第20話 空色の女

遅刻しましたが更新です

―――



ころころころころころころころころころころ


「……」


ころころころこころころころころころころころころころころころころころころころころ


「……」


ころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころころ


「わふ」

「……」


ぴた。


咎めるような声音にレインは手を止め、視線を向ける。

呼び出されたかと思えば即席椅子扱いされて不満らしいと伝わってくる器用な表情で自分を見るエドをしばし見つめ、レインは無視した。


「わふぅ……」


エドは呆れた様子で息を吐き、やれやれとでも言いたげに闇の中に引きこもる。

それを横目に(初めからそうしてればいいのに)などと思うレインは、かと思えばまたころころころころころころころころころころころころこ―――


シズとのプレイを終えたレインは、相変わらず今日もまたひとりでミスティストーリアにログインしていた。

特に目的もなく、なんの気なしに降り立っただけの夕焼けのミスティス。

さあ冒険しようなどという意欲は当然なく、なんとなく腰を落ち着けようとエドを呼び出して。


そうしてそれからずっと、レインは宝玉をころころしている。


トレジャーチェイシング(シズ命名)の結果、ダブったからと軽率にプレゼントされた黄色の宝玉。雷属性の『第二層』レベル、ややこぶり。


それを、エドの生みだした闇の上で、わざわざガントレットを外した上で指先で押さえつけるようにして、ころころ。


控えめに言って狂気的と呼べる光景である。

いくら目的がないとはいえ、もう少しなんとかならないのかと、エドでなくとも呆れたくなる。


そんなことをしていると、不意にメッセージの通知が届く。

ころころしつつ視線を向ければ、差出人は『レッド=クリムゾン』。

どうやら前回レインを夜型と見越して、遊びに誘っているらしい。


面倒だったので無視した。

なんなら設定からメッセージ通知をミュートした。

フレンドし甲斐のないやつである。


それからまたしばらくころころしていたレインは、しかしさすがに飽きて(それまで実に30分以上)、宝玉を握る。それを手の中で弄びながら、レインはくぁと欠伸をした。


(……寝よっかな)


なんとなく気分が乗らないので、ログアウトしようかなどと思うレイン。

けれど、病歴十数年にも及ぶ慢性的な布団に入ってから動画とか見てしまうやつシンドロームにより、なんの気なしに攻略サイトなんぞを立ち上げてしまう。


ついでに動画アプリを立ち上げて『ひまつぶし』プレイリストを再生しつつ、つらつらと攻略サイトを流し読む。しばらくそれを続けていたレインは、やがて唐突にそのウィンドウを消すと、エドを帰還させた。


そうして向かうのは、『鉱山の金糸雀』。

集めた宝玉の中に、そういえば火属性っぽいものがなかったなと唐突に思い出したので、せっかくならプレゼントしてやろうという思惑だった。


そんな訳で、無為にすぎる時間を抜け出したレインは、気だるげに追憶を辿る。

降り立つなり朝日に顔をしかめ、逃れるように洞窟に駆け込む。

一応ガントレットを装着し直し、しかしやはりその手の中に宝玉を弄びながら、洞窟を進む。


さすがに時間が時間なので、プレイヤーの姿はやや少なかった。

速度において特に優れた部分のないレインなので、なるべく競争率が低いに越したことはない。

だから適当に人がいなさそうな雰囲気を求めてフラフラ歩き回っていると、偶然にもレインの方へ向かってくる光とそれを追うプレイヤーに遭遇した。


とっさに光に手を伸ばすが、光はそれをあっさり避けて通り過ぎる。

舌を打つレインの脇を後続のプレイヤーたちが通り過ぎ、続くチェイサーたちを殴り飛ばしつつ群れを抜ける。


その時点でやややる気が萎えていくのを感じるレインだったが、光が黒色だったので、酸っぱいブドウ理論によりまだ多少いらだちは少ない。

盛大にため息を吐き、それでもレインはまた歩いてみた。


それから何度か追いかけっこに遭遇するレインだったが、速度特化のミスト持ちが独走していたり競争相手が多かったりとなかなか都合よく手に入るタイミングもない。

そうこうしていると手の中で弄ぶのにも飽きて、というよりそろそろ邪魔なので、かといってインベントリにしまうのもなんとなく避けるように、宝玉を口に入れてかろかろしてみる。

味はないものの、案外悪くない気分だった。


そんなこんなでまたしばらく歩き回り。

ついに遭遇した火属性らしき赤色の光を、わりとしっかり追いかけたにも関わらず逃したところでだいぶモチベーションの枯渇したレイン。


次ダメだったら即やめてやろうと思いながら洞窟を歩いていると、やがてレインは土色の光と遭遇する。


T字路の右手にレインがいるとすれば、左手から向かってくる光とプレイヤー。

きらきらと煌めく雲に透けた青空のようなドレスに、真っ白な髪の毛の上にティアラなんか載せたお姫様気取りのプレイヤーだ。なぜドレスがこんなに流行っているのかと脳裏に赤い少女を思い浮かべるレイン。


そのプレイヤーはなにやら透明な物体に悠々と腰掛け、髪を抑えたりなんかしつつかなりの速度でたったひとり飛翔していた。後ろに追いすがるプレイヤーやチェイサーもいない。というより、どうもこの辺りはチェイサーの姿がないらしい。


向こうも気がついた様子でレインにその蒼色の視線を向け、なにか心をささくれ立たさせる笑みを浮かべる。

絶対あいつ性格悪いと、自分を棚に上げて確信する。


そんないらだちもあり、また目的の火属性ではないので、これは無理そうだなと早々に見切りをつけるレイン。

それでも一応、あっさりと曲がって見えなくなった彼女を追うように道を曲がってみる。


―――そこには、プレイヤーがいた。


通路というよりはくぼみとでも呼びたくなる短い行き止まりに。

お姫様気取りの空色とは別の、灰色のコートに身を包みポッケに手を突っ込んだ長身のプレイヤーがいた。

無表情で手の中から光を放ちながらそれを睨みつけている空色は、顔を覗かせたレインにちらと視線を向けて。


そして次の瞬間、灰色コートは両手を抜きだす。


手で作った銃口が、空色とレインに向く。


―――悪寒。


システムに規定されたものとは異なる直感に、レインは咄嗟に飛び退く。


「ばんっ」

「ッ、あ、」


灰色コートの口から放たれる、子供じみた擬音。


悪寒とともに耳元を通り過ぎる風切り音にレインは舌を打ちたい気分になり、目を見開き傾ぐ空色を見る。

あっさりと倒れ伏した空色が光に消え。


けれど残った光が、ふわりと宙に浮く。


赤い名前を冠する灰色コートが、その紫色の瞳に僅かな笑みを乗せてレインに向ける。


「ほう。察しがいい」

「……」


ぱっ、と手を開いてまたポッケに突っ込む灰色コートに応えることなく、ちらと光を見る。

その光は、まるで誰も手にしたことがないかのように浮いている。


だからインベントリに入れられないのかと、レインは納得する。

つまりあの光が収まるまで、あれは厳密にはだれの所有物でもないのだ。

そして目の前のPKは、行き止まりに待つことによって、それを確実にかっさらおうとしている。

チェイサーがいないのも、そのために掃除したといったところか。


(手を拳銃にする、だと限定的すぎる……コピー?とりあえず声がキーとは思い込まないで、一撃死さえなければ距離をつめてやれるかな……)


脳内で戦術を組み立てつつ、重心をやや前に向けるレイン。


「お勧めはしない」


ふ、と笑う灰色コート。

知ったことかと、レインは駆け出―――さない。


まるで灰色コートの言葉に同意を示すかのように、やれやれとでもいいたげにやや前のめる身体を起こす。

そうして、おもむろに手を上げる。

まるで先程の灰色コートを真似するように、手で作った銃口が灰色コートを向く。


灰色コートはくつくつと笑い、その紫色の目を細めた。


「それに意味がないことくらいは、分かるがね」


灰色コートの言葉に、レインは応えることなく。


そしてただ、べ、と舌を出す。


―――口中に秘めた黄色が、晒される。


「っ、ふははっ!」


驚愕に目を見開き、そして笑い。

空気を弾いた閃光が、距離を食い潰し襲いかかる―――ッ!


「ぐっ、!」


雷属性の第二層、『ラピッドボルト』。

遠くまでは届かず、また威力は低いものの、その速度は当然のように雷速である。

回避などできる訳もなくその身に雷撃を受けた灰色コートは、弾けるような衝撃にその身を硬直させる。


魔法の発動と共に駆け出していたレインは、灰色コートが動き出す頃には既に射程内に標的を捉えていた。

この距離ならば、拳銃すらも置き去りだ。

レインの振るう拳を、灰色コートは咄嗟に両腕を盾にガードする。


ガゴンッ!

と、腕を殴ったとは思えない衝突音。

拳が砕けるのを感じて顔を顰めるレインだったが、灰色コートは衝撃には耐えられず弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「がっはっ!ぐぅっ!」


声帯をぶち抜くように肺の空気を吐き出した灰色コートが地面に倒れ、しかしレインは一切の妥協なく速やかにその頭を潰しにかかる。


「シッ!」

「!」


足を振り上げた瞬間振るわれる腕。

あっさりと分断された軸足の足首にバランスを崩しながらも叩き込む踏みつけは灰色コートの耳を引きちぎりながらも地面を叩く。


「勝ったッ!」

「は?死ね」


レインの顔を下から狙う銃口。

しかしレインは一切動じることなく叩きつけた膝をおり、浮いた足首の断面をその頭に叩きつける。


灰色コートの頭を潰すと同時、肩に突き刺さる衝撃。


レインは盛大に顔を顰め、それからおもむろに片足で立ち上がる。

落ちた数枚の硬貨と鞘に入った短剣らしきものを適当にインベントリに放り込み、それからけんけんで光を手中に収めたレインは、やれやれと一息つく。


目的のものではなかったものの、サイズはなかなか大きい。

これならまあプレゼントとしても意味はあるかと、レインは思う。


灰色コートが掃討してくれていたおかげでチェイサーが存在しないのがラッキーだった。


それでも意地で壁に寄りかかったりせずに光が収まるのを待ったレインは、それをインベントリにしまってさっさと『後日譚』の世界を後にする。


夕暮れに顔をしかめるレインへと。


「先程はどうも、お世話になりましたわ」


なんとなくとげとげしく話しかけてくる空色に。


レインは、空を嫌う理由が少し増えた。



《Tips》

『所有権』

・アイテムを所有する資格。所有権のないアイテムは原則インベントリにしまえない。基本的に所有権のないアイテムは手にした者(プレイヤーに限らない)の物となるが、宝玉をはじめて獲得するときのように『光が収まるまで持っていた者』といった条件を満たさなければ所有権を得られないものもある。自分で所有権を有するアイテムは、インベントリにある、または直接所持している(手に持つ、身につける、などなど)場合に限り喪失時やファストトラベルなどに伴うことができる。例えば所有権を有していても道に落としてそのままどこかへ移動してしまえば、アイテムはその場に残り続けるということ。そうして置き去りにされたアイテムは24時間で所有権が消失し、所有者無しの状態となってしまう。



342.もちもちモチ太郎@PK

>>339

つまりもろだしさんがカスってことでFA?


343.もろこしバズーカ@PK

>>342

FA


344.いつもスレ立てしてくれる人@PK

いやあ、負けてしまいました


345.でんちゅー@PK

いつもスレ立てしてくれる人が負けるとは珍しいな


346. もろこしバズーカ@PK

魔法近寄らんとこ・・・


347.まっつぉん@PK

おつおつ


348.いつもスレ立てしてくれる人@PK

多分この前姫が友達になったっていう人ですね

盾ごとぶち抜かれてビックリしました


349.でんちゅー@PK

まじか


349.もちもちモチ太郎@PK

>>177

この辺りの件のやつ?

初心者じゃん


350.いつもスレ立てしてくれる人@PK

やや、あれは相当場慣れしてますよ

面白い技見せてくれましたし


351.まっつぉん@PK

>>350

技とな?


352.もろこしバズーカ@PK

>>349

その前にわいも戦っとるねん・・・


353.でんちゅー@PK

二日連続でPKと遭遇しPKKする初心者……


354.いつもスレ立てしてくれる人@PK

>>351

こんど見ますか


355.でんちゅー@PK

クエスチョンないのがとらにくきゅべあ


355.まっつぉん@PK

>>354

遠慮しときます


そしてでんちゅーさんは一体なにが…?


356.もろこしバズーカ@PK

・現在地:空島

・思考入力


あとは、分かるな?


357.いつもスレ立てしてくれる人@PK

空島半裸ギャグボールマーン!


358.まっつぉん@PK

>>355

とらにくきゅべぁ→虎、肉球(思考ノイズ)

ギャグボ先輩のご冥福をお祈りしよう……


357.もちもちモチ太郎@PK

待ってあの人戦いながら思考入力で掲示板やってたん?


358.いつもスレ立てしてくれる人@PK

ギャグボールで口ふさがってるしね


359.ペタロイド@PK

でんちゅーが変態と聞いて


360.もちもちモチ太郎@PK

そういう意味じゃねえんだよなあ


361.もろこしバズーカ@PK

>>359

正解


―――


「くははっ―――今度また焼いてやろ」


すでに彼女のいなくなったその場所で。

十数分前の掲示板をにらみつける、レッドなのだった。



《Tips》

『思考入力』

・文字を思考で入力する技術。脳内で言葉をつぶやくような要領で入力ができるので、慣れればかなりの速度でかつ正確に入力可能。これがあればいつでもどこでも好きなだけ執筆できる。ほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る