第76話 騎士についての報告!!

 王城に戻ってきた私達は、この前、国王様と話した執務室に通された。


「よく無事に戻ってきてくれたのう」


 国王様は、開口一番そう言って労ってくれた。


「陛下、今回の捜索の成果ですが……」

「うむ、その様子だと芳しくはなかったようじゃのう」

「はい。現れた騎士が何者なのかは分かりませんでした。ですが、得たものはあります」


 シルヴィアさんはそう言うと、あの男が着ていた鎧の欠片を取り出して、テーブルに載せた。


「これは?」

「件の騎士の鎧の破片です。ここから、何か分かるかもしれません。今、研究班に解析を頼んでいます。それと、こちらはルナ様からお願いします」


 シルヴィアさんに促されて、アイテム欄の中にある取ってきた本の一部を取り出す。


「通常の言語で書かれたものもありますが、そのほとんどが古代言語で書かれていました」

「古代言語……メアリーゼを呼ぶのじゃ!」


 国王様は、傍にいた侍従に、メアリーさんを呼びに向かわせた。すると、五分もしない内に、メアリーさんが部屋にやって来た。


「お呼びでしょうか、父上」

「うむ。この本を訳してもらいたいのじゃ」


 メアリーさんは、私がテーブルに置いた本を持ち上げる。


「地底言語ですか」


 メアリーさんは、表紙の文字を見て、そう言った。その後、中身を読み始める。すると、少しずつ眉を寄せ始めた。


「どうかしました?」

「う~ん……これって、この状態のまま置いてあったのよね?」

「はい。そうです」


 メアリーさんは、パラパラと次々にページを捲っていく。


「この本、意味のない言葉が羅列されているだけだね。それに、地底言語だけじゃなくて、海洋言語や他の言語も混じってる」

「え?」


 私は、他の本を取り出して、中身を見ていく。すると、本当に海洋言語と他の言語が組み合わさっていた。


「単語自体の意味はちゃんとしてる……ってことは、アナグラム?」

「……なるほど。じゃあ、文字の組み替えが必要ってことね。でも、これは……天界言語も入っているね」

「解読には、どのくらい掛かるかのう?」

「……分かりません。冊数にもよりますが、月単位か、年単位になる可能性が高いかと。ルナちゃん、どのくらいの本を持ってきたの?」

「えっと……」


 私はアイテム欄から、あそこから持ってきた本を全て取り出した。


「……私のところにいる研究員を総動員することにします。それでも、かなりの時間が掛かるかと」

「では、それまで待つしかないのう。すまぬが、結果が出るまでの間は、ルナも待っていてくれるかのう?」

「はい。大丈夫です。私は、解読出来ませんから。そのためには、また教えてもらう必要がありますし」


 私のスキルでは、海洋言語しか解読出来ない。その他言語も混じっているこの本を解読するのは、厳しいかもしれない。


「それなら、教えてあげるよ。少し手伝ってくれると助かるから」

「ご迷惑でないなら、お願いします」


 この本については、私にも関係するような何かがあるはず。全てを任せきりにするのは、少し失礼かもしれない。だから、別の言語を教えてくれるというのなら、甘える方が良いと判断した。


「これで、件の騎士の素性が分かるとよいのじゃが……」

「すみません。私が不用意に、本を持ち出したから、素性に直接繋がるようなものも吹き飛ばしてしまって……」

「よいのじゃ。なってしまった事は仕方ない。今は、自分達に出来る事をするのが一番じゃ」

「ありがとうございます」


 私のせいで、あの男のねぐらみたいなところが消し飛んだ。でも、国王様は、そのことを責めるようなことはしなかった。これが、国民から愛される理由なのかもしれない。


「件の騎士の強さはどうじゃった?」


 国王様の視線がシルヴィアさんに移る。


「私と互角でした。しかし、あの鎧を脱いだ方が、恐らく強いかと思います」

「次に相まみえたら、勝てないということかのう?」

「私は、そう感じました。もしかすると、あの鎧は拘束具のような役割も果たしていたのかもしれません」

「それも、調査を待つしかないのう……」


 あの鎧と本の調査を待つしかない状態ということだ。


「とにかく、今回の捜索、ご苦労じゃった。それぞれに褒美を取らせるつもりなのじゃが、ルナは何が欲しいものはあるかのう?」

「欲しいものですか?」


 少し考えてみるけど、何も思いつかない。妥当にいけば、お金になるのかな。でも、せっかく国王様からの褒美だから、特別な何かを要求したくもある。


「思いつかないので、保留でも良いですか?」

「欲がないのう。何か思いつけば、すぐに言うのじゃぞ?」

「はい。分かりました」

「うむ。では、解散としよう」

「じゃあ、ルナちゃんは、私に付いてきて」

「はい」


 私とシルヴィアさん、メアリーさんは、部屋の外に出ていった。


「では、私は姫様の元に戻りますので、ここで失礼します。ルナ様、お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」


 シルヴィアさんとはここで別れて、メアリーさんと私の二人だけになる。


「今から行く場所は、私の仕事場なんだ」

「シャルと同じ、執務室って事ですか?」

「う~ん、シャルのとは違うかな。私は、古文書とかの古い資料の解析とかを主にしているからね。だから、古代言語にも精通しているんだよ」

「それでも天界言語は、解読出来ないんですね?」


 それだけ古代言語に触れているなら、天界言語も解読出来そうなものだけど。


「参考になる資料が、この国に一つしかないからね。解読は、全く進まないんだ」


 確か、王城にある一冊しか、天界言語の本がないんだよね。この前、メアリーさんも言っていた。


「私が見つけた天界言語の本は使えますか?」


 私はアイテム欄から、遺跡で見つけた本を取り出す。


「図書館で見せてくれたやつだね。預からせてもらっても大丈夫?」

「私も読めませんし、メアリーさんに預かってもらった方が、腐らせずに済むと思います」

「じゃあ、解読出来たら、天界言語を教えるね」

「はい。ありがとうございます」


 そんな話をしているうちに、メアリーさんの執務室に着いた。


「じゃあ、入って」

「失礼します」


 中に入ると、そこはシャルの執務室とは全く違う部屋だった。まず、広さが倍以上ある。それに、四方を囲む壁の全てに、本棚が設置されている。その本棚に収まりきらない本が、複数の木箱の中で塔を作っていた。


「散らかってるけど、気にしないで。これでも、ちゃんとどこに何があるのかを把握しているから」

「そうなんですね」


 この部屋の中だけで、千冊以上あるんじゃないかって量の本がどこにあるかわかるって、本当にすごいと思う。


「じゃあ、この木箱の中に入れておいてくれる?」


 メアリーさんは、空の木箱を持ってきた。私はその中に、あの場所で手に入れた本を全て入れていく。結局、木箱三個分必要になった。


「かなりの量だね。これは、頑張らないと」


 想像以上の量に、メアリーさんも苦笑いになっていた。


「じゃあ、暇があったら、この部屋に来て。そうしたら、古代言語を教えてあげるから」

「分かりました。今日のところは、これで失礼しますね。また、今度来ます」

「うん。楽しみに待ってる」


 私はメアリーさんと別れて、王都の噴水広場でログアウトした。

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