第171話 滅びた街の調査!!
昨日見つけた街へと来た私とシルヴィアさんは、改めて街の規模に圧倒されていた。
「遠くから見た時も大きいと思っていましたけど、こうして近くに来ると、改めてそう感じますね」
「見た感じでは、ユートリアと同じ規模でしょうか」
「ユートリアと同じとなると、中規模くらいですかね? 王都並みじゃなくて良かったです」
「そうですね。これなら、今日の内に探索を終える事が出来そうです。念のため、ほとんど原形を保っている家には入らないようにしましょう」
「原形を保っているのにですか?」
私は、原形を保っているのであれば、安全なのではと考えていたのだけど、シルヴィアさんはそう考えなかったみたい。
「周囲の建築物を見るに、いつ崩れてもおかしくないと判断出来ます。生き埋めにならないためには、既に崩れている家の調査の方が良いでしょう」
「なるほど。念には念をって事ですね。でも、少し覗くくらいはしても良いですよね?」
「……まぁ、良いでしょう。最善の注意を払ってください」
「分かりました」
私は、まず初めに街の入口を調べた。街の入口には、その街の名前が書かれた看板などがある可能性があったからだ。ただ、街全体を雪が覆っているので、地面に横たわった状態だと、雪に埋もれてしまっている可能性が高くなる。
「う~ん、この感じだと、ここら辺にあると思ったんですけど」
「ルナ、こちらにあるものは、違いますか?」
シルヴィアさんはそう言って、雪の中から瓦礫を複数掘り起こした。その瓦礫には、かなり掠れているが、文字のようなものが書かれている。
「ニヴルヘイムの近くなんだし、きっと氷海言語のはず……」
そう言って、掠れている文字を何とか読もうとする。しかし、その一文字も読めなかった。その理由は、文字が掠れすぎているからだけではなかった。
「これって……天界言語?」
「それは、本当ですか?」
シルヴィアさんが私に確認してくる。私は、もう一度確認する。やはり、どう見ても氷海言語ではなく、天界言語だと思われる。天界言語が書かれている本を、何度も何度も見たから、ほんの少しだけ天界言語の形は覚えている。その一つが、ここに書かれているように見えていた。
「多分、そのはずです。この文字を見たことがあるので。仮に天界言語じゃなくても、氷海言語ではない事は、確実です」
「天界言語が使われた街……確か、ジパングも天界言語が書かれていたのでしたね?」
「はい」
「では、こちらでも、古代兵器が関わっている可能性がありますね。古代兵器のそのものの名前か、それを管理する街の名前かというところでしょうか」
シルヴィアさんの言うとおり、この瓦礫に書かれている文字が天界言語とすると、この街が古代兵器に関わっている可能性が出て来る。ニヴルヘイムでこそ、天界言語はなかったが、比率的には天界言語が関わっている方が高い。
「もしかしたら、ニヴルヘイムの管理をしていた街なのかもしれないですね。色々と考えられますが、まずは街を調べないとです」
「そうですね。改めて言いますが、最初に言った事は守って下さいね」
「は~い」
私は、早速近くにあった家に近づいていく。その家は、まだ原形を保っているので、入口や窓から、中を覗いていく。こういう家には入らないと、シルヴィアさんと約束したからだ。
「何か、色々と散らかってはいるんですが……」
「どれも朽ちているようですね」
その家の中は、何かの残骸が散らかっていた。部屋の構造などから考えるに、リビングのテーブルだったものかな。
「通常の生活をしていた跡と考えられますね。持ち運べない家具だけを残して、街を捨てたというところかと」
シルヴィアさんは、家の中の状態からそう推察した。確かに、本棚やテーブルなど、大きな家具の残骸ばかりが残って、食器などは一切見当たらない。
「街から離れないといけない何かがあったって事ですよね?」
「ここから考えられる事はそうですね。ですが、これは、あくまで仮説ですので、あまり固執しないようにしてください」
「分かりました」
シルヴィアさんの考えで当たりだと考えていたけど、それはやめるように言われてしまった。確かに、この考えが正解だと思い込んでいたら、他の答えが出た時に、納得出来なくなりそうだ。
こういう風に、自分の考えでも一歩離れて考える事が出来るのは、シルヴィアさんの大人っぽいところかも。
その後、崩れている家やまだ原形を保った家などを、次々に調べていくが、何かに繋がる情報は無かった。
「さすがに廃墟ばかりですし、特にこれといった情報は無かったですね」
「はい。後は、あの一番大きな建物ですが」
そう言って、シルヴィアさんはある方向を見る。私も釣られる様に、その方向を見た。そこには、周囲の建物の数倍大きな建物があった。他の建物と違って、一切風化している様子がない。
「あの建物だけ、異様な感じですよね」
「全く風化していないですから。ひび割れなどがあってもおかしくないと思いますが、それすらもありませんしね」
「あそこなら、中に入っても大丈夫ですよね?」
「……そうですね。ただし、周囲の警戒は怠らない事をお約束下さい。何か異変があれば、すぐに外へと避難するように」
「はい!」
改めて、シルヴィアさんと約束してから、件の大きな建物へと向かう。近づいていく毎に段々と大きく見えてくるその建物は、まるで神殿の様に太い柱が並んでいた。
「何かを祀っているんでしょうか?」
「そうだとしても、私達は知らない可能性の方が高いかと」
「古代のものですもんね。今も信仰が続いているのなら、天界言語に繋がる何かが残ると思いますし」
現代に繋がる何かがないので、私は、ここに祀られた何かは現代に引き継がれていないと考えた。それは、シルヴィアさんも同じみたいだ。
そして、私とシルヴィアさんは、その神殿の様な建物の中に入っていく。中にも、太い柱がずらーっと並んでいた。他には、元々は椅子であっただろう朽ちた残骸が散らばっている。実際の神殿の中には入った事が無いから分からないけど、ゲームの神殿みたいな感じがする。
その中央には、魔法陣みたいなものが刻まれた円盤が置いてあった。床よりも一段高くなっているので、少し目立つ。
「何でしょう? これ」
私が、円盤に触れようとすると、シルヴィアさんに首根っこを掴まれて、円盤から離された。
「全く、何を考えているのですか!? 一番何が起こるか分からないものに、不用意に触れないで下さい! さっき警戒を怠るなと言ったばかりでしょう!」
私は、シルヴィアさんに正座をさせられて、説教を受ける事になってしまった。確かに、少し不用意だったかもしれない。そこから、五分程説教を受けると、ようやく立ち上がる事を許してくれた。
「はぁ……分かりましたか?」
「はい。ごめんなさい」
素直に謝ると、シルヴィアさんは、しょうがないという風に笑って頭を撫でてくれた。
「少し周囲を調べて見ましょう。もしかしたら、資料室などが残っているかもしれません」
「そうか。この神殿は風化していないんですもんね。古代兵器と同じ素材となれば、運が良ければ、資料が残っているかも!」
私は、ちょっとした希望を持って、シルヴィアさんと一緒に周囲を調べていく。結果、資料室のような場所は見つけたが、中には何もなく、落胆するだけだった。
「そういう事もあります」
「でも、ニヴルヘイムでも同じでしたよ?」
「そういう事もあります」
シルヴィアさんは、一切表情を変えずにそう言いきった。正直、誤魔化しているのかそうでは無いのか分からない。
「結局、これが残りましたね」
私達は、魔法陣の前に立っていた。もうこれ以外に調べる物がないのだ。
「取りあえず、私が乗りますね。私なら、死んでも生き返りますから」
私がそう言うと、シルヴィアさんは眉を寄せる。私が犠牲になる可能性があるからだ。私は、じーっとシルヴィアさんを見て食い下がる。私の想いは、昨日の雪山で言った通りだ。
シルヴィアさんに犠牲になって欲しくない。だって、シルヴィアさんの命は一つだけなのだから。
「……分かりました」
シルヴィアさんはそう言って、私を抱きしめる。
「何かあれば、自分の命を最優先に行動しなさい。良いですね?」
「はい!」
私が返事をすると、シルヴィアさんは、私の唇に優しくキスをした。
「気を付けてください」
私は、シルヴィアさんに背を向けて、魔法陣が書かれた円盤に乗る。その瞬間、魔法陣が光輝く。そして、そのすぐ後に、光に包まれて転移させられた。
「うっ……」
真っ白な視界から、段々と転移先の景色に変わってくる。その最中、花の香りが鼻腔をくすぐる。それだけで、さっきまでいた雪山ではない事が分かる。
そして、ようやくこの場所の景色が見えた。
「花畑……?」
転移したから当たり前なのだけど、さっきまでと全く違う景色になったので、ちょっと戸惑いが生じる。
そこに、もっと驚く様な事があった。私の手が光っていたのだ。
「うぇ!? な、なんで!?」
自分の右手を持ち上げてみると、光が収まっていった。突然の事に驚いたけど、よくよく考えてみれば、思い当たる事がある。
「アルカディアの権限……」
この手は、アルカディアで権限を受け取った手だ。つまり、アルカディアの権限が関係する何かが起こったということだ。これは、どう考えても、今起こった転移だろう。
「あの街は、アルカディアを作った組織の物……じゃあ、ニヴルヘイムは……? 私のアルカディアの権限は使えなかった。じゃあ、あの街は、ニヴルヘイムと関係ない?」
色々と考えられる事が出て来た。いい事ではあるんだろうけど、結論を出せないので、今は考えないことにする。
「多分、またここら辺を踏めば、向こうに転移するんじゃないかな……」
早めにシルヴィアさんの元に戻った方が良いと思い、一度その場を離れてから、再び同じ場所を踏む。すると、私の考え通り、シルヴィアさんの元まで戻る事が出来た。
「ルナ、大丈夫でしたか?」
「はい。全然問題なしです。ここから転移で花畑に移動しました」
「花畑……こことは、全く正反対の場所ですね。見覚えはありましたか?」
「いえ、私の知らない場所です。多分、私に触れていたら、一緒に転移すると思いますので、シルヴィアさんも行ってみますか?」
他の人と繋がってさえいれば、その人も転移されるのは、ゲームの鉄板だ。だから、この転移でも出来ると思ったのだ。
「そうですね。行って帰ってくる事が出来るのであれば、私も一緒に行って、調査をしましょう」
シルヴィアさんはそう言って、私の手を取った。私達は、手を繋いだまま、魔法陣の上に立つ。すると、今度はシルヴィアさんも一緒に光に包まれて、先程の花畑に転移した。
花畑を見たシルヴィアさんは、ちょっとだけ驚いていた。
「本当に花畑ですね。偽物という感じしません」
「シルヴィアさんは、見覚えはありますか?」
「いえ、私もありません。ユートピア国内を、姫様と巡っていますが、このような場所があるという話は聞いたことがありません」
シルヴィアさんも、この場所に覚えはないらしい。シャルと一緒に各地を巡っているシルヴィアさんがこう言うということは、この場所は、ユートピアには無い場所なのかもしれない。
「じゃあ、ここは一体どこなんでしょうか?」
「分かりません。ジパングのように、下手すると他国の可能性もあります。慎重に移動しましょう」
「はい」
私達は、ここがどこだか調べるために、まっすぐ前へと進んで行った。花畑が続いているけど、その周りには木々が生い茂っている。
「自然豊かな場所ですね。まったく整備されている感じがしません」
「近くに街はないと考えた方が良いかもしれないですね。もしくは、人が来られないような場所なのかもしれません」
「霧の森みたいにですか?」
霧の森は、ユートリアの西にある森のことだ。あの森は、霧という悪環境の中で、大量のモンスターと戦う事になる厳しい場所だ。そこを抜けることが出来る人は限られるため、基本的に誰も近づかない場所になっている。
もし仮に、ここに人がいない理由が、霧の森と同じような理由なら、ここには厄介な敵がいる可能性が高くなる。
私は、改めて気を引き締め、周囲を警戒しつつ進んで行った。その状態で、ある程度進んで行くと、私達以外の気配を感じた。その気配は、森の中から、まっすぐ私達の方に向かってくる。
「ルナ、警戒を」
「はい。ん? あれ?」
「どうしました?」
私は、少し首を傾げてから、シルヴィアさんを見る。
「何か、ソル達の気配っぽくて。でも、ソル達は、常夜って場所にいるはずなんですけど……」
「……」
私の言葉を聞いて、シルヴィアさんは、剣に掛けていた手を放した。
「ルナの感覚を信じましょう」
その言葉のすぐ後に、近くの森の中から、ネロが現れた。感知能力に優れているネロが、私達の気配を感じて、向かってきたみたいだ。ネロの後ろから、ソル達も現れた。
「ルナちゃん!」
「ソル、皆も、どうしてここにいるの?」
飛びついてくるソルを受け止めつつ、そう訊く。
「それは、こっちの台詞だよ。私達は、ジーク達から教えてもらった場所から転移して来たんだけど」
「ジーク達から? 私達は、雪山にあった滅びた街にある魔法陣から転移してきたんだ。お互いに転移で、こっちに来たって事なんだ」
お互いに転移で移動してきたということは、本当にユートピアじゃない場所なのかもしれない。
「魔法陣? 私達のところには、魔法陣なんてなかったけど」
私から離れたソルが、首を傾げてそう言った。そう言われて、私は、シルヴィアさんを見る。私達とは違う転移方法だったからだ。私の視線を受け取ったシルヴィアさんは、それだけで、私が言いたいことを理解したようで、首を横に振った。
「さすがにこればかりは、私にも分かりません。ソル様達は、どのように転移されたのですか?」
「えっと、光の柱に入ったら、神殿の前に転移しました。」
ソルの答えに、シルヴィアさんは少し考える。ソル達は、私達とは別のところに転移したらしい。これも何かに関係してくるのかな。
「神殿……もしかしたら、ソル様達の道の方が、正規の移動手段である可能性がありますね」
「確かに、私達が転移された場所は花畑の中ですし、ちゃんと知らないと、どこにあるか分かりにくいですしね。緊急用の避難経路と考える方が納得いきます。でも、権限所有者がいないと、機能しないみたいでしたよ?」
「権限を所有出来る者が、上の人間であれば如何でしょう?」
「なるほど……」
アルカディアで得られた権限は、本当に偶々得られただけだった。組織内の上の人しか貰えない権限であったのなら、本当に運が良いことだ。
ただ、何故それを得る事が出来る状態であったのかが謎だ。アルカディアを作った人達は、組織に疑念を抱いていた。だから、アルカディアに来た善良な人に権限を与えて、壊せるようにしたのかな。
納得出来るように考えるこうなる。
「これに関して、ここで考えても仕方がないでしょう。私達も、その神殿を見たいと思うのですが、ご案内を願えますか?」
「分かりました。後、シエルちゃんが、神殿にあった本を集めて持っているんだけど」
「くれるの?」
「私が持っていても仕方ないでしょ。古代言語なんて読めないから」
そう言って、シエルが大量の本を取り出していく。それらをアイテム欄に入れながら、その内の一冊を手に取る。
「…………これ、天界言語だ」
「へぇ~」
シエルは、あまり興味なさそうに本を取り出し続ける。
「結構重要な事だよ。もしかしたら、ここは、天界言語を常用していた場所かもしれないんだから」
「そうか。ルナからしたら、ようやく天界言語を解読出来るかもしれないから」
「うん。これで、黒騎士が言っていた世界を知るという事が分かるかもしれない。ずっと気になっていたんだよね。あの人が何を言いたかったのか」
本当に、あの時から、ずっと気になっていた。黒騎士が言おうとした言葉を。その真意を。
「後で、メアリーさんに渡そう。解読が進むと良いな」
ちょっとウキウキになりながら、ソル達の案内で、神殿へと移動する。
「へぇ~、結構大きいんだね」
「大きいだけじゃなくて、モンスターもいっぱいにゃ」
「うげ……まだいるの?」
「……さっき倒したのに、もう復活しているにゃ」
ここの神殿は、モンスター復活までのスパンが短いらしい。
「皆は、一通り調べ尽くしたんだよね?」
「うん。その成果は、さっきシエルさんが渡した本くらいだったけど」
「後は、神殿の最上階にいらっしゃるお爺さんもですね」
メレがそう言って、ミザリーも思い出したみたいでああっといった顔になった。
「最上階にお爺さん? 何でそんなところにいるの?」
「さぁ? 全く分からなかったんだ。話を聞いてくれなくて」
「ふぅん。私が行っても、何も分からなそうだけど、一応行ってみようかな」
「じゃあ、私達も一緒に行くよ。その方が早く移動出来るでしょ? それに、戦力は多い方が良いだろうし」
「ありがとう」
正直、戦力だけで言えば、シルヴィアさんだけでも間に合ってはいるけど、何が起こるか分からないしね。
ソルは、私と冒険出来るからか、少し嬉しそうにしていた。
「それじゃあ、早速案内よろしくね」
「うん!」
ソルの案内で、私達は神殿内に入る直前、神殿をジッと見ていた私はある事に気が付く。それは、神殿の上部にあった。
「あそこ、文字が書かれてる」
「え?」
ソル達は気が付かなかったみたいで、私が指を指した方を見て驚いていた。
「本当だ。もしかして、あれも天界言語?」
「うん。やっぱり、ここを使っていた人達は、天界言語を使っていたんじゃないかな」
「さっきの本も天界言語なんだし、その線は濃厚じゃない?」
本当に天界言語を解読出来るようになるかもしれない。ちょっと楽しみになってきたかも。そんな事を考えつつ、神殿に入った直後、周囲から狼と鷲が襲い掛かってきた。そして、それと同時に、その全てが斬り裂かれた。
「へ……?」
戦う気満々だったソルは、白蓮片手に唖然としていた。圧倒的な速さで、シルヴィアさんが全てを倒したからだ。
「敵はお任せ下さい」
「あっ、はい」
ソルは、白蓮を納めて、案内を続けた。
「シルヴィアさん、強すぎ……」
「まぁ、王国最強だしね。ここにある部屋って、何があったの?」
「図書館にあった本以外には、特に何もないよ。居住出来るって事くらいしか情報はなし」
「じゃあ、何のための施設かは分からないんだ」
「そうですね」
念のための確認をしながら、進んで行くと、最上階に着いた。その間に襲い掛かる敵は、本当にシルヴィアさんが倒しきった。
「ここにお爺さんがいるんだっけ?」
「うん。そこの部屋だよ」
ソルの言う通りに部屋の中に入ると、本当にお爺さんが立っていた。
「あの人が例のお爺さん? 結構、普通の人に見えるけど」
「うん。でも、何も返事はしないよ。耳が遠いって感じでもないし」
改めて、お爺さんに関する情報を受け取りつつ、私達はお爺さんへと近づいていった。すると、反応しないと言われていたお爺さんが、首を動かして私を見た。
「!?」
反応しないと言われていた人が動いたので、思わずビクッと肩を跳ね上げてしまった。すかさず、シルヴィアさんが私達を庇う形で前に出る。何が起きても、私達を守れるようにだ。
お爺さんは手を動かして、懐から本を取り出して、こちらに向けて差し出してきた。
「…………」
私達は、互いに視線を合わせる。全員、若干の不安を感じていたが、好差し出された物を受け取らないのもなんなので、私が代表して受け取りにいった。
ソル達が来たときにはない行動だったので、私かシルヴィアさんが来たから起きた事だと考えられる。まぁ、十中八九私だろう。
この中で、特異な存在を考えると、私の鬼の力か古代言語になるからだ。このお爺さんが反応したのは、後者だと思う。そっちの方が、何となくしっくり来る気がするからだ。
本を受け取ると、お爺さんは、また同じ体勢に戻る。
「……ありがとうございます」
私は、受け取った本の中身を見る。書かれているのは、天界言語だ。つまり、どのみち私には読めない。
「あの……この本は一体?」
「…………」
お爺さんは、一切答えようとしない。ソル達が来たときと同じように、何も聞こえていないようだ。
「あの!! この本は!! 何なんですか!!?」
大声でお爺さんに話しかけるけど、お爺さんは微動だにしない。本当に聞こえていないみたいだ。
「駄目そうです」
「そのようですね。こちらの声に反応しないというのは、意味が分かりませんが」
「ですよね」
私は、お爺さんの目の前で手を振って、視線とかに動きがないか見るが、全く反応がない。
「話を聞くのは諦めよ。ソル達は、どこまで探索したの?」
「まだ、周辺までにゃ。途中で、ルナの気配がしたから、探索を中断したのにゃ」
「なるほどね」
そう言いながら、皆のところに戻るために歩き出すと、皆が何故か驚いている事に気が付いた。その視線は、私ではなく、その背後に向いている。
私は、すぐに後ろに振り向いた。私の視界に映ったのは、さっきまでと少し違った。お爺さんが私に向けて指を指していたのだ。
「?」
何故そうしているのか分からないので、首を傾げると、お爺さんが口を開く。
「鬼の因子……気を付けろ……」
「え? 何にですか?」
「……」
お爺さんは、また黙り込む。
ちょっと不明瞭な発言に、さらに首を傾げる事になった。だけど、もう一つ気にすべき事があった。それは、シルヴィアさんだ。鬼という言葉に、少し眉を顰めていた。それだけで、これまでの色々を察したかのようだ。でも、この場で、すぐに問い詰められる事はなかった。これまでもそうだったから、私が話すまで待つって感じかな。
「何か危ない事が起こるかも。皆、少し警戒しておいて」
私がそう言った直後、外から凄まじい咆哮が聞こえてきた。
「どうやら、警戒すべき対象が近づいているようですね。全員、気を引き締めて下さい。敵の強さによっては、撤退しなければいけません。それらも視野に入れておいてください」
「分かりました。ルナちゃん、戦闘は大丈夫だよね?」
「大丈夫」
私の返事に、ソルは少し不安そうな顔をしたけど頷いた。
「これから敵と戦うとして、前衛は、ソル、ネロ、シエル、シルヴィアさん。後衛は、メレとミザリー。私は、敵の出方で動きを変えるから」
「動きを変えるとは?」
シルヴィアさんが真剣な顔で、私に訊いてくる。戦闘の仕方や、私の安全に関わってくるので、当然と言えば当然だ。
「もしかしたら、相手は、私を執拗に狙ってくる可能性があります。そうしたら、私が一緒にいると、後衛が危険になります。なので、私は、囮として動き回る事になると思うんです」
「……鬼の因子という言葉が関係していますね?」
その言葉に、私はギクッと肩を揺らす。ただ、この状況で誤魔化すわけにもいかないので、正直に答える。
「はい。先の戦いで、私の身体には鬼の因子が宿っています。あのお爺さんが気を付けろと言うって事は、何か私に不利益があるということです。そこから思い至るのは、敵が私を狙うという事です」
「なるほど。分かりました。後で、詳しく話を訊かせて貰います。良いですね?」
「あ、はい……」
後で、絶対に怒られるパターンだ。今から憂鬱だけど、こればかりはしょうがない。今は、これから起こる事に対処する事を優先しないと。
「それでは、外に参りましょう」
『はい(にゃ)』
私達は、皆で揃って神殿の外へと向かう。
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