第249話 ディストピア到着!!

 私達がディストピアに入っていくと、すぐにサイレンが鳴り響いた。そして、そのサイレンを皮切りに、街のあらゆる場所から機械人形が現れる。その機械人形は、アルカディアなどでも見たものと同じ姿をしている。という事は、今来ている機械人形達は、アルカディアなどにいた機械人形と同じ強さだと考えて良いだろう。それなら、いくら数を用意しても、ソル達を倒す事など出来やしない。

 だが、押し寄せてくる機械人形達の数が異常なまでに多い。いくら雑魚共と言えど、数が多ければ、足止めにはなってしまう。

 戦闘が始まると判断したメレは、すぐに聖歌を歌い始める。それと同時に、雷鳴が響き渡った。ソルが鳴神を纏ったのだ。機械人形が宙を舞う姿が見える。ソルと機械人形達が接触したのだ。

 このタイミングで、私はハープーンガンを使い、高層ビルを登る。屋上まで上がらず、途中でもう一つのハープーンガンを取り出して、別の高層ビルに向かう。立体的に移動していき、まずはソル達の戦場から離れていった。こうして、迂回する事で、私は敵の足止めを受けずに移動する事が出来る。

 大体二十階くらいの高さを維持しながら、ビルとビルの間を抜けて行く。ソル達の戦場では、近くのビルが斬り倒されたり、激しい雷鳴が響き渡ったり、激しい炎が上がったり、猫型の波動が広がったり、光の柱が出て来たり、ビルが凍り付いたりとヤバイ戦場が出来上がっていた。


「てか、ジークとエラもいるのか……本当に化物揃いじゃん……」


 過剰な戦力と言っても過言ではないくらいだ。もはや、正面突破で蹴散らして進んで行っても良かったのではと思うくらいだ。でも、よく見てみると、殺到している機械人形の数がえげつない。


「あれだと時間が掛かるか……」


 対して、私は大した障害もなく進めている。かなり上の方だから、機械人形達の視界にも入っていない。アーニャさんが私に託すわけだ。そのまま戦場も見えなくなったところで、私はとても大きな建物を見つける。他の建物よりも高く、見えている部分が太い事から、あれが目的地だと分かる。

 ここからだと、少し距離があるけど、皆よりは早く到着出来るだろう。私は、ビルの壁を蹴って、方向転換を行い、まっすぐにその建物へと向かった。


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 ルナが急いでいる間にも、ソル達の戦闘は続く。正面から押し寄せてくる機械人形達に鳴神を握ったソルが突っ込む。身体を雷にして、高速で移動しながら斬っていく。それで手数が足りないと思ったソルは、鳴神だけで無く、白蓮も抜いて近くの機械人形を斬る。


「無駄な動きが多い。せっかくの速度だ。流れるように斬れ」


 ソルのすぐ後ろから襲い掛かろうとしていた機械人形を斬り、そのまま周囲の機械人形を次々に斬りながら、レンゾウがそう言った。


「分かりました!」


 レンゾウの動きで、相手がただ者じゃないと改めて実感したソルは、そう返事をしてすぐに言われた事を反映させた。


「やはり筋は良い。天才という類いなのだろうな」


 レンゾウは、ソルの学習能力の高さと反映能力の高さに舌を巻いていた。そんなレンゾウには気付かず、ソルは次々に機械人形を斬っていく。レンゾウも負けてはいられないと思い、再び機械人形達を倒し始めた。

 そんなソル達とは反対側で、機械人形達が融けていく。


「『煉獄・ドラゴンブレス』!」


 ムートを纏ったシエルが、次々に機械人形を解かしていた。熱への耐性がないせいか、すぐに融けていくので、完全に無双している。

 その近くでは、白虎を纏ったネロが、機械人形に爪を立てていた。それだけで、機械人形が無残に引き裂かれていく。


「『白虎双波』」


 近くの機械人形に掌底を放ち、そこから周囲に白い猫型の衝撃が伝わり、周囲の機械人形を巻き込んで吹き飛んでいく。

 さらに別の場所では、機械人形達が凍り付き、完全に機能が停止していた。その余波で、周囲の建物も凍っている。その光景を作り出しているエラは、凍り付いた機械人形達に細かい氷の矢を放って、念入りに破壊した。

 その近くでは、ジークが聖剣で次々に機械人形を倒していた。時折、光る斬撃を飛ばして、遠距離から機械人形を倒してもいるが、基本的に群がる機械人形達に突っ込んでいる。その顔は、口が弧を描いており、戦いを楽しんでいるのが分かった。

 そして、一際激しい戦場では、シルヴィアと黒騎士が駆け回っていた。雷速で動けるソルよりも多くの機械人形を二人それぞれが倒している。


「ただの人が、そこまでの力を手に入れるか」

「運に恵まれただけです」


 そんな会話をしつつも、二人の敵を倒す速度は変わらない。その中で、シルヴィアの剣が限界を迎えて、刀身が砕ける。すると、近くにいた機械人形の剣を奪い、そのまま戦い続けた。

 そんな二人の戦場の近くにいたリリは、若干呆れつつ、団員と協力して機械人形を倒し続ける。突出した戦力は、リリとアザレアであり、その二人が正面に立っている。

 そんな戦場の中心で、聖歌を歌っているメレの近くにいたアーニャは、少し驚いた表情をしていた。


「これ、私の出番はなさそうね」

「皆さん、お強いですね」

「そうね。特に、シルヴィアさんとあの馬鹿は突出しているわね。その二人を抜いたら、やっぱりソルちゃんとあの男の子ね。なんで、あの数の機械人形に囲まれて無傷で笑っていられるのかしら……」


 戦力を集めろと言ったのは、アーニャだったが、これなら戦力を集めずに戦いに来ても問題無かったのではとも思ってしまう。だが、こちらに迫ってくる機械人形の数を見ると、やはり人数がいて良かったとも思っていた。

 メレの呼び掛けによって、参加したプレイヤー達は、機械人形のあまりの数に少し怯んでいたが、ソル達の戦い振りを見て、奮起し、普段以上の力を出して機械人形と戦っていた。

 だが、ソル達程の強さはないため、負傷をしてしまう者も少なくない。そんな負傷者達は、ミザリーが次々に治していく。メレの護衛をアーニャとアイナが引き受けてくれたおかげで、そうやって動けているのだ。

 正面で戦うソル達のおかげで、少しずつ進んで行く事は出来ている。だが、機械人形の数が多すぎる事もあり、進み具合は、本当に遅かった。


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 ビルからビルにスウィングしていって、五分程で目的地である建物に到着した。その建物の上層階の壁に張り付いて、周囲を確認する。


「正規の入口は、一箇所だけか……」


 このまま入口から中に入るのも馬鹿だと思うので、別の方法で中に入る事にする。さすがに、ここを爆破して中に入るなんて事はしない。音を立てずに入れそうな方法が一つだけある。

 ここは今、ちょうど影が差していた。内側も影になっているのであれば、あれで移動は出来るはずだ。


「暗殺術『シャドウダイブ』」


 影に入って建物への侵入を試みると、運の良いことに成功した。中は、どこかの通路になっていた。特徴的なのは、正面に壁はなく下まで吹き抜けになっているところだろう。


(何、この建物……変な構造……)


 私は、そっと吹き抜け部分を覗く。吹き抜けは一番下まで続いており、吹き抜けの広さもかなりのものだった。


(ここ通路しかない。全部下を見るためのもの? なら、一番下の階に何かあるはず)


 ジッと観察してみると、私の角度からではよく分からないが、機械のようなものが見えた。恐らく、あれがアーニャさんの話にあった装置なのだろう。下に降りて確認するかと考えた直後、装置の前に男が来て、何かの作業をし始めた。装置の調整をしているのであれば、あれが近衛洸陽の可能性が高い。まさか、このタイミングで遭遇するとは思わなかった。だが、これは、千載一遇のチャンスでもあった。

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