第234話 お泊まり会(3)!!

 私の視線を受けた日向は、にっこにこの笑顔になる。


「じゃんけんで組み合わせを決めよ?」


 日向の言いたい事は、一緒に入る組み合わせを決めるという事だ。この提案には、皆驚いていた。


「良いお風呂を期待しているかもだけど、私と日向が一緒に入れるくらいのお風呂だから」

「なら、二人ずつって事になるわけか」

「誰かは一人になるわけですね」

「えぇ~、三人で入ろうよ」

「三人で入れるの?」

「えっ……まぁ、私達、皆、小柄だしいけなくはないと思うけど」

「だよね! 私もギリギリいけると思う!」


 この中で家のお風呂に入った事のある私達がそう言うので、大空も納得した。というか、日向の目力に圧されたという感じだろう。日向としては、皆でもっと仲良くなりたいと思ったからの提案したんだと思う。


「それじゃあ、グッパーで決めよう」


 美玲も乗り気なので、組み合わせを決める事になった。皆、お泊まりでテンションが上がっているんだと思う。

 そうして、組み合わせが私と舞歌、日向と大空と美玲という事になった。


「それじゃあ、人数が多い分、そっちが先に入って良いよ。舞歌もそれで良い?」

「はい。構いません」

「うん。分かった。それじゃあ、行こう」


 家のお風呂を知っている私と日向が分かれたので、この組み合わせで、ちょうど良かったかもしれない。

三人は、三十分程でお風呂から出て来た。寝間着に着替えた三人がリビングに来ると、日向はニコニコとしていたが、大空と美玲は疲れた顔をしていた。


「日向に洗われた?」

「その通り。滅茶苦茶丁寧にやってくれたけど、人に洗われるって慣れないわ」

「三人は、少し狭かったかも。湯船ぎゅうぎゅう詰めだったよ」

「まぁ、だろうね。それじゃあ、私達も入っちゃおう」

「はい」


 私と舞歌も一緒にお風呂に向かう。


「そういえば、昨日公式サイトを覗いてみたのですが、明後日にアップデートがあるそうですよ」


 脱衣所で服を脱いでいると、舞歌がそんな事を言った。


「アップデート? それって、ログイン出来なくなるとか書いてあった?」

「いえ、普通にログインは可能だそうです」

「そっか。ところで、何のアップデート?」

「分かりません。大型アップデートと書かれていただけですので」

「ふぅん。何かのイベントかな? 今回は参加出来ると良いけど」

「そうですね」


 そんな事を言いながら、二人でお風呂場に入る。


「さてと、お客様には、ちゃんと奉仕しないとね」

「では、よろしくお願いします」


 舞歌はそう言いながら、風呂椅子に座る。冗談だと思っている舞歌に、シャワーを浴びせる。



「……えっと」

「冗談だと思った? 残念、本当でした」


 舞歌に何か言われる前にシャンプーを出して、頭を洗い始める。


「舞歌の髪の毛って、結構柔らかいんだね」

「そ、そうですね。その分痛みやすいので、気を付けないとですけど」

「さすが、アイドル。そういうのはしっかりしてるんだね」

「そうですね」


 十分に頭皮は洗ったので、シャワーで洗い流す。軽く頭を拭いてから、トリートメントを付けていく。


「舞歌もだいぶゲームに慣れてきたよね」

「そうですか? 私としては、まだまだのように思っているのですが」

「今日の格闘ゲームも、最後の方は結構出来てたし、ゾンビゲーでも、ちゃんと戦えてたじゃん。そろそろ機械音痴も卒業かもね」

「パソコンの扱い方は、いまいちですけど……」

「そういえば、学校で苦戦してたっけ。まぁ、それも、これから覚えていけば大丈夫だよ。私達には、まだまだ時間があるわけだしさ」

「朔夜さんにそう言われると、少し安心します」

「それは良かった」


 この会話の間に、トリートメントを洗い流して、コンディショナーも付けておいた。次は、ボディタオルを泡立てて、身体を洗っていく。舞歌の肌を傷つけないように丁寧に洗っていく。


「…………こっちでも細いな」

「朔夜さんは、腰フェチなんですか?」

「え? 胸の方が好き」

「何で、私は腰ばかり触られるのでしょう?」


 舞歌が困った顔をしながらそう言う。舞歌の困った顔は、定期的に見たくなるくらいには好きだ。


「何だろう? 舞歌の腰には、凄い惹かれるんだよね。細いのにしっかりしているからかな?」

「私に訊かれましても……」


 若干困ったままの舞歌をそのままに、身体を隅々まで洗っていく。


「よし! それじゃあ、先に湯船入っていて良いよ。私も入ると、少し狭くなるし」


 私がそう言うと、舞歌は私の後ろに回って、風呂椅子に座らされた。


「いえ、せっかく洗って頂いたので、私からもお返しさせて頂きます」

「えっと……じゃあ、お願いしようかな」

「……朔夜さんは、慣れているみたいですね?」


 私が全く動揺しなかったからか、舞歌は珍しく面白くなさそうな顔をする。


「まぁ、近くにいるのが、日向だしね。昔からこういうのには慣れてる。シルヴィアさんも似たような所あるし」

「そうなんですか。シルヴィアさんとは、その後どうですか?」

「ん? 順調……なのかな? 何か問題があるとかはないよ。ここ最近は海に出ているから、会えないのは寂しいけどね。まぁ、そもそも次元そのものが違う場所にいるから、寂しいのは、ずっとなんだけど」

「本当に愛しているんですね」

「そりゃあね」


 そんな話をしている間に、シャンプーが終わって、トリートメントとコンディショナーを塗られる。


「そういえば、朔夜さんには、将来の夢はあるんですか?」

「へ? 将来の夢?」

「はい」


 舞歌にそう言われて、少し考える。


「あまり考えた事なかったなぁ。まぁ、興味あるのはゲーム業界だから、そっち系かな」

「いっその事アイドルなど如何ですか?」

「はぁ!? アイドル!? 無理無理無理無理!」

「そんな事ないと思いますよ。歌は上手ですし、運動神経も問題はないですし、何より可愛いですよ」

「舞歌に言われてもなぁ。舞歌の方が上でしょ。運動神経以外」


 そう言うと、少し乱暴にシャワーを浴びせられた。


「では、身体を洗います」


 さっき舞歌の身体を洗ったので、これも断る事は出来ない。大人しく洗われていく。


「ゲーム業界というと、プログラミングですか?」

「まぁ、そんな感じだろうね」

「大変なお仕事になりますね」

「もしそうなったらだよ。本当に就くかどうかは分からないよ」

「アイドル」

「それはない」

「強情ですね」

「そっちもね」


 同じ業界で働きたいという事なんだと思う。高校卒業後、もしくは、三年生の内に復業する事になるので、少しでも繋がりを保っておきたいのかもしれない。


「別に離れても、時間を作って会うことは出来るでしょ? それに、アイドルになった方が一緒にいられないんじゃない?」

「ユニットを組めば別ですよ」

「舞歌とユニットを組むって、かなりハードルが高いって分かってる?」

「全く同じ姿で戻ってくるとは、誰も思っていないはずですから、ユニットを組んでいてもおかしくはないと思いますよ」


 舞歌は、ここ最近で一番の笑顔をしながらそう言う。舞歌は、本当に私がアイドルを出来ると思っているらしい。その気持ち自体は嬉しいけど、やっぱり、私にアイドルなんてのは無理だ。


「申し訳ないけど、私はやめとく。舞歌の仕事を馬鹿にしたりしてるわけじゃないよ。ただ、舞歌が思っているより、私には向いてないと思うから」

「……分かりました。今回は諦めます」

「ほら、やっぱ強情じゃん」

「私だって、我が儘になる事もあります」


 互いに頭と身体を洗い終えた私達は湯船に浸かる。


「ふぅ……そういえば、宿題ってどのくらいやった?」

「もう終わってます」

「優等生め……」

「最終日に慌てる事になりますよ?」

「毎年の事ですが」


 おちゃらけてそう言うと、舞歌は困ったような顔になっていた。しょうがない子だみたいな感じだ。

 そんな話をしていると、浴室の扉が少し開いている事に気が付いた。誰も覗いていないように見えるけど、私には分かる。


「日向。何してんの?」

「バレちゃった」


 そう言って、隙間から日向が顔を出した。これには、舞歌も苦笑いしている。


「覗き?」

「うん」

「堂々と言うな。大空と美玲は?」

「テレビ見てるよ」

「なら、日向もそっちに行きなよ。私達もそろそろ出るし」

「うん。分かった」


 そう言うと、日向は大人しく戻っていった。


「……何しに来たんだろう?」

「覗きにではないんですか?」

「だったら、隙間だけ開けないで、普通にジッと覗いていたと思う。私がそう言ったから、乗っただけ。あれは……多分、私達の話を聞いていた感じだな」

「よくお分かりですね」

「まぁ、幼馴染みだしね。さてと、のぼせちゃう前に出よう」


 私は、先に上がってバスタオルを持って舞歌に渡す。


「ありがとうございます」


 身体を拭いて、下着と寝間着に着替える。そして、折り畳みの椅子を出して、舞歌を座らせて、ドライヤーを掛けていく。


「はい。終わり」

「ありがとうございます。では、今度は私がやりますね」

「うん。お願い」


 場所を交代して、舞歌に髪を乾かして貰って、リビングに戻ってくる。


「おかえり」

「ただいま。何見てんの?」

「クイズ番組。今のところ、日向がダントツで一位」

「だろうね」


 その後、テレビを見たり、私のアルバムを見たりして過ごしていく内に夜も更けていった。

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