば青色の宝玉と窪みを繋げられるということだ。


それに基づけば、最も外側の円環は七通りのパターンのみを考慮すればいいことになる。

ちょうど七回の動きで、溝はひとつ隣りの宝玉に移動するからだ。

そして次は、その溝の内端と次の円環の溝が七ヶ所全て接続する組み合わせを探す。どの円環も溝の外端は等間隔に並んでいる割に内端が不揃いなため、ここでもいくつかの可能性は即除外可能だ。

繋がるものがあればさらに内側の円環も同じように。

もしもなければその時点で一つ前の円環が間違っていることが判明するので、ひとつ戻ってほかの組み合わせがないかを探る。


端からごり押すつもりでいけばそう面倒な手間でもなく、テキパキやれば結局五分程度で正解にたどり着いた。


かちっ、と最後の円環を回す。

七つの宝玉と窪みが接続され、宝玉から流れ出す光が窪みに溜まる。

そして壁が、すう、と沈んでなくなった。

その向こうにはまた部屋が続いている。


「なかなかやりますね」

「役立たず」

「あら。あなたがやりたいと言うからやらせて差し上げたのですよ」

「あっそ」


ふふん、と胸を張るローズに胡乱な視線を向け、それからレインはローズと共に次の部屋へと進む。

相変わらず七角形の小部屋は、通ってきた通路のある辺からひとつかふたつ飛ばしで二つの扉が設置されている。足元を見ると、それぞれの扉に繋がるような頭の広いY字の溝が刻まれ、そのちょうど中心部分を囲むように円形の切れ目が入っている。

近づいて触れてみると、どうやらその円形はくるくる回るらしい。


この時点で、なんとなくこのエリアの攻略法を察したレイン。

先程の円環パズルのようにいくつもある部屋を使ってひとつの回路を作るというなんとも面倒な形式を思い浮かべ、レインはげんなりする。


「この形は覚えておくべきでしょうね」

「別にスクショ撮っとけば」

「……!言われなくても撮っていますけど」

(ガキみたい)


明らかに言われて気がついた様子のローズに呆れの視線を向け、それからレインは適当に選んだ扉を見てみる。


壁にはなにやら7×7のマス目があり、そのうちの48マスには模様の入ったプレートが入っている。そのうち7つは宝玉がはめ込まれているが、円環パズルのような窪みはないし、模様は繋げても回路になりそうなものではない。


試しに空いたマスの隣のプレートをスライドさせてみると、驚くほどなめらかに動いた。

どうやらこうやってプレートを動かし、正解の形を作るということらしい。


周囲を見回してみるが、そのヒントとなりそうなものは特にない。空いたマスには一応十字に切れ目が入ってはいるものの、どこをスライドさせても同じでただの装飾のようだった。


まず正解の形が分からなければどうにもならないので、レインは面倒そうに眉根をひそめる。

例えば数字でも振ってあれば話は早いのだが、模様は直線や円の組み合わせからなるもので言語的な気配はしない。

明らかに模様の密度がプレートごとに異なっている辺りなにかしらの法則はありそうだったが、パッと見て分かるものではないらしい。


「……わたくしはあちらのパズルを見てきますね」


後ろから覗き込んでいたローズが、早々に諦めてもうひとつの扉の方へと行ってしまう。

それに視線も寄越さず、レインは壁を睨む。

とくに理由はなかったものの、選んでしまった以上早々に諦めるのは気に入らないレインである。


パズルの模様は、最もシンプルなものでキのような形。

最も複雑に見えるものでは、網目状のものや、斜め線にいくつかの円環といったところ。

宝玉のプレートにも模様は記されているが、さすがに面積が狭い分模様はシンプルだ。


パズルの形式からして、恐らくなにかしらの順番が存在しているのだろうとレインは考える。

最もシンプルな"キ"を基準に、なにか法則はないかとしばし頭を悩ませる。


("キ"が1なら、2は……"キ"はなにが1?……あれ。でも、なら網目は……ん、ああ、じゃあ2か。おっけ)


仮に"キ"を最初とした場合にありえそうな規則を探していたレインは、図形から数値への変換でありがちな交点に着目する。そうして、最も複雑そうな網目が7本×7本の線からなることに気がついた。つまり、交点の数は49である。

例えば1を空きマスとしたとき、2が"キ"、49が網目という形になると予想すれば一応こじつけにはなる。

試しに比較的シンプルな順に数えてみても、同じ数は見当たらなかった。


そうしたところで、レインは顔をしかめる。


「めんど」


もしも交点の数で正解だとすると、全ての模様の交点を数えた上でそれを数字順に並べる必要があるということで。

その苦労を考えたレインは、さすがに嫌になってパズルの攻略をやめることにした。

攻略法を解いたので、レインからすればクリアしたも同然なのである。


そんな訳で、レインはローズがにらめっこしている方に向かった。


近づいてみれば、びんかんに気がついたローズが焦ったように振り向き、かと思えば安心した様子でほっと息を吐く。そうして胸を張ったローズは、レインへと嘲笑うような視線を向けた。


「あら。諦めてすごすご引き下がってしまったのですか?」

「は?解いたし」

「っ、強がらなくてもよろしいですよ。それならどうして空いていないのですかっ」

「解き方分かったけど面倒すぎる」


やれやれとため息を吐きながら、レインはローズ越しに扉のパズルを見やる。


壁には大小ふたつダルマのように重なった正方形の枠があり、大きいものの中には正方形や長方形のブロックが収まっている。最小のブロックを基準にすると大枠のサイズは6×6マスで、小枠は2×2マス。最大のブロックは4マスの正方形と3マスの長方形。大枠には計3マス分空きがあり、上方中央に2マス分開いて小枠と通行している。ブロックは4マス正方形のものに溝と窪みがある以外模様などはない。

更に、その枠を囲むように円形の溝が走っており、その途中途中には等間隔に宝玉が埋め込まれている。円の上部はちょうど小枠に到達しており、見たところ窪みブロックの溝と繋がりそうだった。


どうやら箱入り娘の類らしい。

それも一般的な5×4の長方形と比べややこしそうな変則型。


「ち、近いですっ」


扉を睨んでいたレインは、どうやら知らない間に身を乗り出していたらしい、ぐいっとローズに引き離される。

憎らしげに睨んでくるローズにレインは舌を打ち、じゃあどけよと視線で告げれば、ローズはむくれた。


「こちらはわたくしの領分ですっ。やり方が分かったなら解けばいいじゃないですか。どうせ見えを張っているんでしょう?バカバカしいです。まったく」

「は?うざ」

(なにこいつ。うざっ)


睨みつければぷいっと振り返ってしまうローズ。

レインは聞こえよがしに舌を打ち、それから渋々もう片方のパズルに取り組んだ。

絶対にローズより先に終わらせて嘲笑ってやろうと、わざわざラベリングアプリまで引っ張り出してプレートごとに交点の数をメモして貼り付けていく。


そうしてみると、やはり交点の数は2〜49。

思えばマスに入った十字の切れ込みは交点1な訳で、そう考えると1〜49までを網羅できることになる。これはつまり、後ろの切れ込みは単なる飾りではなくどこに空きマスを持ってくるのかということを示しているのだろう。


やはりこれらしいと確信したレインは、あとはさっさとパズルを解く。

この形式も久々ではあったものの、やや頭を悩ませれば次第にセオリーを思い出してきて、結局さほど時間も掛からずに解き終わった。


完成してみると、見事に七角形に並んだ宝玉が光を放ち、あっさりと扉が開く。

振り向いてみればローズは変わらず扉とにらめっこしている。


「おい、のろま」

「っ、あなた、……!」


呼びかければ、苛立たしげに振り向いたローズが開いた扉を見て絶句する。

そんな様子を鼻で笑い、レインは次の部屋に歩を進めた。


慌てて着いてくる足音に痛快な気分になりつつ、部屋を見渡せば、やはり同じような形の部屋である。ただ、床の溝の形がやや異なっていた。


先程は頭の広いY字だったが、真ん中の回転部分の溝がここでは"く"のような形になっている。

どうやら、みっつある通路のうちふたつしか繋げないということらしい。


「次は負けませんから」

「別に競ってないし」

「っ!ぐむむ……!」


意訳:普通にやっても勝ったけど?

少なくともレインはそのつもりで口にした言葉は、ローズにもきちんと伝わったらしい。

悔しそうに歯噛みするローズに晴れ晴れとした気持ちになったレインは、内心意気揚々と次の扉を目指す。


そうすると当然もう片方に向かおうとするローズに、レインは冷ややかに告げる。


「どうせゴール真ん中なんだからそっち行っても無駄でしょ」

「……そこまでおっしゃるなら仕方ないのであなたの方を手伝ってあげます」

「はっ」

「〜〜ッ!」


引きつった笑みを浮かべるローズを鼻で笑えば、射殺さんばかりの鋭い視線を向けられる。

しかし当然精神的優位に立つレインにそんなものは通用せず、むしろ鍼治療ご苦労さまとばかりに軽々と肩を回した。


ともあれレインは、意地でも上回ってやろうと血眼のローズと共に次なるパズルに挑む。

今度のパズルはどうやら宝玉を動かすものらしい。

七角形とその対角線を描く溝があり、頂点に宝玉が並んでいる。宝玉は溝をスライドさせられるようになっており、スライドさせると光の筋が溝に残った。戻したりほかの宝玉がなぞるとその光の筋は消えるようだ。


どうすればクリアなのかも明確でないパズルを前に、まったくバリエーション豊かなことだとレインはため息を吐いた。


果たしてここの攻略は今日中に終わるのだろうかと、僅かな不安が生まれるレインだった。



《Tips》

『パズル』

・図形や物体、数式などを正しい形にする知的遊戯。数学と深く関わりがあるものが多く、解法を数学的に解き明かすような遊び方もある。ちなみにVR女体パズルはとある数学者が己が知能と性癖の全てを注ぎ込んだ傑作で、パズルとしての完成度も性的コンテンツとしての完成度も極めて高い。ただ、あまりにも女体がfurryすぎる上にパズルに妥協がなさすぎるので一般受けはしなかった。

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