第245話 ライブに向けて!!

 闘技場に向かう前に、私達はヘルメスの館に移動する。


「アーニャさんいますか?」

「来たわね。ライブって遠くまで歌を届けるんでしょ? なら、これが使えると思ってね」


 そう言って、アーニャさんは私達の目の前にマイクとスピーカーを置いた。


「えっ、作っていたんですか!?」

「ちょっと前にね。アイナとか他の子達から話は聞いていたから。正直、武器としては使えないし、利用する機会もなかったから仕舞っていたのよね。でも、使えるでしょ?」

「はい。助かります」

「魔力で動くから、電気は要らないわ。一応数は渡しておくわね」


 そう言ってマイク三本とスピーカー十個を渡してくれた。これを会場となる闘技場に適切に配置すれば、良い感じになるだろう。


「それじゃあ、私達は会場となる闘技場の下見に行きますので、ここで失礼します」

「ええ、戦力集め、頑張って。こっちも船を実用化するから」

「はい!」


 私達はヘルメスの館を出て、闘技場に向かう。何度かここで修行をしているので、ある程度は把握しているけど、ライブをするとなったら、詳細な情報が欲しい。

 私達は、入口から通路の一つ一つまで、全部を隈無く見て回る。


「……ある程度の封鎖は必要かな。ステージは、闘技場の奥に作って、その裏の観客席と通路を封鎖。運営である私達だけの通路にしよう。さすがに簡易的なイスなんて並べられないし、そのまま立って見てもらう形かな。ギチギチに引き詰めて、ざっと二百人前後ってところかな」

「そうですね。この分だと、会場の外にも人が溢れると思います」

「凄い自信にゃ……」

「国民的アイドルなんだもん。当たり前だよ」


 ミザリーは、少し興奮しながらそう言った。


「ミザリーは、こっちの人間だから、観客席には行けないよ」


 私がそう言うと、ミザリーは目を見開いてこっちを見てきた。若干怖い。


「まぁ、裏方から見られるし、業界に入らないと見られない姿が見られるかもよ?」

「っ!! そうだね!!」


 ミザリーが元に戻ったところで、問題の一つを解決しないといけない。


「ステージは、少し高くしないとだよね?」

「そうですね。後ろの方々からもよく見えるようにしないといけませんので」

「さて、どうしようか」


 ステージを作るとなると、土嚢を積んで土を被せるか石を載せるかしないといけない。私達の体力なら一週間も掛からずに出来沿うだけど、問題は材料がどのくらい必要かどうかだ。そんな風に悩んでいると、私の肩を後ろから、誰かが叩いた。

 振り返って見ると、そこにはリリさんが立っていた。


「リリさん!」

「こんにちは、ルナさん。陛下から、こちらの警護を頼まれました。彼女が、ここを舞台に歌うと聞いています」

「はい。その通りです」

「分かりました。それで、今は何をしているところなのでしょうか?」

「ここにステージを作りたいのですが、どうやって作ったものかと」

「なるほど。アザレア」

「分かりました。土系統の魔法が使える者は集まりなさい!」


 アザレアさんの指示で、騎士団の中から何人かが集まってくる。


「土魔法で土台を作ります。かなり頑丈に出来ますので、上で動いても大丈夫です。大きさと形の指示を」


 ここは実際に歌って踊るメレに要望を伝えて貰う。


「分かりました。すぐに取り掛かりましょう。皆、準備を」


 リリさんが手振りで下がるように伝えてくるので、私達はリリさん達の後ろに移動する。そして、土魔法によって、地面がせり上がったかのようにステージが出来始めた。

 土で出来たステージに、平べったい石が貼り付けられ、ステージらしさが出て来た。


「殺風景にゃ」

「さすがに、向こうと同じようなライティングとか……」


 そこまで言って、私とネロの視線が、ミザリーに集中する。その視線を受けて、最初は何事か分かっていなさそうだったミザリーは、段々と私達の言いたい事を理解していった。


「わ、私がライティングを担当するの!?」

「うん。光の色とか変えられない?」


 そう訊くと、ミザリーは首をぶんぶん横に振る。


「そんなに自由な魔法じゃないし。てか、私には無理だよ!」

「え~、スポットライト的な魔法はないの?」

「あるけど……」

「なら、決定! メレと打ち合わせして、照らすところを決めてね」


 まだ何か言いたげなミザリーの前にメレが立つ。


「頑張りましょうね」


 メレから笑顔でそんな事を言われてしまえば、ミザリーには断る事が出来なかった。


「はい……」


 ミザリーも観念してくれたので、だいぶ決まってきた。

 そこで、ネロが私の服を引っ張る。


「私も役目が欲しいにゃ」


 ソルとシエルにはビラ配りを頼んでいるので、私達の中で自分だけ役割がないと思ったみたい。だが、実際には、ネロにも重要な役割がある。


「ネロの役目は警戒だよ。敵意や不穏な気配。立ち入り禁止エリアに人が入った場合に、私に知らせる事」

「私が対処するんじゃないのにゃ?」

「うん。対処は、私の方でやる。戦乙女騎士団の警戒を突破する時点で、危ない相手なのは分かりきっているし、やるならこそこそとやった方が良い。私が適役でしょ? それに、ネロには、メレの護衛も頼みたいから。ステージに上がるわけじゃないけど、裏でいつでもメレを守れるように待機しつつの警戒って感じ」

「にゃ。了解にゃ」


 ネロがやる気十分に頷いたのと同時に、メレが悲しそうな顔でこっちを見ていた。それだけで、何が言いたいのか私には分かる。


「私も一緒に歌うわけないでしょ。これは、和水舞歌のライブなんだから」

「特別ゲスト……」

「私が芸能界で売れている人だったら、それでも通じたけど、ただの一般人だから」

「私の計画の一部が……」


 ここで経験を積ませて、向こうで売り出すつもりだったみたい。メレも侮れない。


「油断も隙もない。私は影ながらメレの事を守るから、歌って踊って皆を惹きつけて。最後に、今回の戦いへの参加を呼び掛けるのは忘れないように」

「分かりました。では、ミザリーさん、早速打ち合わせをしましょう」

「あ、う、うん!」


 二人がステージに向かって行くので、ネロの背中を軽く押して、付いていかせる。メレの動きを知っておいた方が、護衛もやりやすいだろうし、私はリリさん達と話したい事もあったからだ。


「リリさん達も国王様から事情は……」

「聞いています。ディストピアの遠征の件も承服していますので、ご安心ください」

「心強いです。私達のせいですみません」

「気にしないでください。ルナさん達のせいだなんて思っていませんから。そのような事を言っていたら、師匠に怒られてしまいますよ?」

「シルヴィアさんには、昨日怒られました……」


 私がそう言うと、リリさんとアザレアさんがお気の毒にという表情で、こっちを見ていた。二人ともシルヴィアさんの怖さを知っているから、私の気持ちが分かるみたいだ。


「この二ヶ月でどれだけ戦力を集められるのかが鍵となるのでしょう?」


 アザレアさんがそう訊いてくる。


「はい。相手の戦力は、相当なものらしいです。それに対応するには、私達だけだと難しいみたいです」

「師匠がいてもですか?」

「どうなんでしょう? シルヴィアさんがいたら、無敵って感じですけど」

「そうですね。私もそう思います。そういえば、師匠は、今回の作戦について知っているのでしょうか?」

「いえ、先程アーニャさんから聞いたばかりですので、シルヴィアさんも知らないと思いますよ?」


 私がそう言うと、リリさんとアザレアさんが顔を見合わせた。


「師匠の事ですから、作戦に関しては受け入れるかもしれませんが、ルナさんを心配して今日にも家に来るかもしれないですね。師匠の可愛い一面が見られるかもしれないですよ」

「誰のどういう一面が見られると?」


 その声が聞こえて、リリさんとアザレアさんの肩が跳ねる。そして、すぐに後ろを振り返ってシルヴィアさんと対面する。


「し、師匠!? 何故、こちらに!?」

「陛下から、この度の作戦を伝え聞き、姫様から、しばらく戦乙女騎士団と行動を共にするよう命を受けたのです。こちらにいると聞きましたので、参ったのですが、中々に面白い事をおっしゃっているところに遭遇しましたね」

「あはははは……な、何の事でしょう?」

「素直に謝った方が可愛らしいですよ?」


 シルヴィアさんからかなりの圧を受けて、リリさんは冷や汗を掻いていた。


「す、すみませんでした!!」


 リリさんは、九十度まで腰を曲げて頭を下げていた。


「良いでしょう。後日、扱きますので、覚えておいてください」


 全く許されていない事が伝わってきた。だが、ここで私は何も言わない。態々藪を突いて蛇を出す意味もない。そう思っていると、シルヴィアさんが私のところに来て、ぎゅっと抱きしめられた。


「危険な役割を担うと聞きました。気負ってはいませんか?」

「はい。大丈夫です。今は、もっとやるべき事がありますし」

「そちらも聞きました。メレ様が、向こうの世界で有名な方のようですね。私に出来る事はありますか?」

「シルヴィアさんには、リリさん達と一緒に会場の見回りをお願いしたいです。不審な人物がいれば、即確保をお願いします。私は、立ち入り禁止エリアに入ってきた不審者の排除をします」


 私が何をするのかの確認もしたいと考えているだろうなと思い、自分が何をするのかも伝えておいた。


「なるほど。分かりました。リリウム、アザレア、巡回ルートの確認をしますよ。他の団員も集めてください」

「分かりました!」


 シルヴィアさんが戦乙女騎士団の団長みたいになってしまった。実際元団長ではあるんだけど。


「では、私達は私達の仕事をして参ります。ルナも、ご自身の仕事を」

「はい」


 シルヴィアさんは、私にキスをすると、リリさん達の元に向かっていった。私もメレ達の方に向かう。メレのこの作戦が上手くいくかどうか。正直なところ、集客に関しては、何も心配していないけど、問題は、私達の作戦に付いてきてくれるかどうかだ。

 元の世界に戻りたいと考えている人は多いはず。そのために、皆が行動に移してくれる事を祈るばかりだ。

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