第167話 探索終了
翌日、ソル達は、遺跡の迷路の未探索エリアを探索していた。
頼りになるのは、ネロの感知能力だ。ソル達は、わずかな風の動きを敏感に察知する事は出来ないので、必然的にネロ頼りになってしまうのだ。
「ここもただの行き止まりにゃ」
「やっぱり、正解の道は一つだけって事なのかな?」
ここまで十何本も行き止まりが続いているので、ソルはそんな風に考えていた。
「その可能性もあるけど、そうじゃない可能性もあるでしょ。どのみち、全部調べないと本当の事は分からないんだから、めげないで」
シエルがソルの背中をポンッと叩きながら、そう言った。
「そうだね。ごめん。ちょっと後ろ向きだった。気を引き締めないとね!」
ソルは、一度自分の顔を叩いて、活を入れ直し、探索を続ける。
そして、また数本の道を潰していくと、前にあった隠し道ではなく、普通に繋がっている部屋に出た。
「普通の部屋もあるとはね。まぁ、あからさまに行き止まりだけよりも怪しくはないって事か」
「でも、どう見ても資料室ではないよね。一体、何の部屋なんだろう?」
ソル達は、部屋の中に入っていく。そこにあったのは、何かを置くための台だった。台の大きさから、人でも持ち運べるくらいの大きさだという事が分かる。
「もしかして、ここに古代兵器があったのかな?」
「ソルさんの言う通りかもね。ただ、こんなに目立つように置いておくものなのかな?」
ミザリーの疑問は、当然の事だった。古代兵器の危険性を、ジパングで十分に思い知ったからだ。こんな誰にでも分かるような場所に置いておいて、カエデのような被害者が出たらどうするのか。ミザリーの考えは、このような事だった。
「う~ん……でも、アトランティスもアルカディアもジパングも、全部操作室には簡単に入れたし、不用心ではあるけど、普通の事なんじゃない?」
ソルは、今までの経験から、ここに古代兵器が置かれていてもおかしくは無いと考えていた。不用心さで言えば、ルナに権限を付与したアルカディアの方が上だからだ。
「そんな事よりも、古代兵器が持ち出されている事の方が問題なんじゃない? これが、古代で既に破壊されていたとかだったら良いけど、誰かプレイヤーが持ち出したとかだったら、危険な可能性もあるでしょ?」
「でも、ユートピア・ワールドの掲示板には、書かれていなかったよ?」
「情報の全てが載っているわけではないでしょ? 幽霊系モンスターを一掃出来るアイテムなら、秘密にしていてもおかしくはないだろうし」
「ああ……確かに、それは秘密にするかも。どこかしらに痕跡とか残っていないかな? ネロちゃん、何か分からない?」
ソルの質問に、ネロは、耳と鼻を動かして周囲を見ていく。
「特に変なものはないにゃ。さすがに、警察犬のような真似は出来ないから、これ以上の情報は分からないにゃ」
「そうだよね。無理をさせてごめんね。う~ん、さすがに、これ以上の事は分からないから、他の道を探索していこう。これに関する情報も集めていくって事で良いかな?」
「それで良いと思う。後は、これもルナと共有しておかないとね」
ソル達は、そう話し合ってから、部屋を出て、次の道に向かって行った。しかし、これ以降は、特に変わった事もなく、通路の全てを探索し終えた。時間も時間になってしまったので、ソル達は、ホラータウンの噴水広場までやって来た。
「じゃあ、これで解散だね。これからどうしようか? 探索する場所もないし」
「それなら、私に行きたいところがあるにゃ」
「行きたいところ? どこなの?」
「ここの墓場に、下り階段を見つけたのにゃ。まだ、その下を探索していないから、どうせなら皆で探索するにゃ」
「そうですね。手掛かりも無い状態ですので、そこを探索してみるのも良いと思います」
「じゃあ、今度は、ネロちゃんが見つけた場所の探索で。今日は、解散!」
ソル達は、これで解散した。今回の探索で、古代兵器が持ち出された可能性が出て来た。それがいつかによって、今後、古代兵器が猛威を振うかが決まってくる。ソル達は、これがプレイヤーの手に渡っていないことを祈った。
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翌日、私とシルヴィアさんは、ニヴルヘイムの中を探索していた。何も情報がない状態なので、ここで、何かしらの情報を得られる事を祈るしかない。
「ルナ。こちらの部屋は、今までの部屋よりも広いです」
「資料室ですか?」
「どうでしょう。中は何もありませんが」
シルヴィアさんが見つけた部屋に入っていくと、シルヴィアさんが言った通り、今までの部屋よりも広い部屋だった。そして、部屋の中には、本棚がいくつか設置されていた。
「資料室っぽいですけど、何もないですね。これも黒騎士が持っていったって事でしょうか?」
「黒騎士と確定したわけではありませんが、誰かが持ち去った事は確かでしょう。埃が積もっていない箇所があります」
「むぅ……じゃあ、情報は手に入らないという事ですね」
「そうですね。ニヴルヘイムに繋がる物は、全て持ち去られていると考える方が良いでしょう。これから先の部屋も空振りで終わると思っていた方が良さそうですね」
ニヴルヘイムの情報を求めて、探し回っていたけど、それが完全に無意味の可能性が出て来た。まさか、本当に情報が全て持ち去られているとは思わなかった。
「地図さえあれば、動力炉を吹き飛ばせますが、それ自体やりたくはないですし」
ニヴルヘイムに来る途中でも言った通り、ここの古代兵器を破壊すれば、周辺への影響で、スノーフィリアに被害が出てくる可能性がある。
スノーフィリアは、シルヴィアさんの故郷だ。そんな被害を出したいとは思えない。仮に、シルヴィアさんの故郷でなくとも、アルカディアの移動集落の件があったから、そうは思えないけど。
そんな事を考えていると、シルヴィアさんが、私の耳に息を吹きかけてきた
「うひゃぁ!!?」
私は、耳を押さえて飛び退いた。
「そこまで思い悩まないでも、良いですよ。どうしようもない事もあります」
「そう……ですけど……」
シルヴィアさんが言っていることも理解出来る。どうしようもない事があるということは、ジパングで痛い程実感している。
だからといって、すぐに割り切れる話ではない。
「頑張って、皆を救う方法を考えます!」
「はぁ……思い悩まなくて良いと言っているでしょう。ですが、ルナがそうしたいというのであれば、止めません。何か思いついた事などがあれば、私にお伝え下さい。実行して良いかどうかは、その時に決めます」
「分かりました」
シルヴィアさんが主導権を持っているけど、その方が、私も安心だから、何も文句は無い。
「それでは、ニヴルヘイムを探索し終えてから、姫様の元に戻りましょう」
「はい!」
私達は、ニヴルヘイムを隅々まで調べ尽くした。その結果、やはり、何も情報が無いことが判明した。ちょっとだけショックだけど、これはこれで、ちゃんと調べた結果だ。受け入れないといけない。
私達は、手ぶらのまま、シャルの元まで戻った。
「おかえり。どうだった?」
「成果無し。資料とかも全部持ち去られた後だった」
「そうなると、持ち去った人が気になるね。ルナ達の予想通り黒騎士だったら、情報を取り戻すのは難しいね」
「そのため、ニヴルヘイムを止める術は分かりません。現状維持という事になります」
シルヴィアさんの報告に、シャルは、少し考え込む。
「う~ん……降雪量の増加は、本当に微量ずつだから、そこまで困った状態ではない。この調子で増えていくというのなら、問題になるのは……十数年後。それまでに、止める術を見つけなきゃってところかな。これは、父上とも共有しておこう。後は、ニヴルヘイムの被害を知っておきたいかな。騎士達に探らせているけど、調査範囲が広すぎるんだ。二人も、手伝ってくれる?」
そう言ってシャルは、私達のことを見る。
「良いよ。現状出来る事はないからやるよ」
「かしこまりました」
私とシルヴィアさんは、ニヴルヘイム本体の調査を終えて、周辺の被害調査を行う事になった。明日からは、平日なので、次の土曜日から調査を始める事になる。それまでに調査が終わる可能性もあると思ったけど、シャルは、そう思っていないみたいだ。
まだ、私にもやることがある。それなら、それをちゃんと全うするだけだ。
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翌日。学校に来た私は、日向達とまた報告会をしていた。
「持ち運びサイズの古代兵器で、幽霊特化のものかぁ……もう、その遺跡にはないんだよね?」
「そうですね。台座には何も置いていませんでした。ですので、その古代兵器と思わしき物は持ち去られた後と思われます」
舞歌は、少し不安そうな声でそう言った。よくよく見てみると、日向や大空も不安そうだ。
「こっちでも、ニヴルヘイムの資料が全て持ち出されていたんだ。それを考えると、他の場所でも同じ事が起こっている可能性を否定出来ない。だから、日向達のところにあった古代兵器も、ニヴルヘイムの資料を持っていった犯人と同じかもしれないよ」
「それが黒騎士って人の可能性があるんだっけ? その人が持っていったなら、安心出来るの?」
大空の質問に、私は小さく頷く。
「多分ね。私を狙って攻撃してきていたけど、あの人の言葉的に、古代兵器を悪用するって感じはしないと思う」
「じゃあ、その人が持ち出したなら、安心しても良いって感じだね。ただ、本当にその人が持っていっていたらだけど。さくちゃんは、これからどうするの? 私達は、お墓の地下に行くんだけど、合流する?」
報告も終わったので、今後の予定についての話に移った。
「するわけないでしょ。私、完全に戦力外だよ? それに、シャルから周辺の調査を頼まれてるから、まだ合流は出来ないかな」
「その古代兵器の被害状況を調べるって事? そんなの現地の人とかがやっているんじゃないの?」
「その情報を、より正確にするためにやる感じかな。その人達が調査したのは、少し前の事だから、何か変わっているかもしれないし」
「なるほどね。まぁ、統治する側からしたら、直近の情報の方が重要だろうしね」
「それじゃあ、もうしばらくは、別行動かぁ。ちょっと寂しいかも」
日向は、肩を落としてそう言った。
「別に、こっちでは平日に毎日会っているじゃん」
「もう! そういう事じゃないでしょ!?」
「えぇ……」
日向にとっては、こっちで会うのと向こうで会うのは、別カウントになるみたいだ。まぁ、会おうと思えば、王都とかで会えるんだけど、私にはやることがあるから、皆で集まる休日に予定を入れることは出来ない。日向がしたいのは、皆での冒険だから尚更無理だ。
「まぁ、またすぐに一緒に冒険出来るよ」
「約束だよ?」
「うん。約束」
また一緒に冒険する約束を日向としたところで、チャイムが鳴った。私達は、いつも通りの平日を過ごしていく。
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