第243話 アーニャさんの話!!

 正午。私達は、王城へと向かう。


「何だか大きく変わったって感じはしないね」


 ソルの言う通り、屋敷の外は、基本的に前と変わらない。一つだけ違う所があるとすれば、プレイヤーの数が多いというところだろうか。所々から聞こえている会話から、野宿をしたプレイヤーもいるみたい。


「治安の悪化が心配だったけど、初日からそうなるわけではなかったみたい。そこは一安心かな。でも、しばらくの間、マイアさん達には昼間だけ外出して貰おう」

「昼は、他の人の目もありますしね。それが良いと思います」

「敵の気配はしないにゃ。私達を敵視している人はいないと思うにゃ」


 ネロのお墨付きもあるので、今の所は、王都も安全と言えるだろう。

 そのまま王城に来ると、ソル達の持ち物チェックを挟んで、王城に入り、メアリーさんの執務室に向かう。扉をノックしようとすると、ちょうど扉が開いて、メアリーさんが出て来た。


「あら、ちょうど良かった。そろそろ門の近くで待とうと思ってたところだったの」

「入れ違いにならなくて良かったです。アーニャさん達は……?」

「もう来ると思う。応接室に行こうか」


 どうやら応接室でアーニャさん達と話すみたい。この人数を執務室でってなると、部屋の大きさ的に厳しいのかもしれない。

 応接室に案内された私達は、メアリーさんに言われた場所に座って待つ事になった。それから十分程でアーニャさんとアイナちゃんがやってくる。


「あら、皆、早いわね」


 アーニャさんは、いつも通りの感じでそう言った。アイナちゃんもニコッと笑って手を振ってくる。なので、私も手を振り返した。アーニャさん達は私達の正面に座った。

 その一分後、国王様がやってくる。私達は一斉に立ち上がる。それを、国王様が手で制する。


「よい。この場での主役はルナ達だ。儂は、ただその話を聞かせて貰うに過ぎん」

「というわけで、私と父上は、ルナちゃん達が聞きたい事を聞き終えた後に質問させて貰うから、その間は、私達の事は気にしないで」


 そう言って、メアリーさんが続けてとジェスチャーするので、私達はアーニャさんに向き合う。この場で、いつもと変わらずに言葉を発せられるのは、私だけ(皆は王城にいる事自体に慣れていない)なので、私が話を進めていく事にする。


「アーニャさんは、この世界の真実について知っていますよね?」

「ええ、知っているわ。この世界の人々が死ぬ可能性があるって事もね」


 アーニャさんがそこまで言った事に、私は違和感を覚えた。あの石碑に書かれていた事が本当であるのであれば、言論統制のせいで、話す事が出来ないはずだ。

 私が戸惑っていると、アーニャさんが小さく笑う。


「ルナちゃん達が、こっちの世界に囚われた時点で、言論統制に綻びが生まれたのよ。だから、私も色々と話す事が出来るわ。もちろん、ルナちゃんが知りたい事もね。あまり気持ちの良い話ではないけど、それでも聞く?」

「聞きます。この世界を救いたいので」


 まっすぐアーニャさんを見てそう言った。それを受けて、アーニャさんは優しく笑った。


「良いわ。それじゃあ、一つ一つ話していくから、何か質問があったら言って」

「はい」


 とうとうアーニャさんが話せなかった真実を聞く事が出来る。私は、無意識に姿勢を正していた。


「まず、私は四百年以上前から、この世界に存在しているわ」


 これ自体に驚きはない。あの石碑から、不老不死の薬を使って生き続けているという事は知っているからだ。


「多分、石碑を見て知っていると思うけど、不老不死の薬を使って、私は生きているわ。そもそも、その薬を作り出した張本人だしね」


 これには、少し驚く。アーニャさんが不老不死の薬を使っているという事は予想していたけど、それを作った人だとは思っていなかった。


「多分、ルナちゃんも予想している通り、黒騎士やレンゾウも私の仲間よ。私達三人は、計画の第二期メンバーってところね。この計画に反発し始めたのも、私達の代からよ。因みに、アイナは五期くらいで、ルナちゃん達は、多分九期くらいね」

「期というのは?」

「簡単にこっちで考えている計画が復活したあるいは、計画の一部が変わったというのを判断して分けているの。その事よ」


 つまり、近衛洸陽は、初代から連綿と意志を受け継いだ九代目という事だろう。計画の変更などについては、私達のようにこっちに来た人達から話を聞いて判断しているに違いない。九代目というのが、確定情報とは言えないが、そのくらいの時が経っているという事は分かった。


「今の計画は、正直よく分からない部分もあるわね。ゲーム機というもので、こっちに来ているのよね?」

「あ、はい。今、この世界に囚われている異界人は、全員ゲーム機でこの世界に来ています」

「前まで、こんなに多くの人が、こちらの世界に来た事はなかったわ。その時点で、今回は何かが違うと分かった。同時に、計画がかなり進んでいるという事もね」


 ユートピア・ワールドのゲームが出て来たのは、私が買った時が最初だ。その前は、ここまで自由でリアルなVRMMOは無かった。それも考えると、数千数万のプレイヤーがログインしてきたのは、おかしいと思うだろう。


「まぁ、この話は置いておいて。私達二期メンバーは、一期メンバーが残した手記から、この世界を滅ぼそうと考えている事を知ったわ。そして、私達には、それが許せなかった。だから、計画をぶっ壊す事にした。二期メンバーのほとんどは反旗を翻したから、その時点で、私達がやるべきだった計画は頓挫したわ。同時に、私達は計画が復活しても対応出来るように、強力な兵器を作る事にしたの」

「それが古代兵器の始まり……」

「じゃないわね」

「えっ?」


 予想が外れて、私は少し驚く。どう考えても今の発言からでは、アーニャさん達が始まりとしか思えない。


「作る事にしたのは、本当だけど、実際には既に作られていたのよ。この世界の人々を全滅させて、自分達に都合の良い世界に変えようとしてね。その中で、一部が暴走した結果後先考えず、世界を滅ぼす物が作り上げられたわ。ルナちゃん達も知っているアトランティスも、その一つね。本当に破壊してくれて助かったわ」


 古代兵器を開発した人達は、一枚岩ではない事は、アルカディアにいた幽霊が言っていたから知っている。つまり、元々アルカディアを作っていたのが、この世界の人達を全滅させようとしていた人達で、反乱軍というのがアーニャさん達という事だろう。


「互いに古代兵器を作り、戦争を繰り広げた結果、互いに消耗しすぎて、今に到るまで停戦しているわ。その中で破壊された古代兵器もあるけど、何個も残っているわ。それらには、私達も手が出せないのが多くてね。そもそもどこに何があるかも把握していないというのも原因の一つになるけど」


 古代兵器が大量にあり、尚且つ互いに開発をしていたというのであれば、その全てを把握するのは厳しいだろう。これは、アーニャさん達を責める事は出来ない。


「ルナちゃんが、次々に古代兵器を破壊してくれるから、私達としては、大助かりだったわ。因みに、アヴァロンに関しては、私達で作り出したものよ」


 これを聞いて、私の中で一つ合点がいったものがあった。それは、世界樹の中にあった石碑だ。英語、日本語、それとどこかの言語。これらは、アーニャさん、黒騎士、レンゾウさんが書いたものなのだろう。だから、三言語もあったのだ。どの国の人が来ても、ある程度読めるように。


「私達が最初に降り立った地に、どんどん異界人が降り立ったから、あの場を安息の地にしようと思ってね。周囲にいれば、無限に回復する装置を作ったの。ただ、いつの間にかユートリアに降り立つようになって、使わなくなったけどね」


 アヴァロンは、元々のスポーン地点に作られたものだったみたい。スポーン地点を安全地帯にしようとしたアーニャさん達なりの気遣いだったのかもしれない


「でも、計画が進んでいる事を知っていって、アヴァロンの悪用が心配になったわ」


 無限に回復が出来るとしたら、それを利用しない手はない。仮に戦争になった場合、アヴァロンがあれば、負傷者が次々に治っていく。メレの言っていた通り、ゾンビ戦法がとれるようになる。


「だから、この大陸とアヴァロンの間に大嵐を発生させて、壁を作り、アヴァロンへと到る道を塞いだの。まさか、ルナちゃん達が辿り着けるなんて思いもしなかったわ。まぁ、例え誰かが辿り着いても、もう一つの防衛機構であるウロボロスがいるから、悪さなんて出来ないけどね」

「あのウロボロスって、何者なんですか?」


 嵐の壁についても気になるけど、そもそもあの化物が何なのかの方が気になった。


「ウロボロスは、私が蛇を改造して生み出した守護者ね。悪意が無ければ、襲い掛からないから大人しいものだったでしょう?」

「えっ!?」


 ウロボロスは、アーニャさんが作り出したものだったらしい。だが、そこは良い。一番気になったのは、悪意がなければ襲い掛からないという部分だ。ウロボロスは、どう考えても私を狙っていた。それはつまり、私に悪意があったという事にならないだろうか。

 私が何とも言えない表情になっていると、アーニャさんも気まずい顔になっていった。


「鬼の力には……反応するかも……で、でも、最終的にウロボロスに襲われなくなったなら、ウロボロスに認められたって事だと思うわよ? 多分、戦闘中に、ちゃんと見定めてくれたんじゃないかしら……」


 私とアーニャさんの間に気まずい雰囲気が漂った。

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