第244話 期間は二ヶ月!!

 取り敢えず、気まずい雰囲気を払拭するために、話題を変える事にした。


「取り敢えず、アヴァロンやアーニャさんについては理解しました。もう一つ聞きたい事があるのですが、ディストピアの場所をご存知ですか?」

「ええ。知っているわ。ディストピアは、ここから南西に行った海の先。アヴァロンから、まっすぐ西に行けばあるはずよ」

「それならまっすぐにディストピアを目指すことも出来たのか……」


 あの時ユートピアに戻る事を優先したけど、回り道をしていたら、ディストピアに着いたかもしれない。まぁ、そもそも回り道をする選択肢は、一切無かったわけだけど。


「それはやらないで正解ね」


 私の呟きを聞いたアーニャさんがそう言った。


「どういう事ですか?」

「ディストピアには、防衛システムがあるの。かなり頑丈で、普通には突破出来ないわ。ルナちゃん達が使っている普通の船じゃ、すぐに沈められる事になるわね」


 思っていた以上に、対ディストピア戦は、かなり熾烈な戦いになりそうだ。まずは、その防衛システムを突破しないといけない。


「ディストピアの話題が出て来たから、一つルナちゃん達に重要な情報を教えるわ。この世界を救って、ルナちゃんが元の世界に戻る事は出来るわ。まだ、完全にこっちの世界と向こうの世界が離れたわけじゃないから」

「!!」


 アーニャさんの言葉に、私達はビクッと反応する。私達が元の世界に戻れる可能性が、しっかりと残っている。その事がとても嬉しいのだ。


「敵は、メメントモリを使って、ルナちゃん達を完全にこっちの住人にするつもりよ。メメントモリは、常夜に安置されていた古代兵器で、死なない相手を死ぬようにさせる事が出来るわ。アンデットから身を守るために開発されたものを悪用しようと言うのよ」


 メメントモリ。私は、存在自体は知っている。これもアヴァロンと同じくメアリーさんが言っていた古代兵器だからだ。だが、ソル達には、別の事から気付いたようだ。


「常夜にあった遺跡は、メメントモリの安置場所だったんだ……」


 どうやらソル達が常夜で訪れた場所にメメントモリの安置場所らしき遺跡があったみたいだ。そんな話を聞いたような気がしないでもない。でも、常夜のことだから、完全に頭から抜けている。


「これまでの計画などから考えて、メメントモリと何かしらの装置を合わせて使うはずだわ。まだ、皆には、この世界を住みやすくするって使命があるだろうから」

「確かに、下地を作れと言われました」

「でしょ? そのためにも、ルナちゃん達の不死身の肉体は、まだ使えた方が良いのよ」


 アーニャさんが言っている何かしらの装置というのは、恐らく、私達の世界の人類を全てこっちに移すための装置って事だと思う。つまり、その装置とメメントモリを破壊する事が、私達が元の世界に戻り、この世界を救う方法となる。


「色々と話したけど、ルナちゃん達が、この世界を救うために必要なのは、ディストピアに向かう為の船とディストピア内の敵と戦う戦力よ。船の方は、私が主導でやればどうにかなるわ。問題は、戦力の方よ。黒騎士とレンゾウも合流するはずだけど、それでも戦力に不安があるわ」

「それなら異界人に呼び掛ければ……」


 そこまで言うが、そのまま止まってしまった。その理由は一つだ。そもそもどこにいるか分からないので、プレイヤーに協力を求めるために集める事自体が難しい。どうすれば良いかと悩んでると、隣に座っていたメレが手を上げた。


「その件については、私に考えがあります。和水舞歌のライブをやるというのは、如何でしょうか?」

「舞歌のライブを? いや、有りかもしれない」


 メレはともかく、舞歌の名前ならプレイヤーのほとんどが反応するに違いない。私みたいな世間知らずばかりではないだろうから。


「舞歌の名前を出して、掲示板に張り、噂で釣る。ただ掲示板で協力を求めるだけだと冗談やそもそも見られない可能性もあるけど、これならいける気がする」

「私も、自分の知名度であれば出来ると思います」

「アーニャさん、船の改造に掛かる日数は?」

「数も用意したいから、ざっと二ヶ月」


 二ヶ月。正直、こっちで過ごすというのであれば、長い日数と感じる。それだけの間、向こうの私達の身体も抜け殻になっているからというのもあるかもしれない。


「二ヶ月なら、何度かライブは開ける。最初の調整に一週間。この間に宣伝。その後は、一週間毎にライブ……問題はないはず。国王様。王都の闘技場をお借りしたいのですが、よろしいですか?」

「問題無い。好きに使うと良い」


 国王様は、気前よく闘技場を貸してくれる。これで会場の確保は出来た。


「ライブを何度も開けば、最初に来た人達から、他の人達にも情報がいくはず。そうして連鎖していけば、多くの人に声を掛けられる。戦力の増強に繋げる事が出来るはず」

「方法は決まったようね。船の改造は、アトランティス港で行うわ。陛下。出来れば、私の指示に従うように書状をお書き頂ければと」

「うむ。用意しよう。それに加えて、戦乙女騎士団とシルヴィアを戦力として送る」


 私達は、国王様のこの言葉に驚いた。戦乙女騎士団とシルヴィアさんと言えば、王国最高戦力だ。それを出すと言う。


「国が無防備になりませんか?」

「大丈夫じゃ。レオグラスと青薔薇騎士団もおる。それに、この戦いは儂らにも関係がある。参加しない訳にはいかんよ」

「分かりました。助かります」

「後は、作戦ね」

「もう作戦があるんですか?」


 アーニャさんの感じだと、もう既に作戦があるかのうように聞こえた。


「あるわ。ルナちゃんが夜烏を倒してから考え続けていた作戦がね」

「そんなに前からですか?」

「私とっては、最近よ」


 私達は、アーニャさんから作戦を聞く。そして、私以外が一斉に反対した。だが、その反対を制して、私はその作戦で行く事にした。私にも、他の人達にも負担が掛かる作戦だ。だけど、一番現実的な作戦だと私は感じた。

 本当は、この後国王様達が質問するって話になっていたけど、アーニャさんが全部話したので、質問する事はなかった。


「それじゃあ、それぞれで動きましょうか。ルナちゃん達は、後でヘルメスの館に寄って頂戴。歌を歌うのに必要なものをあげるから。では、陛下。私はここで失礼します。書状の方は、アイナに持たせてください」


「分かった」


 アーニャさんはそう言って、部屋から出て行った。


「それじゃあ、私達も色々とやろう。まず、ソルとシエルでビラを作ってくれる? 場所は、私の屋敷を使って良いから」

「うん!」

「了解」


 ソルとシエルは頷くと、部屋を出て行った。


「メレ達は闘技場に行くよ。下見をして、どんな感じでライブするか決めないと。では、私達もここで失礼します。このような場を用意して頂きありがとうございました」

「構わんよ。会場の警備には、戦乙女騎士団を派遣しよう。協力すると良い」

「ありがとうございます」


 私は、そう言ってから頭を下げて、メレ達を連れて部屋を出て行った。


────────────────────────


 ルナ達が出て行った後、国王は書状を認め、アイナに渡した。


「ありがとうございます。では、私も失礼します」


 アイナはそう言い、部屋を出て行く。残ったのは、国王とメアリーだけだ。


「まさか、アーニャ達にあのような事実があるとはのう……」

「何かしらの事情を抱えているとは思っていましたが、想定外の事情でした。ですが、それ故に納得出来る面もあります」

「うむ。儂らに取り入っていた理由じゃな」


 アーニャは、国王達と関係を築いていた。それが何故なのか、今回の事で明らかになった。それは、ディストピアに向かうための移動手段である船の調達を楽にするためだ。自分で船を用意するよりも、国王からの命令で船を集めて改造する方が遙かに楽だ。この世界の人達の命が掛かっているため、協力する方が確実に良い事が分かる。


「向こうも形振り構っていられないようじゃな」

「私達もそうあるべきです。そう思ったから、全面的に協力しているのでしょう?」

「その通りじゃ。メアリーゼもルナに出来る事をやって欲しい」

「分かっています」


 メアリーと国王は、ルナ達に全面的に協力する。それがルナのためでもあり、何よりも自分達のためであるからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る