第248話 いざディストピアへ!!
アーニャから操舵の方法を教えてもらい、ソルは舵を握っていた。
「これ、本当に普通に操っても大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。他の船は、この船に付いていくように設定しているから。ソルちゃんは、そのまま操ってくれれば良いわ」
少しの心配もあるが、ソルは操舵を続けた。そして、目の前に嵐の壁が見えてくる。
「そもそもあの嵐の壁を越えられるんですか?」
「問題無いわ。消すから」
「えっ!?」
そう言って、アーニャがタブレットを操作すると、本当に嵐の壁が消え去った。
「え、えぇ……」
「元々あれを作り出したのは、私よ。消すくらいは、どうって事ないわ。また、生み出す事もね。ほら、そろそろ敵の射程範囲よ。気を引き締めて」
「は、はい!」
ディストピアの射程範囲に入ったと同時に、船の隊列が変わる。ルナ達の船を中心に、楕円状に並ぶ。
「私達が一番安全な船なのに、真ん中のにゃ?」
「安全なのは、乗っている人達が化物揃いだからよ。この隊列で、一番正面にいく船には、他の船よりも強力なバリアが張れるから」
「魔法の世界なのに、SFにゃ」
「魔法を使った工学だから、まだ魔法よ。バリアも魔力で作っているようなものだしね」
「にゃ……よく分からないにゃ」
そう言って、ネロがソルの方を見る。その視線を受けたソルは、苦笑いをしながら、首を横に振る。
「さすがに、私にもよく分からないよ。この世界の技術は、向こうの世界とは根本的に違うところがあるから」
「にゃ」
ソルも分からないと聞いて、ネロは理解する事を諦めた。
「さて、六割の勝負には勝ったわね。問題は次よ。ほぼ確実に攻撃が来る。それをバリアで防ぎながら進んで行くわ」
「まだブーストをしないんですか?」
「ブーストは、最後のエリアに入った直後よ。タイミングは、私が見極めるわ」
「お願いします」
操舵を握るソルの手に力が入る。そこにもう一人の手が重なった。その手の主をソルは、姿を見なくても分かった。
「メレちゃん?」
「気負わずに行きましょう。何かがあっても私達がいますので」
「メレちゃんが言うと、ちょっと安心するかも。ありがとう」
「いえ」
メレのおかげで、ソルから余計な力が抜ける。いつも通りのソルに戻った。それを見て、メレも微笑む。
そのやりとりの直後、正面から大きな音が聞こえる。それは、ディストピアから放たれた砲撃だった。運良く正面の船団の前に落ちたため、被害はない。
「そのまま進むわよ!」
「はい!」
砲撃の中をどんどんと進んで行く。砲撃は外れるものばかりではなく、バリアに命中するものも多かった。その音にネロが驚いて怯えるので、ミザリーが優しく抱きしめている。
そして、ソル達の視界の先にディストピアが見えてきた。大きな壁に覆われている場所で、その大きさはアヴァロンと同じくらいと思われる。特徴的なのは壁だけではない。その向こうにあるのは、大きなビル群だった。
「あれが、ディストピア……」
「見慣れた光景と言えば、見慣れた光景ですね。ですが、向こうに比べたら、とても暗い雰囲気です」
この間、アーニャはタブレットと睨めっこしていた。バリアの状況を確認しているのである。一応、予定通りの消耗度ではあった。
「ギリギリ大丈夫そうね……アイナ、準備は良いかしら?」
『いつでもいけます』
「ソルちゃん、しっかりと操舵を握っていて」
「はい!」
アーニャは、冷静にタイミングを見計らう。砲撃の密度が上がってきたそのタイミングで、
「ブースト!」
アーニャの声によって、アイナが操作し一気に船が加速する。ソルの背後にある船長室で勢いよく何かがぶつかる音がしたが、ソル達に気にしていられる余裕はなかった。急な加速で、砲弾が後方に落ちていく。船がミシミシと音を立てているのがソルにも分かった。
「こ、これ、本当に大丈夫なんですか!?」
「理論上は、ディストピアに着くまでは保つはずよ! こっちも砲撃をするわ! 主砲準備用意!!」
アーニャの声に連動して、船の主砲がディストピアに向けられる。そこからタブレットを用いて、細かく調整する。
「発射!」
全ての船から砲撃が放たれる。それらは、一点に集中して放たれた。すると、直弾と同時に、船に取り付けられたのと似たようなバリアが張られていたのが分かった。そして、そのバリアは、この砲撃で破壊された。
「バリアがあるって知っていたんですか?」
「ええ、あの防衛システムは、私が開発したものだから。色々と改造していたみたいだけど、根本的な部分の変更は出来ない様にしておいたのは、正解だったわ。あそこ弄ったら、設定も何もかも最初からだから」
「えっ……」
まさかの事実にソルは、どんな表情をすれば良いのか分からなくなっていた。それでも、勝手に回ろうとする舵をまっすぐ固定し続ける事は忘れない。
バリアが破壊された事で焦ったのか、砲撃が絶え間なく降り注ぐようになっていた。
「舵はそのまま!」
「はい!」
この状況で下手に動くよりも最短距離で進んで行く事をアーニャは選んだ。その分危険もあるが、これが一番の方法ではあった。先頭を走っていた船のバリアが破られる。一番砲弾を受け続けていたので、それも仕方がない。先頭の船が砲撃を受けて大破する。
そして、ディストピアの砲撃が、ルナ達の船にも多く降ってくるようになった。他の船も次々にバリアが破壊される。それでも、もう少しで着くので、このまま走り抜けるしかない。ルナ達の船のバリアも破壊された直後、砲弾が直撃コースで落ちてくる。
ソルが白蓮に手を掛けるのと同時に、リリとシルヴィアが跳ぶ。そして、リリが組んだ手にシルヴィアが足を掛けて、リリがシルヴィアをさらに上に投げる。それによって高く上がったシルヴィアは、落ちてくる砲弾をバラバラに斬った。本当は、シルヴィア一人でもここまで跳び上がる事は出来たのだが、それをしたら船が壊れるため、リリを発射台にして上がったのだ。
砲弾を斬ったシルヴィアは、そのままマストに着地した。
「…………」
「…………」
これには、ソルもアーニャも唖然としていた。だが、その防御のおかげもあって、旗艦である船が沈まず、全体の八割の船がディストピアに接岸する事が出来た。
「すぐに動くわよ! ルナちゃん!」
アーニャが船長室に呼び掛けに行くと、頭を押えたルナが出て来た。若干不機嫌そうに見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
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急加速のせいで、机の角に頭を強打して、悶えている間にディストピアに着いたみたいだ。アーニャさんに呼ばれて、船長室を出ると、ソル達の申し訳なさそうな顔が見える。すぐにミザリーが駆け寄って回復してくれたので、痛みはなくなった。
「作戦は覚えてる?」
思いっきり頭を打ったと思ったのか、アーニャさんが確認してくる。実際、かなりの勢いでぶつけてはいるけど、記憶に関しては大丈夫だ。
「はい。皆さんが囮で、私が本命です」
今回の作戦では、ソル達も含めたプレイヤーと戦乙女騎士団、シルヴィアさん、アーニャさん、アイナちゃん、黒騎士、レンゾウさんが囮となって正面から突っ込んでいる間に、私は高層ビル群を利用して迂回し、敵の本拠地を狙う。アーニャさんの予想通りなら、一番大きな建物に装置があるらしい。
「ルナちゃんの装備なら気付かれずに進む事が出来ると思うわ」
私の装備は、基本的に気配を消す事に特化している。夜であれば、もっと効果は高いけど、贅沢は言っていられない。
「私達が戦闘を始めたら、ルナちゃんも動いて」
「はい。分かりました」
アーニャさんは、最後の確認を済ませると船を降りて、皆に指示を出し始める。その間に、シルヴィアさんが私の傍にやって来た。
「ルナ。気を付けて下さいね?」
「はい。分かってます。シルヴィアさんもお気を付けて」
シルヴィアさんと長いキスをしてから、私も移動する。私がいるべき場所は、皆の最後尾。目立たない場所から一気に移動しないといけない。
ここからが、本当に最後の戦いだ。死ねば、アトランティス港に戻る事になる。絶対に死ねない戦いだ。
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