第239話 国王様に報告!!

 そろそろ夕方近くになってきているのもあって、周囲の人達はピリピリとしている。宿探しが上手くいっていないのだろう。やっぱり、国王様に報告して警戒して貰った方が良さそうだ。

 全力疾走で走って、いつもの門番さんに挨拶をしてから、まっすぐメアリーさんの所に急ぐ。直接国王様に会うのは、難しいと思うので、メアリーさんに仲介してもらう。

 そう考えていると、ちょうどメアリーさんが廊下を歩いていた。


「メアリーさん!」

「ん? ルナちゃん? どうしたの? そんなに急いで。また古代兵器を見つけたとか?」

「えっと……それもありますが、もっと重大な事を報告したくて。国王様に取り次いで欲しいんですが」

「父上も聞いた方が良い話って事ね。分かった。父上の執務室に行こう」

「はい」


 まさか、すぐに案内されるとは思わなかったけど、すんなりと会うことが出来るのは助かる。そのまま案内されて、国王様の執務室の前に着く。メアリーさんがノックをすると、中から一人の執事さんが出て来た。


「父上に至急報告したい事があるの。報告は、ルナちゃんから」

「少々お待ちください」


 執事さんが扉を閉めると、その一分後には、また扉が開いた。


「中にお入りください」


 執事さんに促されて私は、国王様の執務室に入る。すると、国王様はソファに座って待っていた。その目の前には、ローテーブルと二人掛けソファがある。


「良く来たのう。座りなさい」

「あ、はい」


 すぐに座るよう促されたので、挨拶も出来なかった。でも、国王様は気にした様子もなくニコニコとしている。


「ルナが訪ねてくれるのは、久しぶりじゃのう」

「ご無沙汰しています。今日は、国王様へ報告があり来ました」

「ふむ。何やら、深刻な問題のようじゃのう。聞こう」


 さっきまで気の良いお祖父ちゃんという感じだったが、今は、この国の王の顔になっていた。

 私は、メアリーさんと国王様に、アヴァロンの事、石碑の事、そして先程の近衛洸陽の話を報告した。


「つまり、今、ルナちゃん達は、元の世界に帰られなくて、このままだと私達全員皆殺しにされて、ルナちゃん達の世界の人達が、この世界の住人になるって事?」

「簡単に言えばそうです。異界人がかなりの数いますので、王都以外のユートピアの街でも治安の悪化が考えられます。なので、早く知らせておいた方が良いと思ったんです」


 その話を聞くと、国王様はこくりと頷いた。


「レオグラスを呼び戻し、王都の警備に充てよう。それよりも、ルナはこれからどうするつもりなのじゃ?」

「取り敢えず、ディストピアに行こうと思います。まだこの世界を守れる可能性がありますから」


 近衛洸陽がディストピアにいるのであれば、まだどうにか出来るかもしれない。その希望に縋ってみる。


「じゃが、場所が分からぬじゃろう?」

「多分、アーニャさんが知っていると思います」

「ふむ……なるほどのう。分かった。アーニャと話す際は、儂らも同席しても良いかのう?」

「アーニャさんが良しとするのであれば」

「ふむ。では、アーニャへの連絡は、こちらからするとしよう。恐らく、明日になるじゃろうが、決まり次第連絡を送る。ルナは、ゆっくり休むと良い」

「ありがとうございます。では、失礼します」


 国王様に頭を下げてから、執務室を出て行く。すると、後ろからメアリーさんも付いてきた。


「ルナちゃん、アヴァロンの正確な位置は分かる?」

「いえ、海図そのものがなかったので、分かりません。でも、南東の方にあると思われます」

「そう。南東ね……言い伝えだと、アトランティスの先ってなっていたけど、当てにならないものね」

「そうですね。私もすっかり忘れていて、シエルに怒られちゃいました」

「そうなの? まぁ、アヴァロンについて話したのは、随分と前だものね。ねぇ、ルナちゃんは大丈夫?」

「大丈夫ですよ。それよりも、メアリーさん達は大丈夫なんですか? もしかしたら、私達のせいで亡くなってしまうかもしれないのに」

「でも、ルナちゃんがどうにかしてくれるんでしょ?」

「もちろんです。私は、この世界が好きですし、この世界の人達も好きですから」

「頼もしい子」


 メアリーさんは、優しく私の頭を撫でてくれる。実際に、どうにか出来るかは分からない。でも、私にはやらないといけない理由がある。だから、何が何でも近衛洸陽を止める。

 メアリーさんに見送られて、私は王城を後にした。結構話したからか、もう夜になっていた。外にいたプレイヤーの数は、かなり減っている。王都は広いし、他の街にも宿があるから、野宿をするプレイヤーは少なそうだ。

 道中、まだ商売をしていた食材屋から、ありったけの食材を買って、屋敷に帰る。すると、忙しそうにしているサレンと鉢合わせた。


「あ、ル、ルナ様。おかえりなさいませ」

「ただいま。ごめんね。急に忙しいでしょ?」

「い、いえ!」


 サレンは、ぶんぶんと首を振って否定する。さすがに、家主に文句は言えないだろうから、本心を聞くのは無理そうだ。


「で、では、私は仕事がありますので」

「うん。頑張って。いつもありがとう」

「め、滅相もございません!」


 サレンは、そう言いつつも嬉しそうにしながら駆けだして行った。危ないから走らないように言った方がいいのか考えたけど、このくらいならマイアさんも注意しているはずだから大丈夫だろう。


「お風呂入ろう」


 色々とあったし、身体を洗い流したいと思ったからだ。しっかりと身体を洗って、湯船に浸かる。こっちの世界では、久しぶりの湯船なので、ゆったりと浸かった。そして、部屋着に着替えて、自分の執務室に向かい、椅子に掛けた。


「はぁ……色々どうなるんだろう?」


 そんな独り言を言っていると、部屋がノックされて、マイアさんが入ってくる。その手には、料理が載ったお盆が抱えられていた。


「夕食をお持ちしました」

「ありがとう。あ、そうだ。帰りに、食材買ってきたから、明日からの食事に使って」

「態々ありがとうございます」


 布の袋に食材を入れて、マイアさんに渡す。三つになっちゃったけど、力持ちのマイアさんは軽々と持ち上げて部屋を出て行った。

 私は、マイアさんが持ってきてくれた夕食を食べる。この世界が現実になった以上、こういった食事なども重要になってくるかもしれない。そうして、夕食を食べ終えたタイミングで、マイアさんが帰ってきた。


「あ、マイアさん、ご馳走様」

「はい。お口に合いましたか?」

「うん。美味しかったよ。皆は?」

「現在は部屋で休んでいます。皆さん、少し疲れたような表情をされていました」

「だろうね」


 合流した時は、普通な感じだったけど、こうして落ち着いた環境に来て、改めて事の深刻さを認識しているのだと思う。一人でいられる状況になった事もそれに関係してくるだろう。


「そういえば、元の世界に戻れなくなったという話でしたが」

「そうそう。そのままの意味なんだけど、元の世界に帰られなくなったんだ。それで、色々あって、この世界の住人全員の危機になっているって感じ」

「……へ?」

「私達が、こっちの世界に来られるようにするものを開発した人が、この世界の住人を全て抹殺して、私達の世界の住人をこっちに移住させようって言ってるの。今は、それをどうにかする方法を探すところ」


 マイアさんには、軽くだけど事情を説明する。私達が泊まる理由を説明するためにもね。


「わ、私達、死んじゃうんですか!?」

「そんな事させない。何が何でも止める。安心してとは言えないけど、私を信じて」


 私がそう言うと、不安そうな表情をしていたマイアさんが、少し安堵していた。


「はい。ルナ様がおっしゃるのであれば、信じます」

「ありがとう」


 こんな自分の事を信じてくれるマイアさんにお礼を言う。


「この事は、サレンには伝えないでも良いでしょうか?」

「あ、うん。サレンを不安にさせたくはないからね。言わないといけなくならない限りは、言わないで良いよ」


 伝えないといけない時が来ないとも限らない。でも、出来る事なら、小さい子は不安にさせたくない。これは、マイアさんと同じ考えなので、同意した。


「しばらくは、屋敷の運営金を皆さんの食費に充てようと思います。よろしいですか?」

「うん。それでお願い」

「かしこまりました」


 皆の食費がどのくらい掛かるか分からないから、運営金を使う事に許可を出した。必要な事だから仕方ない。余裕がなくなりそうだったら、皆からモンスター素材を集めれば良いしね。念のため、運営金の現状なども確認しながら、マイアさんとの相談を進めていった。

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