第241話 それぞれの覚悟と決意!!
ルナが国王へと報告に行っている間、ソル達はルナの屋敷の浴場に入っていた。
「これからどうなるにゃ?」
湯船に浸かりながら、ネロが皆に訊く。
「半年以降までは、特に何も動きはないんじゃない。ポータルとかがなくなるのが、そのくらいって言っていたんだから」
「多分、そうだろうね。こっちで暮らしていく事で、ここで暮らすためのノウハウを溜めさせるのが目的だから」
シエルとソルは、ネロの質問にそう答えた。
「向こうも動けないとなれば、私達も相応の準備が出来るはずです」
「例えば……ディストピアの場所を特定するとか?」
「そうですね。それとディストピアを襲撃する人材を集める事も出来るでしょう」
「話し合いじゃなくて?」
メレの口から飛び出たのが、温厚な意見では無く襲撃という過激な意見だったので、ミザリーが聞き返す。
「話し合いなど不可能でしょう。あちらは、こちらの意見を聞く気などありませんから」
メレは、そう断定した。
「でも、質問があれば来いとも言っていたにゃ」
「そうですね。ですが、それは質問の話です。意見を聞くではありません。これからどうなるんですかという事には答えても、これをやめて欲しいという意見には聞く耳を持たないでしょう。ですから、ディストピアを襲撃し、相手の計画の要を崩す必要があります」
「そうすれば、元の世界に戻れるにゃ?」
「そればかりは分かりません。もう二度と戻れない可能性もあります。ですが、希望は持っておいた方が良いでしょう」
そんな話をして、皆はお風呂から上がった。そして、マイアに案内されて食堂で夕食を食べる。
「お粗末な物ですが、どうかお許しください」
「い、いえ、急に押しかけたのは私達ですから、気にしないでください」
深々と頭を下げるマイアとサレンに、ミザリーが慌ててそう言った。
「そう言って頂けると助かります。では、私達は部屋の用意がございますので、少々失礼します。お食事後お部屋にご案内致しますので、こちらでお待ちください」
「分かりました。ありがとうございます」
マイア達が部屋の用意をしている間、四人は静かに食事をしていた。そして、部屋の準備が整ったのと同時に、全員の食事も終わった。そして、一人一人に部屋を案内していったのだが、ネロは、ミザリーの服を掴んでいたので、ミザリーの方から頼んで一緒の部屋にして貰った。
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ソルは、部屋で一人になった途端、ベッドにうつ伏せで倒れた。
「はぁ……これも現実なんだよね……」
ソルは、現実を受け入れられていないわけじゃない。でも、こうして疑いたくなってしまう。それが現状だった。いつもであれば、現実に戻って親と食事をし、宿題などをしたりしている時間。でも、今は違う。その日常は、しばらく訪れない。これから新しい日常が始まるのだ。
「お母さん……お父さん……」
涙が滲む。だが、ソルは決して涙を落とす事は無かった。こんなところで涙を流している暇などない。
「ルナちゃんは、この世界を救うために動く。それなら、私も覚悟を決めて、ルナちゃんを手伝おう。それが、今の私に出来る事だから」
一瞬うじうじと悩みそうになったソルだが、それを振り切り、ルナを手伝って世界を救う覚悟を決めていた。これは、ルナが自分の想い人だからだけではない。ルナの親友として、ルナの背中を支えるためでもあった。
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部屋に案内されたシエルは、扉を閉めて、大きく息を吐いた。
「はぁ……どうして、こんな事に……って、まぁ、このゲームをプレイしたからか……」
ユートピア・ワールドをプレイしなければ、もっと平和な夏休みを送っていたはずとシエルは考えていた。だが、この世界を味わってしまえば、そんな事はあり得ないと言わざるを得なかった。シエルもこの世界を気に入っている。何よりも気に入っているのは、自分の武器である人形達だ。
「『起きて』」
シエルは、ムート以外の人形達を起こした。ムートの消費魔力は、プティ達三体を出している時よりも多い。なので、ムートは人形のまま抱いて、他の三体に囲まれるように床に座った。
「プティ達ともお別れが来るのか……嫌だな」
シエルがそう言うと、プティ達が一斉に顔を擦りつけてきた。
「慰めてくれるの? ありがとう」
シエルはプティ達に囲まれながら、少しずつ覚悟を決めていく。
「皆、最後まで私を助けてくれる?」
シエルがそう訊くと、当然とばかりにプティ達が頷いた。
「それじゃあ、皆、最後までよろしく」
シエルは、プティ達と一緒に最後の一瞬まで戦うという覚悟を決める。そして、それはプティ達との別れを受け入れる覚悟でもあった。
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部屋に案内されたメレは、マイア達にお礼を言ってから、中に入った。そして、部屋に置いてあった椅子に腰を掛ける。
「これから起こる事……私に出来る事……」
メレはぶつぶつと言葉を呟いていた。その表情にソルやメレのような不安は一切なかった。既に覚悟が出来ているのだ。さすがに、帰れなくなるとは思っていなかったが、それでもルナが諦めていないのを見て、まだやれる事はあると考えるようになった。
そして、一人になった今、これから自分に出来る事を考えていた。
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ミザリーとネロは、一緒の部屋に入る。そして、ミザリーがベッドの上に座ると、ネロがその上に座った。
(ルナさんがいないからかな?)
ネロが甘えるのは、基本的にルナに対してだった。だが、今はミザリーに甘えている。それを、ミザリーは、ルナが近くにいないからかと考えていた。
「大丈夫?」
「にゃ……どうするのが正しいのか、分からないのにゃ?」
「どういう事?」
「私は、こっちの世界では健康に暮らせるのにゃ。でも、こっちの人達を犠牲にしたくはなのにゃ」
ネロが悩んでいる理由を知って、ミザリーは言葉を失った。ネロは現実では病弱で、まともに外に出歩くことも出来ない。だが、こっちの世界では違う。自由に動き回れて、皆と一緒に遊ぶ事が出来ている。ただ、それを得るには、この世界の人達全員を犠牲にしないといけない。
だからこそ、ネロは悩んでいるのだ。自分の幸せを追い掛けるべきか、この世界を救うべきかを。
「ミザリーは、どっちが正しいと思うにゃ?」
「それは、ネロさんが考えないといけない事だよ。ネロさんは、どうしたいの?」
「分からないにゃ! 私は元気なままでいたいにゃ! でも、ここの人達を犠牲にしたくないのにゃ! それで、私が生きるのは嫌なのにゃ!」
ネロは、首を横に振りながらそう言った。こうして、元気でいたいという気持ちはあるが、やはり、この世界の人々を犠牲にしてまで生きたくはなかった。
「じゃあ、元の世界に戻る事が、ネロさんのしたい事じゃない?」
「にゃ……にゃ! 分かったにゃ!」
ネロはそう言って、ミザリーと向き合う。
「この世界を救うために頑張るにゃ! 健康な身体にはなりたいけど、それで誰かを犠牲にするなんて駄目だと思うにゃ!」
「うんうん。ちゃんと選べたね」
ミザリーは、ネロの頭を優しく撫でる。
「私は、ネロさんの選択を尊重するよ」
「にゃ。ありがとうにゃ」
ネロはそう言って、ミザリーに抱きつく。ミザリーも優しく抱きしめ返した。
「皆で頑張って、世界を救おうね」
「にゃ!」
ミザリーとネロもそれぞれ覚悟を決めた。ネロに未練が無いわけじゃない。今の健康な身体を捨てるという選択は、そのくらい苦痛的なものだった。だが、この選択をするわけにはいかない理由がある。それを胸に秘めて、世界を救う戦いに挑もうとしていた。
ミザリーは、そんなネロを支える事を誓う。現実でのネロを一番知っているからこそ、ネロが何故悩んでいたのかよく分かっていた。そんなネロに選択を強いたのだから、最後まで責任を持つつもりなのだ。
夜も更けたので、二人はベッドで横になる。ネロは、ミザリーにしがみつく形で寝る
「ミザリー……ルナと違って、ふかふかにゃ……」
「……それ絶対にルナさんに言っちゃ駄目だよ?」
「にゃ?」
ネロはそう返事をして眠った。
(私が、最年長なんだ。頑張ろう)
ミザリーは、心の中でそう思いながら、ネロを抱きしめて眠った。
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それぞれが、それぞれで覚悟を決め、この世界を救うべく決意した。戦いの舞台になるのは、ディストピア。プレイヤー達の最後の戦いが近づいていた。
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