第247話 準備完了!!
その後、全六公演のメレのライブは無事に終わる事が出来た。結局、警戒を強めた巡回と常駐によって、侵入を試みる人達は、侵入前に捕縛される事になった。私もシルヴィアさんの頼みで、この捕縛に動いた。そして、青薔薇騎士団の尋問により、その大本も発見する事が出来た。勿論全員捕縛した。
こいつらがライブを邪魔しようとした理由は、私の予想通りこの世界に住みたいからみたいだ。というのも、向こうの世界に戻っても、自由などないし、こっちで自由に暮らした方がマシだからという事らしい。この尋問に立ち会った私は、この世界に生きる人を犠牲にしてもかと激怒したが、知らない人が犠牲になったところで、胸は痛まないとの事だった。なので、胸に黒影を突き刺して、物理的に痛ませてやった。プレイヤーだから、胸を少し指されたところで、心臓に届いていなければ、死ぬ事はない。この行動には、レオグラス殿下が驚いていたけど、私としては怒りを収められなかった。
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そんな危ない人間みたいな事をした三日後。私達は、アトランティス港に集まっていた。今日は、作戦当日。ここからディストピアへと向かって行く日だ。アトランティス港には、既に大量のプレイヤーが集まっていた。その人数は、大体二千人らしい。この世界に囚われた時にログインしていたプレイヤーは、二千五百人程らしいので、ほとんどプレイヤーが集まっていた。
そして、アーニャさんが主導で改造した船達の姿も見えた。そこにあったのは、金属で覆われた戦艦みたいな船ばかりだった。しかも、向こうの世界にもある主砲が付けられている。本当にまんま戦艦だ。
「わぁ……私達の船も改造されてる……」
ソルの呟きで、私も気が付いた。私達の船も一緒に改造されている事に。まぁ、今回の作戦が終わったら、私達もいなくなるし、改造されても別に良いんだけど。
その船が五十隻くらいある。さすがに、港に全部あるわけじゃなく、沖の方にある。そんな船に向かって、プレイヤー達が歩いている中、壁に寄りかかっている黒騎士の姿を見つけて、ちょっと微妙な表情になる。向こうも私に気付いて近づいて来た。
「しっかりと真実を見つけたようだな」
「偶々だけどね。もっと分かりやすいヒントはなかったの?」
「言論統制で伝えられる事は限定されているんだ。それに天界言語は俺にも分からん」
「ふぅん。そう。あっ、そうだ! 会ったら一つ文句を言おうと思っていたんだった! 情報を渡すつもりなら、トラップくらい解除してくれる!?」
「悪用されるのは、避けたいからな」
「死にかけたんですけど!?」
「お前は、死んでも問題無いだろう? だから、一人で行けと言ったんだ」
「なるべくなら死にたくないと思うのが、普通だと思いますけどね!」
「お前は普通じゃないだろう」
私は、頭を抱えて唸る。ぶん殴りたいけど、ぶん殴れるわけがないので唸るだけになる。そんな私に横から衝撃が襲ってきた。
「うごっ……」
「ルナお姉ちゃん!」
その声で、衝撃の正体がアリスちゃんだと分かる。
「アリスちゃん……私との約束は……?」
「?」
アリスちゃんは首を傾げている。この子のお転婆は治らないだろう。
「まぁ、いいや。それよりどうして、ここにいるの?」
「シャルロッテ姉様に連れてきて貰いました!」
「シャルに?」
そのシャルは、一体どこにと思っていたら、こっちに駆け寄ってきているところだった。人が多いから、身体の小さいアリスちゃんに先に行かれたみたい。取り敢えず、人混みに連れて行かれても困るので、アリスちゃんを抱き上げておく。この間に、黒騎士は消えていた。むかつくから、後でアーニャさんに告げ口する事にする。
「シャル、どうしてここに?」
「レオグラス兄様に許可を貰って、青薔薇騎士団の護衛付きで、ここまで来たの。ルナ達を見送るためにね」
「態々ありがとう」
「ううん。友人だもの。これくらいするよ。ほら、アリス、こっちにいらっしゃい」
シャルがそう言うので、アリスちゃんをシャルに渡す。
「シルヴィアもいるし、大丈夫だよね?」
シャルは、少し心配そうにそう言った。今回の作戦がかなり危険と隣り合わせである事は知っているみたいだ。
「大丈夫。シルヴィアだけじゃなくて、黒騎士やアーニャさんもいるし、頼もしい仲間も一緒だしね」
そう言って、私は周りにいるソル達を見る。頼もしいと言われたのが嬉しいのか、皆、少し照れていた。
「それもそうか。ねぇ、ルナ」
「ん?」
何かシャルが言いたそうな顔をしていたが、首を横に振った。
「ううん。何でもない。気を付けて」
「うん。ありがとう」
シャルが言いたかった事は、何となく分かった気がする。これが終わったら、どちらにせよ、シャル達とはお別れだ。これが最後の会話になるかもしれない。でも、そんな事をアリスちゃんがいる場で言ったら、アリスちゃんが悲しむし、引き留めようともしてくるだろう。それで気を遣ったのだと思う。
「ルナお姉ちゃん、頑張って下さい」
「うん。ありがとう」
アリスちゃんの頭を撫でて、シャル達に手を振りながら、船の方に向かう。シャルは、追いついてきた青薔薇騎士団の団員と一緒にこっちを見ながら、手を振り続けていた。恐らく、二人の見送りはここまで。これ以上は、異界人も多くなるし、危険と判断しているのだろう。
「ルナちゃん」
ソルが心配そうな声を出す。
「大丈夫。シャルも分かっているから」
そう言うと、ソルがそっと手を握ってくれた。私の悲しみを少しでも紛らわせてくれているみたいだ。少し有り難い。そうして、船の近くまで来ると、そこにはミリアの姿があった。
「ミリア?」
「あっ、ルナさん。こちらの来ると聞いてお待ちしていました。お話は伺っています。なので、お見送りに来ました」
「そうなんだ」
多分、リリさんが気を利かせて教えてあげたんだと思う。
「危険な戦いになると聞いています。どうか、お気を付けて」
「うん。ありがとう」
ミリアが手を差し出すので、私は硬く握手をした。そのままミリアはソル達とも二、三言葉を交わして、邪魔にならないようにと港から離れていった。
「ルナは、本当に知り合いが多いにゃ」
ネロは、シャル達と話す私を見て、この世界の知り合いが多いと思ったみたい。
「まぁ、本当は他にもいるけどね。事情を知っているから、こうして見送りに来てくれたみたい」
「にゃ。慕われている証拠にゃ」
「そうだね」
ネロの頭を撫でつつ、私達の船に乗ると、そこには戦乙女騎士団の皆さんとシルヴィアさん、アーニャさん、アイナちゃん、黒騎士、レンゾウさんがいた。
「あっ、ルナちゃん。お邪魔してるよ」
アイナちゃんが真っ先に気付いて駆け寄ってきた。
「アイナちゃん、この船が私達の船だって知ってたの?」
さすがに、この船が私達の船と知らなかったら、お邪魔するなんて言葉は出てこないだろう。
「うん。ここの船大工さんが教えてくれた。だから、ルナちゃんの知り合いで乗ろうって事になったの」
「なるほどね。六人用だけど、こんな人数で良いのかな?」
「そこは大丈夫よ。色々と改造しておいたから。この船の操舵手は誰?」
「あっ、私です」
ソルが手を上げてそう言う。
「ソルちゃんね。操舵の説明をするから、こっちに来てくれる?」
「分かりました」
ソルはアーニャさんの方に向かって行く。改造した事によって、操舵に変化があるのかもしれない。
「ルナちゃん、月読はある?」
「ん? あるよ?」
「もし船が沈没するような事があったら、月読で海を走っていってね」
「……月読って、海も走れるの?」
「うん。水の上でも難なく走れるはずだよ。本当に色々な場所で走れるような感じだから」
正直、海が走れるかどうかは試していなかったので、衝撃の事実だった。
「まぁ、分かったよ。それで、一人でもディストピアに侵入しろって事ね」
「そういう事」
「アイナ! 下のエンジン見てきてくれるかしら? 最終点検よ!」
「分かりました! 仕事が来ちゃった。またね」
「うん。また」
アイナちゃんと手を振って別れる。そろそろ出発って事だと思うので、私は船長室に向かった。今回は、メレは付いてきていない。メレと相談よりもアーニャさん達との話し合いになると思ったからだろう。
船長室にいたのは、シルヴィアさん、アーニャさん、リリさん、アザレアさんの四人だった。
「この船の船長は、ルナちゃんだったわね」
「あ、はい。一応そうです」
「じゃあ、色々と説明するわ」
アーニャさんは、私を手招きして海図が映るテーブルに着かせた。
「あれ? これってアヴァロンも含めた海図ですか?」
「そうよ。私は、向こうの海図も持っているから、こっちにインストールしておいたの。アヴァロンは、ここで、ディストピアはここね」
アーニャさんがアヴァロンとディストピアの場所を示してくれる。本当にアヴァロンから西にまっすぐ行くと、ディストピア向かう事が出来る。そこで、一つ気になる事があった。
「アヴァロンとディストピアの間にあるこの線は何ですか?」
アヴァロンとディストピアの中間地点には、まっすぐ線が入っている。ユートピアの大陸とアヴァロンの間にも同じように線があるから、嵐の壁なのかもしれないけど、確かな事は分からないから確認しておく。
「嵐の壁よ。ディストピアからの侵入も防いでいるけど、正直、ディストピアから来る人間なんて、基本的にいないから意味はないけどね。ルート的には、ここは通らないから安心して良いわ。ディストピアと大陸の間にある嵐の壁だけを突破して、ディストピアに向かう。でも、ここからが危ないわ」
アーニャさんが指したのは、大陸とディストピアの間だった。
「具体的には、どのように?」
「この辺りから、ディストピアからの砲撃が届く可能性があるわ。それで、この辺りからは、普通に届く。それでそれで、ここからは確実に攻撃される」
アーニャさんが指しているのは、最初のエリアとディストピアの中間とそのエリアとディストピアの中間だった。
「最初から攻撃される可能性はどのくらいでしょうか?」
シルヴィアさんからの質問に、アーニャさんは少し考える。
「そうね……六割ってところかしら。相手が、ディストピアに滞在しているから、そのくらいの確率になるわ」
「防ぐ方法は?」
「用意しているわ。全ての船に物理バリアと魔法バリアをね」
「よく分かりませんが、どの程度守れるものなのでしょうか?」
「まぁ、最後まで辿り着けるのは、半分もあれば良い方というところね。それだけだったらね」
アーニャさんは相変わらず、含みを持たせた話し方をする。その分、よく聞こうと思うから、もしかしたら、アーニャさんの思惑通りなのかもだけど。
「と言いますと?」
「エンジンを改造して、途中でブーストを掛けられるようにしたの。これがあれば、八割の船は確実に着く事が出来ると思うわ」
「アーニャさんって、本当に四百年前の人なんですか?」
それにしては、アーニャさんの知識と技術が現代寄りな気がする。
「他の異界人から、色々と情報を集めているからね。まぁ、元々頭は良かったし、このくらいは余裕よ」
アーニャさんは何でも無いように言うけど、頭が良いというだけでは済まない気がする。本当に天才なのだろう。
「全体のコントロールは、この船から出来るようにしているわ。だから、この船は重要な旗艦よ。この船が落とされたら、一巻の終わりね。だから、皆に乗って貰っているのよ」
「なるほど。私達が砲撃を防ぐというわけですね」
「バリアで防げれば、いいんだけどね。まぁ、そう言う事。それじゃあ、出発するわ。ルナちゃんは、出番まで休んでいなさい」
「え?」
「一番負担が大きいのは、ルナちゃんだもの。最後の最後まで、体力の温存をしてもらうわ」
アーニャさんはそう言って、私の頭を撫でると、船長室を出て行った。
「そうですよ。ルナさんが、ここで疲れてしまったら、作戦が台無しですから。船の守りは、お任せ下さい。私達戦乙女騎士団で、十分ですから」
リリさんもそう言って出て行く。
「最悪、私が全て斬りますので、ご安心下さい」
シルヴィアさんはそう言って、私にキスをして出て行く。残された私は、特にする事もないので、ベッドに寝っ転がり、目を閉じる。それと同時に、船が動き始めた。
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