第75話 どういうこと!?

 鎧を砕かれた黒騎士の素顔は、黒い短髪と黒い眼をしていた。なんとなく日本人に近いものを感じる。いつもそうなのか分からないけど、その顔は少し怒っているようにも見える。


「喋れるの……?」

「ああ、今までは、この装備があったからな」


 黒騎士が、地面に転がっている兜の破片を軽く蹴る。


「この装備は、持ち主の意志を封じて、特定の敵を襲うという力がある」


 黒騎士は、そう説明した。でも、重要な事が分かっていない。


「それが私を襲った理由? 特定の敵って何?」


 私は、黒騎士にそう訊いた。黒騎士の説明が本当の事なら、私は、その特定の敵という分類にされていたということ。私にその自覚は一切ない。その答えは聞いておきたい。


「『     』だ」

「え?」


 重要な部分が聞こえない。口は動いているし、音になっているはずなんだけど、ノイズのようになって聞こえなくなっている。


「『     』……どうやら、聞こえていないようだな」

「シルヴィアさんは、分かりましたか?」

「いいえ、私にも聞き取れませんでした」


 どうやら、私だけでなくてシルヴィアさん達も聞こえていないみたいだ。他の兵士の方々も首を傾げたり、怪訝そうな顔をしていた。黒騎士は、少し眉間に皺を寄せた。


「まぁいい。この理由は、自ずと分かるだろう。お前自身が、この世界を知っていけばな」

「どういうこと!?」


 意味が分からず、声を荒げてしまう。この人の言っている事は、何だか重要な気がする。特に、私のこれからに関わってくるような……


「……お前一人で、この先に向かえ。それで分からないなら、世界を回れ。それが、答えを得るための近道となるだろう」

「何を……言ってるの……?」

「全てを知れば、俺が取っていた行動の意味も分かるだろう。いいな、一人で向かえ」

「何なの!? あなたは何を知ってるの!?」


 黒騎士は、それ以上何も言わずに、その場から消えていった。


(……意味が分からない。黒騎士は、何を知っているの……? それを知るには、この先に向かわないと)


 結局、あの黒騎士の言うとおりに行動しないといけないみたい。


「ルナ様」

「取りあえず、あの男の指示に従ってみます」

「お一人で行くおつもりですか?」

「はい。何があるかわかりませんから。もしかしたら、複数人で行ったら、何か罠が発動するのかもしれませんし」


 私がそう言うと、シルヴィアさんは少しだけ眉を寄せる。私を本当に一人で行かせて良いものか考えているみたいだ。


「……分かりました。では、この場でお待ちしています。どうか、ご無事で」


 納得してくれたみたい。


「はい。じゃあ、行ってきます」


 私はシルヴィアさん達と一時的に別れて、黒騎士が塞いでいた道を進んで行った。その最中に、色々と考える。


「あの黒騎士の言っている事は、ゲームっぽくない……いや、こういうゲームって言われてしまえば、そうなるかな。黒騎士の言っていた、この世界を知っていけばって……それは、ゲームの世界の事? ゲームの世界を知れってどういうことなんだろう。世界観を理解しろって事……いや、ゲーム内のNPCが言った言葉にしては、何かおかしい。つまり、この世界に何かしらの秘密が隠されてるって事なのかな?」


 色々と違和感のようなものを感じる。ゲームの内容の内だと言われてしまえば、納得できなくもないけど、それにしても変だ。あの私に理解出来ない言葉にしても違和感がある。プレイヤーに与える情報を規制させているのなら納得できるけど、あれはシルヴィアさんにも聞こえない言葉だった。私は、あの人の口から発せられる事を規制させているように感じている。何かしらの事柄に通じてしまうような意味を含んだ言葉を規制されているって事だと思っている。


「やっぱり、あの人は、この世界の人間じゃないのかな……」


 そうこうしているうちに、石で出来た建築物が現れてきた。森の中にあって違和感を感じないデザインだった。


「これが、地図にもある場所か……あれ? でも、あの黒騎士が守っていたなら、この地図ってどうやって書かれたんだろう……まぁ、いいか」


 若干気になるけど、今は気にしている暇はないから置いておく事にした。


「中に入ればいいのかな。というか、あの男は、どこに行ったんだろう。どうせなら、ここで待っていればいいのに……」

「呼んだか?」

「わぁ!?」


 少しぼやいていたら、いきなり横に黒騎士が現れた。本当にいきなり現れたので、かなり驚いた。


「何で、ここにいるの!?」

「一つだけ、確認したいことがある」

「何……?」


 念のため、黒闇天に手を掛けておく。


「今は、何年だ?」

「へ?」

「今は、何年だ?」


 私は、今の西暦を答える。


「三百年か……」

「これがどうかしたの?」

「今のお前には、関係のないことだ」


 男はそう言って、また消えていった。


「ちょっ!? 待って!?」


 私の言葉は、空に響いていくだけだった。


「はぁ……まぁ、いいや」


 私は直接話を訊くことを諦めて、建物の中に入っていく。建物の中に入ってすぐにあったのは、下り階段だった。


「…………」


 黒闇天を抜いて、慎重に下っていく。聞き耳と気配感知で最大限の索敵を行う。でも、どちらも何も捉えない。階段を下りきると、そこにあったのは、大量の書物だった。


「これを読んで、理解しろって事?」


 黒闇天を手に握ったまま、背表紙を確認した。一応読めるものもあるけど、そのほとんどが読めない書物だった。


「私の知らない言語……全部古代言語なのかな……」


 読める書物は、どれも見た事のあるものばかりだった。でも、その種類は統一されている。


「スキルについての本が多い? じゃあ、秘密ってスキルのこと? でも……」


 手に取って中身を読んでみるけど、ただ単にスキルについて書いてあるだけだ。それも、図書館にあるようなものばかりだ。


「海洋言語の本はないのかな?」


 地下空間はかなり大きいので、警戒をしながら奥に進んで行く。その間にも読める本はあるかどうかを確認していった。けど、そのほとんどが読めない。


「結局これって、どこの言語なんだろう? もしかして、天界言語?」


 私はアイテム欄から、遺跡から持ってきた本を取り出す。そして、書かれている文字を並んでいる本と見比べる。


「……同じ文字がある? つまり、ここにあるのは天界言語ってことかな……結局、私には読めないじゃん!!!」


 天界言語は、私には読めない。それどころか、アーニャさんにもメアリーさんにも読めない言語だ。この世界に読める人がいるかどうか自体怪しい。


「他にも、別の言語がある。他の古代言語かな。これは、メアリーさんに頼んで教えてもらった方が良さそう」


 色々と考えつつ、最奥まで進んで行った。そこには、一対の机と椅子が置いてあった。その上には、インク瓶や紙などが置かれている。


「これは……」


 そこに書かれていた言語は、だった。


『この世界は………向こうとの連絡…………絶対に阻止する』


 読めるのは、三つの言葉だけだった。他は、黒く塗りつぶされている。紙の隣で倒れているインク瓶のせいだろう。


「何かを阻止しようとしている? 何の事なんだろう?」


 どうにかして、読めないかと模索してみたけど、何も無かった。この紙の下に、他の紙とかが挟まっていれば、黒炭で擦れば分かる可能性もあったけど、下にあったのは下敷きだけだった。


「でも、これではっきりした。あの男の人は日本人……プレイヤーだ。だけど……」


 一つ解決したと思えば、また謎が深まってしまう。


「いつからログインしていたんだろう。それに、勝手消えるし……」


 少し頭がパンクしてきた。今は考える事をやめて、シルヴィアさんのところに戻ろう。私は、ここにある書物を全てアイテム欄に押し込む。そして、外に出ようと階段に足を掛けると、背後で大きな魔法陣が浮かんだ。


「……やばっ」


 私は、全力で階段を駆け上る。そして、私が階段を上り終えて、外に二、三歩出た瞬間、背後で大爆発を起こした。


「きゃっ!!」


 背中を爆風に押されて、森の中に突っ込んでいく。空中で身体を前転させて、足から着地する。


「あぶな……情報を渡したいなら、トラップを解除しておいてよ!!」


 ギリギリのところで生き残った。


「はぁ……取りあえず、シルヴィアさんに合流しよう」


 私は、シルヴィアさんが待っている場所に向かう。シルヴィアさんと別れた場所まで戻ってくると、シルヴィアさんが駆け寄ってきた。


「ルナ様! ご無事ですか!?」

「大丈夫ですよ」


 シルヴィアさんは、私の肩を掴んで全身をくまなく確認する。私が一切怪我を負っていない事を確認し終えると、ホッと息を吐いた。確かに、私が向かった場所から大爆発が起きたら、心配するよね。


「色々な収穫物はありました。もう、ここに用はないと思います」

「分かりました。王都に戻り、陛下に報告致しましょう」


 黒騎士捜索を終えた私達は、王都に戻っていった。そして、国王様に報告するべく、王城に向かうことになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る