第237話 ユートピアに戻る!!

 衝撃的な内容に、皆は、やっぱり言葉を失っている。そんな中で、メレだけ私に耳打ちした。今の皆は、そっとした方が良いと思ったみたいだ。


「書かれている内容は、英語も全部同じでした」


 どうやら、念のため全部確認してくれたらしい。結構面倒くさい作業だろうに、有り難い事だ。


「ありがとう。これ、どう思う?」

「石碑あった真実という言葉には当てはまっていると思います。ですが、あの石碑自体が何かしらの冗談やある種のイベントの可能性は否定しきれないかと。そのくらい突拍子も無いという印象を受けます」


 こんな中でもメレは冷静に分析してくれた。メレの目線からは、こう見えているというのがよく分かる。確かに、普通にこれを見たら、そういう印象を受けるだろう。でも、私はちょっと違った。


「私としては、これは本当の事だと思ってる」

「どのような部分からでしょう?」

「最後の一枚。不老不死って点から、黒騎士が思いつく。加えて、言論統制からも黒騎士が思いつくし、アーニャさんに秘密が多い理由も、これで納得がいく気がする」

「なるほど……それであれば、アーニャさんに確認した方が良いでしょうね」

「でも、話せないんだよ?」


 言論統制の文字やアーニャさんが話せないと言っていた事から、確認をしたところで話を聞けるわけじゃないと予測出来る。


「はい。話は出来ないでしょう。ですが、確認は出来るはずです。頷くなどの行動は、大丈夫である可能性もありますから」

「あ、こっちからこのことを質問して、向こうに反応してもらうって事ね。言論統制の抜け道を探れば、それも出来るか」

「そう思います」


 私とメレが、今後の予定を話している間に、皆も段々我に返ってきた。


「はぁ……ルナちゃんとメレちゃんは、凄いね。私は、この話を飲み込むだけでも、時間が掛かったのに」

「まぁ、心当たりがない訳でも無かったし」

「私は、英語との比較をしないといけませんでしたから」


 役割を全うしようとした結果、メレはこの内容を受け止めて、私に報告してくれたという事だろう。何というか、プロ意識的なものを感じる。


「これって、本当の事にゃ?」

「分からないから、アーニャさんに確認する。嵐を抜けるよ」


 それだけで、皆も私の意図を察してくれた。すぐに世界樹から飛び出す。そして、月読とプティに乗る。そして、船へと向かおうとしたところで、私は、自分の真上を見る。そこにはウロボロスがいて、私を見ていた。


「ありがとう!」


 そう言って、ウロボロスに手を振るが、ウロボロスは、特に何も反応はしなかった。まぁ、分かっていてやったから、特に気にはしない。

 そのまま私達は船へと向かう。前と同じように、ウロボロスに枝が伸びている場所まで見送られた。そして、船に乗り込み、すぐに出航する。


「でも、どうやって、アトランティス港に戻るの?」

「ひとまず、南に進んできたから、北に向かおう。そうしたら、嵐があるはず。無ければそのまま直行出来るから、それはそれでよし!」

「オッケー」


 取り敢えずは、北へと向かっていく。それ以外に取れる方法はないので仕方ない。


「それにしても、世界樹に残された真実があんなものとは思わなかったよ」


 甲板で座り込んでいるミザリーがそう言った。それだけ、衝撃的な内容だったからだろう。


「あれでも、真実の上澄みだと思うよ」

「そうなのにゃ?」

「うん。内容的には、もっと濃いはず。もし黒騎士が、関係しているのであれば、少なくとも百年単位で前からの話のはずだから」

「にゃ~……」


 思っていたよりも昔だったからか、ネロは難しい顔をしながら唸っていた。


「でも、百年単位でやっていて、まだ計画を完了出来ていないって事は、もう諦めたって事なんじゃないの?」

「確かにシエルの言う通りかもしれないけど、何度も計画が復活しているって言葉から、まだ続いている可能性の方が高いんじゃないかなって、私は考えてる」

「てか、百年以上前って、ビデオゲームも無い時からってならない?」


 ソルの指摘に、私達は顔を見合わせる。


「百年前なら、ギリギリ似たようなものはあったと思うけど、さらに前となると、無いだろうね」

「その時からVR技術?」

「VRなら、元に戻ってこられるでしょ」

「あっ、そうか」


 シエルの指摘にソルは納得する。石碑には、一方通行の方法だと書いてあった。つまり、私達みたいなVR技術が、その時からあったわけじゃないと考えられる。


「一方通行で、現実では死ぬ……脳を読み取るとかな」

「うおぅ……グロっ」


 想像してみたら、ヤバイ光景しか出てこなかった。自分の脳を読み取って、電子の海に流すなんて、正気の沙汰じゃない。そう考えたところで、一つの疑問が浮かび上がってくる。


「どうやって、脳を読み取ったんだろう? コンピューターだって、百年単位で考えたら、計画当初の頃はないはずでしょ?」


 そう。計画当初の頃を考えると、恐らくコンピューターなんてない時代だ。当然ビデオゲームだってない。そうなると、どうやって、この世界に人を送っていたのかが分からなくなってくる。


「当時のオーバーテクノロジーじゃない?」


 私の疑問にシエルがそう答えた。


「えぇ~……まぁ、そうかもだけど……」

「納得いかないのは分かるけど、それくらいしか思いつかなくない? てか、夢で見ている世界に入り込むなんて、現代でもオーバーテクノロジーでしょ」

「まぁ、それもそうか」

「それに、他にも謎は多く残っています。そもそもこの世界を夢で見ていた最初の人は、既に死んでいる可能性が高いという事です」

「うん。それはそうだろうね」


 逆に現実で数百歳とかになっていたら、それこそ怖い。


「脳を摘出して、ずっと夢を見させ続けているとか?」

「ミザリーの発想が、いちいちグロい件について」

「だ、だって、一番始めに考えられる事だと思ったんだもん……」

「実際、ミザリーさんの発想が一番あり得ます。このゲームの根幹には、その方の脳、もしくは、それに近いものが関わっているかと」

「闇深いゲーム過ぎる……」


 そんな話をしていると、嵐の姿が見え始めた。


「シエル。ムートに風を起こして貰える? 多分船長室の上に着地すれば、ずっと羽を羽ばたけるはずだからだ」

「船長室の天井は大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ。嵐にも耐えられたくらいなんだから」

「分かった。ムート『起きて』」


 シエルにムートで風を起こして貰い、嵐に向かって加速する。


「でも、このまま突っ込んで、向こうに抜けられるの?」

「出来るとは思う。勘だけど」

「なら、大丈夫だね」

「人の勘を信用しすぎじゃない?」

「ルナちゃんだからね」

「はいはい、どうも」


 そんな事を言っている内に、嵐に突入する。ここまで来ると、舵も利かないので、魔力エンジンだけ点けて、船長室に待機する。もうネロも慣れたかなって思ったけど、やっぱり多少は不安なようで、私を背もたれにするので、取り敢えず可愛がってあげる。

 そのまま一時間程すると、嵐を抜けて晴れ間が出て来る。すぐにソルが外に出て、嵐から離れるように舵を切った。


「今回は、早く抜けられましたね」

「ね。前回は、良くない海流に乗っていたのかもね。それに、海図も元に戻った。これで、現在地とアトランティス港の場所を把握出来る」

「……だいぶ東の方に流されていますね。ここから北西に向かいましょう」

「そうだね。ちょっと心配なのは、ジパングの時に見たリヴァイアサン的なやつに襲われないかって事だけど」

「そこは運次第というところでしょうか。敵対しない可能性に賭けましょう」

「うん」


 私は、ソルの元に向かって、次に向かう方角を指示する。


「北西にアトランティス港があるんだね?」

「うん。メレも一緒に確認したから確実。ただ、距離があるから、今日中に着くのは無理そう」

「ムートちゃんの力を借りても?」

「うん。厳しい」

「了解」


 取り敢えず、早く着きたいので、シエルにムートを出して貰い、メレにも聖歌をお願いして、最大船速で向かう。ただやっぱり今日中に着く事は出来ず、途中の無人島に寄せて、ログアウトする事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る