第19話 魔法を求める者たち
更新ですにゃ
―――
◆
伝承に聞こえる魔性の歌は、人々が恐れ近づかぬ間に、いつしか消えてなくなった。
そうして魔法を求める者たちは次第にまた、恐れを忘れて暗闇へと沈む―――
「おん?」
「……」
降り立ってみれば、早朝の清々しい空気。
目の前にぽっかりと穴を開けた洞窟の前に、なぜかシズやレイン以外のプレイヤーがいた。
「っかしいな……」
(名前浮かんでるし、普通に人だよなあれ)
どういうことかと改めて物語の設定を確認すると、参加制限の部分が『制限なし』となっている。
更に見れば、どうやらこの『後日譚』は参加制限をかけられないタイプらしい。
なるほど、と頷き、それからレインにその事実を共有すれば、レインは心底嫌そうな表情になった。予想通りすぎる。
とはいえ今回は、街ほどに人がごった返している訳でもない。
渋々といった様子は考えてみれば普段通りなので、気にせずシズはレインとともに洞窟に足を踏み入れる。
『環境系:―――未踏破―――』
・求めるならば、追え。
相変わらずの説明文、今度はきちんと追うつもりでやってきたとレインは笑う。
前回と同じくスーパー姑息シールド戦法をとろうという人間とは思えない挑戦的な笑みだった。
さておきふたりは洞窟を進む。
さすがに広い洞窟なだけあって、プレイヤーの姿はまばらにしかない。
それでもだいたい見渡せばチェイサーの中にひとりは紛れているというのだから、そこそこの人数と言えそうだった。
「ん?でも魔法欲しいなら取り合いになんのか?」
「じゃない」
「マジかよ」
(殺伐としてんなぁ……)
あっさり、というよりは適当に、ではあれどゲーム経験者であるレインに肯定され、げぇ、と顔をしかめるシズ。至って平和に過ごしてきたので、争いごとはあまり好まないのである。
「別にそれくらい普通だから」
「そうなのか?」
「当たり前じゃん。ゲームなんだし」
「そんなもんなのか……」
なるほど、と神妙な面持ちで頷く。
考えてみれば、これはゲームである。
プレイヤーであるならば、その
うむうむと頷き、それからシズはレインに笑みを向ける。
「にしてもあれだな、なんかレインって玄人っぽくてかっけえな」
「は?……きも」
(……照れ隠しと思うのも限界あるよな、たまに……わりと)
怪訝な顔をすら背けられ、ひっそりと心に傷を負う。
そうこうしつつしばらく歩いていると、なにやら騒がしい音を聞きつける。
どうも近づいてきているらしい音にピンと来たシズは、レインを急かして駆け出した。
そうして通路を曲がれば、案の定光を追うチェイサーたちとプレイヤーたちの背を捉える。
どうやら先頭はひとりのプレイヤーのようでかなりの速度にチェイサーたちはぐんぐん置いていかれていた。
(きついか?いや行ける、ってかやってやんよ……!)
「レイン、先に行くぜ!運んでくれ『スーパーシールド』!」
走るだけでは追いつけないと察したシズは、レインに言葉を残し出現させた光の盾にしがみつくように乗り込んだ。そしてなるべく慣性で落ちにくいように徐々に加速し、ほどなくして集団に追いつく。
「まーちーやーがーれー!」
「?、うぉ!?」
「サンタさんだ!」
「きんとうーん!とか言ってる場合じゃないのじゃ……」
「卑怯者―!」
最高速度は並のプレイヤーの全速力ですら追いつかないほど。
あっという間、ではなくともあっさりと頭上を追い抜くシズはプレイヤーたちの声に(やっぱこれやばいか……?いやでも別ルール無視とかしてねぇ……よな?)と若干不安になりつつ、そしてついに先頭のプレイヤーに追いつき、そして追い抜く。
その瞬間、逃げてゆく黄色の光はシズに合わせ加速した。
「にゃっ!?」
「すまーん!運が悪かったと思って諦めてくださーい!」
(なんでこいつネコしてんだろ……)
髪色とおなじ真っ黒な猫耳と尻尾を生やした(?)軽装のプレイヤーの驚きの声を後目に、シズはひたすら光を追う。
あとは曲がり道にさえ気をつければ一番乗りは間違いないと笑みを浮かべ、
「にゃっはー!負けにゃいぞー!」
「おぉっ!?」
その瞬間楽しげな声とともにシズに並ぶ猫耳。
驚きの視線を向ければ、人とは思えないほどの四足歩行で駆ける猫耳と目が合う。
はじめて正面から見ると、なんとも中性的な顔立ちをしている。
「にゃふっ」
「はっ!」
(おもしれぇ……!)
猫耳の挑発的な笑みに、シズは犬歯を剥き出して笑う。
そのとたん加速する猫耳に合わせ、シズもさらに速度を上げる。
「にゃーの速度についてくるとは、やるにゃー!」
「むしろ足でこれについて来てるそっちの方がすごいんですけどね!」
「にゃっはっはー―――にゃんでまだ上にいるつもりにゃんだにゃ?」
「なっ、あ……!」
したり顔と共に、加速。
あっという間にシズをぶっちぎって見せた猫耳は一瞬だけシズに振り向き、そして光を追って曲がり角に入って行った。
「くっ!」
盾にしがみつきながら最小限の角度で角を曲がったシズは、その先の行き止まりで黄色の光を手に笑う猫耳を見る。
シズは悔しさに歯噛みしながら盾を軽く立てるようにして停止させ、危うく吹き飛びそうになるのを押さえつけ、そうして地面に降りる。
どちらからともなくふたりは近づき、そうしてシズは手を差し出す。
「完敗です。お速いんですね」
「にゃっはは〜!まあそんにゃこともあるにゃ〜♪」
上機嫌に笑いながらがっしりとシズの手を取る猫耳。
後ろではしっぽがぴょこぴょこ弾み、猫耳の猫耳もにゃんにゃん踊っている。
その耳からの流れで頭上に視線を向ければ、そこには『《にゃぴょわん盗賊団》にゃん助』というプレイヤーネームが浮かんでいた。
「にゃぴょ……」
「にゃ?にゃあ、にゃーはにゃん助にゃ。その前のはにゃーのファミリアにゃよ」
「ファミリア……あ、すみません。わたしはシズといいます」
「よろしくにゃ!ファミリア知らにゃいってことはにゃーは初心者なのにゃ?」
「はい。昨日からですね」
「初心者にしていい走りっぷりだったにゃ!」
「あはは、ありがとうございます」
ほのぼのと笑い合うふたり。
ちなみにその間、近くにいたチェイサーたちはシズのスーパーシールドが弾き飛ばしている。
それを見ていた猫耳―――にゃん助は、「いいミストだにゃ!」などと笑いながらくるっと周囲を見回す。
そして次の瞬間にゃん助の身体がブレたように見え、かと思えば周囲にいたチェイサーたちは全て切り刻まれて光に消えた。
目を見開きぱちくりと瞬くシズに、にゃん助は自慢げに笑う。
「今のがにゃーのミストにゃ!」
「凄いですね……!」
(なんだ今のかっけぇ……)
「楽しませてもらったお礼にゃよ!」
目を輝かせるシズに猫耳は鼻高々といった様子で胸を張る。
かと思えばにゃはっと笑い、ぱちこんとウィンクした。
「ま、さすがに見せるだけにゃけどにゃ!」
「普通ミストは明かさないものなんですか?」
「そりゃそーにゃ」
「ははぁ。勉強になります」
「にゃはっ。シズにゃんは面白いやつにゃね!」
「にゃん……?」
「呼び捨てにゃんて恥ずかしいにゃん……」
「なる、ほど、?」
(いやにゃんの方が恥ずくないか……?それともニャン語では『さん』くらいの意味なのか……いやニャン語ってなんだよ……)
シズが首をかしげていると、ニャン助はぽこにゃんと手をたたいて目を輝かせる。
「そうにゃ!せっかくだしフレンドしてやるにゃるにゃ!良きにはからうにゃ!」
(文法構造どうなってんのそれ……)
【プレイヤー"にゃん助"があなたにフレンド申請しています。】
「あー、じゃあ、どうもよろしくお願いします」
「よろにゃーん!」
「よろにゃんです」
「んじゃばいにゃおー!」
きらっと歯を輝かせ、それからニャン助は颯爽と去って行く。
それを(相変わらず速えな……)と感心しながら手を振って見送り、ふと気がつく。
「ってことはあれ、素のスペックなのか……?ぱねえ」
世の中は広いなぁとしみじみ。
それからシズは、光の盾移動で来た道を戻る。
どうやらチェイサーやプレイヤーはすでに次の光を求めて散ってしまったらしい、若干見覚えがあるような姿はあったものの、それもまばらだった。
戻ってみれば、レインは元の場所から少しもシズを追いかけていなかったらしく、壁に背を預けて悠々と待っていた。
「わりぃ、ひとりで先走った」
「別に。面倒だし」
「んあー、そか。ここだとあのわんこ使えねえもんな」
苦笑するシズに、レインは壁から離れつつじろりと視線を向ける。
「で、取れたの」
「いや、それがとんでもねえプレイヤーがいてな?なんと普通に走っただけなのにぶっちぎられたぜ」
「ザコじゃん」
「いやいや、ありゃあ敵わねえよ」
苦笑するシズに、レインはむすっとして、それからふいっと視線をそらす。
なんとなくフレンド登録したとは言うべきでないんだろうと察しているシズは、それからさっと切り替えて次の魔法を探し歩く。
「んー、やっぱこれ使わん方がいいかね」
「なんで。使ってよ。走りたくない」
「おおぅ、いや、でもそれじゃあ一緒にやってる意味なくね?」
「は?なにそれうざっ」
「いや、まあ、レインがいいって言ってくれるならいいんだけどよ」
「別に」
(いや結局それどういうあれなんだよ……)
むむむ、と悩ましく思うシズ。
けっきょく、こうしてのんびり雑談する時間も関係構築には重要なことかと強引に納得しておく。
それと似たようなことをレインも思ってくれていると、そう思うのはやや勇気のいることではあったが。
それからしばらく歩いていると、やがてふたりはまた光をおうプレイヤーとチェイサーたちに遭遇する。どうやら、少なくともにゃん助はいない。
レインに見送られ、後ろ髪がなにか引っかかっているような気分になりながらもスーパーシールドに乗り込んで光を追えば、今度はプレイヤーたちをぶっちぎり悠々とその真っ白な光を手にすることに成功する。
光が収まるまでを天井付近で過ごし、レインの元に戻ったところで魔法のお試し。
シズの手にした宝玉は、真っ白な宝玉。
どうやらこれは光属性の『第二層』レベルの宝玉らしい。
スーパーシールドとの親和性が高そうな属性にわくわくするシズだったが、魔法一覧を見てみればなにやら全体的に地味なラインナップにややがっかり。
とはいえ魔法は魔法。
それも初めて自分で手にした魔法ということであっさり気を取り直し、まずは最も単純そうな魔法を使ってみる。
「『ライト』」
宝玉の中に、なんとも見やすい黒色で魔方陣が描かれる。
一重の円環が完成したところで、シズは指を鳴らした。
ちゃっかり魔法起動のキーを好みに設定している。
「うおっ!」
眼前に浮かぶとんでもない光量にとっさに顔を背ける。
慌てて消そうとするが、そもそも魔法にそんなシステムはない。
なんとか実態を目にしようと挑戦してなんどか失敗しているうちに、光は消えた。
「ひゅう、すげえな光魔法」
「二度としないで」
「あー……わりぃ」
レインに睨みつけられ、シズは大人しく謝罪する。
しゅん、となりつつひとまず宝玉をインベントリにしまえば、意識は既に次なる魔法へと向いている。
「よーし!今日のうちに取れるだけ取りまくってやるぜ!そんで今度いっきに試す!」
「あっそ」
「てな訳で今日一日はここでいいか?」
「……まあ、いいけど」
「ありがてぇ!そうと決まればいくぜオラァー!」
「はぁ」
うぉおー!と意気揚々なシズ。
レインはため息をつきつつ、それに付き合った。
結局その日、ふたりはひたすら宝玉を求めて洞窟をさまよい歩いたのだった。
◆
《Tips》
『魔法を求める者たち』
・魔法を求めて追いかけっこをする人々。異形系ミストになぞらえてチェイサーなどと呼ばれることも。一部例外と能力系ミストを除き魔法を発動するためには宝玉が必要となるが、その主な取得方法が特定エリアでの追いかけっこなのである。基本的にスピードがものを言う戦場となるが、それ以外にも色々とやり方はあったりする。
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