第232話 お泊まり会(1)!!

 翌日。早くから開いているスーパーに向かって、昼食と夕食の買い出しをする。


「あっ、お菓子……は、大丈夫か。おばさんが日向に持たせてくれるだろうし」


 間食に関しては、完全に日向のお母さん任せにした。こういうときは、基本的に、日向にお菓子を持たせてくれるからだ。


「せっかくのタコパなら、たこ以外にも入れたいよね……」

「出来れば、安全なものが良いですね」

「さすがに、食べられないものは入れないよ」

「では、激辛ですか?」

「それは良いかもね。私も得意では無いけど。舞歌……は?」


 そこまで話して、自分の隣に変装した舞歌が立っている事に気が付いた。あまりに自然すぎて、普通に会話していた。


「私も得意では無いですね。ですが、それが面白いのでは?」

「まぁ、それはそうだけど。てか、いつの間にいたの?」

「少し早めに駅に着いたので、手土産を追加で買おうかと思いまして」


 そう言って、舞歌は手に提げているものを、少し掲げる。


「別に気にしないで良いのに。それだけで十分だよ」

「ですが、私達の中でお金を持っているのは、私ですし、色々と期待されていると思いまして」

「舞歌が言うと、嫌みに聞こえないのが不思議だよ」


 私がそう言うと、舞歌は小さく笑った。


「せっかくですから、甘いものもどうでしょうか?」

「たこ焼きの中にチョコって事?」

「はい。面白いと思いますよ」


 舞歌はノリノリでそう言う。どうやら、テンションが高いみたいだ。泊まり会だからなのか、タコパだからなのかは分からないけど。

 舞歌と一緒に材料を買った後、駅前に行ってみると、日向と大空と美玲が集まっていた。これだと私達が待たせたように思えるけど、実際には待ち合わせ時間ぴったりなので、問題無い。


「あれ? さくちゃんも一緒にいたんだ?」

「買い物してたら、隣に立ってた」

「普通に会話されていたので、気付いているものだと思ったのですが、私を見て驚いていました」

「あれは、驚くって。まぁ、それはいいや。暑いし、早く家に行こう。こっちだよ」


 私は、皆を自分の家まで案内する。本当は日向がやる予定だったけど、こうして合流したら、私がやった方が自然だ。

 家の前に着いたら、私はすぐに鍵を開けて、扉を開く。


「ほら、早く入って。エアコンは付けたままだから、涼しいはず」


 そうして、皆を家に入れた後は、手洗いをして貰ってリビングに案内する。


「適当に寛いで」


 そう言ってから買ったものを冷蔵庫に入れていく。


「あ、そうだ。これお母さんから」


 そう言って、日向が紙袋をテーブルに載せる。


「あ、そうだ。私も手土産」

「私も私も」

「私もです」


 大空、美玲、舞歌も同じくテーブルに載せた。


「どうもどうも」


 そう言いながら中身を見ていく。この泊まり会で食べられるようなものなら、すぐに出してしまうと思ったからだ。


「うわっ……舞歌の手土産、えぐっ……」


 舞歌の手土産は、有名店のお団子だった。これは、私もテレビ番組で見た事がある。

 大空の方は、クッキーの詰め合わせだった。気軽に摘まめる良い物だ。

 美玲は、緑茶のお茶っ葉だった。それもかなり高級なものだ。


「何だか、私だけ見劣りしない?」


 大空は、自分のものがありふれたものなのではと思っていた。まぁ、二人が高級品を持ってきているから仕方ない。だから、ここで真打ちの手土産を見せる。


「おっ、やっぱり、おばさんは分かってるね」

「さくちゃん、好きだもんね」


 日向が持ってきてくれた手土産は、チョコの詰め合わせとしょっぱい系のお菓子という庶民感溢れるものだった。だが、このありふれたチョコが美味しいのだ。


「てか、美玲のお茶って、どこで買ったの? 近所じゃ見た事ないよ?」

「えっ、どこだろう? 家で使ってるものだから、よく分からない」

「家で使っているもの?」

「うん。実家は茶屋だから。泊まり会をするって言ったら、これを持っていきなさいってさ」

「普通に淹れて大丈夫?」


 いつも通りに淹れて良いものか迷う。


「別に気にしなくても良いけど、五十度くらいが良いよ」

「……まぁ、期待しないで」


 ちゃんと淹れられる自信はないけど、お湯を沸かしておく。示し合わせたわけじゃないだろうけど、美玲のお茶と舞歌のお団子で和な感じで揃っている。


「見て見て。さくちゃんのアルバム」

「うわっ……可愛い」


 日向が出してきたアルバムを見て、大空が驚いていた。何故『うわっ』って言ったのか問い詰めたくなる。


「赤ちゃんの頃から面影がありますね」

「確かに。それにしても、寝ている写真多すぎない?」

「赤ちゃんの頃のさくちゃんは、基本的にずっと寝ていたんだって。おばさんが言ってた」

「へぇ~、そして、今は夜更かし常習犯と」

「睡眠貯金をしていたのかもしれないですね」


 そんな風に私の赤ちゃん時代を楽しんでいる四人に、美玲が持ってきたお茶と舞歌が持ってきたお団子を出していく。舞歌のお団子は抹茶団子と普通の餡子、みたらしが、それぞれ人数分だった。


「ちゃんと淹れられたか分かんないけど」

「ありがとう。さくちゃん」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「ありがとう。うん。大丈夫だよ」


 美玲が一口飲んで、笑顔で頷いてくれる。お茶屋の娘にそう言われたら、一安心出来る。


「舞歌のお団子、美味しすぎ……」


 餡子のお団子を食べた大空が驚いていた。私もみたらしのお団子を食べて、その美味しさに驚く。


「さすが名店のお団子だね。美玲ちゃんのお茶も相まって、美味しさが凄い」


 皆でお団子を食べて一息つく。


「そういえば、黒江ちゃんとの通話は?」

「長時間の通話をする代わりに、お昼の後からって事になった。朝からやると、黒江の体力も保たないだろうからって」

「そうなんだ。早く通話したいね」

「だね。それじゃ、ちょうどお昼まで二時間くらいあるし。映画でも見る?」


 そう言って私は、ホラー映画のパッケージを見せる。


「幽霊嫌いの朔夜がホラー映画とは……」

「これは幽霊じゃ無くてゾンビものだから。パニックものもあるよ」

「何で心臓に悪い方面の映画ばかり出してんの?」

「えっ、やっぱ、こういう時はホラーとかかなって」


 こうして、私達はパニックもの映画を見る事になった。


「結構古い映画ですね。これは、朔夜さんのおすすめなんですか?」

「ううん。映画を見たいって言っている人には、絶対勧めないと思う」

「何でそんなものを出してきた」


 大空からジト目で見られる。


「いやぁ、世の中こんな映画もあるよって知ってもらいたくて。衝撃の結末に、皆驚くと思うよ」

「……そう言われたら、気になるな」


 大空の興味を引く事が出来た。これは、皆のラストの反応が気になるところだ。そのまま映画は進んで行き、街が霧に覆われていった。そして、スーパーに避難した人達に霧の中から怪物が襲い掛かっていく。びっくりポイントで、隣にいる舞歌がビクッとするので、ちょっと楽しい。日向は、一緒にこういうのも見ていたから、慣れているようで、クッキーを食べながら見ていた。大空と美玲は、チョコなどのお菓子を摘まみながら、食い入るように見えていた。先の展開が気になるみたいだ。

 そうして、進んで行き衝撃のラストが終わると、大空と美玲が大きく息を吐いた。


「本当に衝撃のラストだったわ」

「まさか、最後があんな感じだとは思わなかったよ」


 二人が見てきた映画の中に同じようなラストの映画はなかったみたいだ。舞歌はどうかなと思い、舞歌の方を見てみると、涙をぽろぽろと流していた。


「!?」

「あっ、すみません。最後のシーンで、ちょっと……」


 舞歌は、ラストのシーンで思わず涙が出てしまったらしい。確かに、主人公に共感してしまえば、涙が出て来てもおかしくは無かった。そんな舞歌にティッシュをあげる。


「ありがとうございます」

「ふっふっふっ、皆、満足してくれたようで良かったよ。それじゃあ、簡単にお昼作っちゃうから、適当に寛いでいて。ゲームとかもあるから。詳しくは、日向に訊くといいよ」


 私はそう言って、キッチンに向かう。お昼は、夜のたこ焼き程凝らないで、簡単な焼き飯だ。テキパキと作っていると、皆の興奮した様な声が聞こえてくる。ちらっとリビングを見てみると、対戦型の格闘ゲームで日向と大空が戦っていた。日向が大技を成功させたようで、大いに盛り上がっている。

 その後、舞歌対美玲と美玲対大空の戦いをしている内に、焼飯が出来上がった。


「出来たよ」

「ありがとうございます」


 さすがに、全員でテーブルは難しいので、私、日向、舞歌がテーブルで、大空と美玲がローテーブルで食べた。洗い物は日向と舞歌に任せて、私は黒江と通話するためにパソコンを立ち上げておく。

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