第74話 黒騎士との再戦!!
黒騎士捜索が行われる土曜日。ヘルメスの館で装備を修理してもらった私は、王都の外に向かった。そこには、沢山の騎士の人達が集まっていた。
「想像以上に人が多い……国王様は、本当にかき集めてくれたんだね」
今回の作戦には、沢山の人員を動員すると聞いていたけど、予想を遙かに超える数だった。森の中をしらみつぶしに探すので、数が必要になる作戦ではあるんだけどね。
「ルナ様、こちらです」
人混みの中を歩いていると、正面からシルヴィアさんが手を振っているのが見えた。私は、急いで、シルヴィアさんの元に駆けていった。
「こんにちは、シルヴィアさん」
「こんにちは。予定通りにお越し下さったようで助かります。後、少ししたら、出発となりますので、装備の確認などを済ませておいて下さい」
「分かりました」
私は、黒闇天の状態を確かめる。アーニャさんが直してくれたから、黒騎士と戦う前と、同じ状態だ。防具の夜烏や黒羽織も元通りだ。これらを受け取る時に、アーニャさんから、多少の強化をしておいたと言われたけど、見た目には現れていない。多分、強度が上がっているんだと思う。
「そういえば、シャルは、ここにいないんですね?」
武器と防具、弾薬などの確認をしながら、シルヴィアさんに訊いた。シャルの事だから、ここにいていてもおかしくないかなって思ってたんだけど。
「さすがに、ここまではお連れしません。今回の戦いは、死者が出る可能性が高いので」
「私が、一人で行くんでもよかったですよ? 私は死んでも問題ないですし」
「これは、この国の問題でもありますから、ルナ様にだけ任せるわけにもいきません」
国王様と話し合ったときも言ったんだけど、ここは譲られる事はなかった。私に協力してもらうのいいけど、私だけに任せるのは、違うと言われた。
「本当に、ルナ様だけに牙を剥くのかも分かりません。それを確かめるという意味でも、私達がいる必要があります。陛下もただ兵士を犠牲にしようなどと考えているわけではありません」
「シルヴィアさんがいますからね」
「はい。伊達に、王国最強とは言われていませんから」
やっぱり、シルヴィアさんがいると、すごく頼もしい。それから、十分くらい経った頃に、私を含めた捜索隊が、出発した。
私とシルヴィアさんを先頭にして、他の兵士の皆さんが横広がりに森を歩いていく。今のところ気配感知に、黒騎士の反応はない。
他のモンスターの区別はつかないけど、黒騎士のあの異常な気配は、今も覚えている。だから、反応に引っかかったらすぐに分かるはず。
黒騎士以外のモンスターの反応があっても、他の兵士の方々が処理をしていた。私とシルヴィアさんは、黒騎士に対抗出来る存在なので、なるべく戦わないようにとの指示がされている。
「まだ、反応はありませんか?」
「はい。今のところはありません」
「私は、件の騎士の気配を知らないので、ルナ様が探るしかありません。見つけたら、すぐに報告を」
「分かりました」
それからしばらくの間、森の中を歩き続けた。すると、気配感知に反応があった。
「いました! ここから、二時の方向にいます!」
「全員止まりなさい!!」
私が、シルヴィアさんに報告すると、シルヴィアさんが兵士を止めた。
「向こうに動きはありますか?」
「えっと……動きました! こっちに来ます!」
「警戒体勢!!」
兵士の方々が、剣を抜き放つ。私も黒闇天を取り出した。ここで、シルヴィアさんも異様な気配に気が付いたみたい。険しい顔で、黒騎士がいる方向を睨んだ。
黒騎士の姿が、私達に見えた瞬間、私の目の前に黒騎士の剣が迫った。身体を捻って避けようとしたけど、その必要はなかった。剣が私に当たる前に、シルヴィアさんが受け止めた。
「確かに問答無用のようですね」
シルヴィアさんが、その膂力で黒騎士を弾き飛ばす。そこで、ようやく黒騎士の姿を、ちゃんと見ることが出来た。黒騎士の鎧に、私が付けた大きな罅が入ったままだった。
「ダメージは継続……違う。鎧を修理する事が出来ないんだ」
「つまり、あれはモンスターでない可能性が高いですね」
黒騎士は、こちらを警戒して踏み込んでこない。この前は私だけだったけど、今回はシルヴィアさん達がいる。踏み込んでこないのは、これが大きな要因かな?
「銃技『一斉射撃』!!」
離れた位置にいる内に、爆破弾を撃ち込む。黒騎士は、この前と同じように、全てを斬っていった。
「剣の腕は落ちてません。ですが、鎧以外のダメージは、回復してるのかもです」
「なるほど。あの鎧の傷は、ルナ様によるものですね?」
「はい」
「もう一度、その一撃を放つことは出来ますか?」
「その場合、黒闇天が使えなくなります」
「なるほど……」
黒騎士の鎧に罅を入れたのは、零距離射撃と一斉射撃と爆破弾の組み合わせ一撃だ。でも、それをしてしまえば、黒闇天が使えなくなってしまう。
「なら、地道に破壊します」
今度は、シルヴィアさんが一瞬で黒騎士の傍まで移動した。シルヴィアさんの高速の突きを、黒騎士は剣の腹を沿わせることで、避けた。
「銃技『精密射撃』」
シルヴィアさんの攻撃に合わせて、氷結弾を放つ。シルヴィアさんの攻撃を受け流している今の黒騎士に防ぐ術を持ち合わせていない。鎧の罅に氷結弾が命中する。今までは、それでも動きが止まる事なんてなかったけど、今回の攻撃は、黒騎士を止めることが出来た。どうやら氷結弾の効果が、罅から鎧の中に及んでいるみたい。
背後に抜けたシルヴィアさんが、黒騎士の首目掛けて、剣を薙ぎ払う。通常なら、これで全て終わりのはずなんだけど、予想通り、そんな事にはならなかった。
「……!!」
黒騎士は、鎧が砕けるのを構わず、身体を回して、シルヴィアさんの剣を、自分の剣で受け止める。鎧が剥がれて、中身が現れた。砕けたのは、胴体部分だけなので、他は守られたままだった。中身は、服の上からでも分かる程の筋骨隆々の身体だった。それは人間のものにしか見えない。
鎧の一部がなくなったためなのか、黒騎士の剣の速度が上がった。でも、シルヴィアさんの攻撃の速度が元々速いので、普通に対応している。他の兵士達は、見守るしか出来ていない。一般の兵士達では、シルヴィアさんの攻防に入り込むことが出来ないみたい。それだけ、二人の戦闘力が他の兵士達とかけ離れているという事だと思う。
私は、銃撃での援護なので、他の兵士達よりも合わせやすい。
「銃技『精密射撃』」
私は、ホローポイント弾を鎧が無くなった胴体部分に向けて撃つ。しかし、黒騎士は、シルヴィアさんとの攻防を続けながら、私の撃った弾を弾いた。
「剣の速度が上がってるから、これでも通用しなくなってる!?」
私は、シルヴィアさんの攻撃に合わせて、黒闇天を放っていくけど、どれも防がれてしまう。
「なら、『夜烏』!!」
私の放った夜烏は、黒騎士に向かって飛んでいく。私が夜烏を放ったことに気が付いたシルヴィアさんは、より攻撃の速度を上げて、黒騎士をその場に釘付けにする。
黒騎士は、夜烏による攻撃を避ける事が出来ずに、背中から命中する。夜烏のオーラが、黒騎士全体に広がる。しかし、何も変わったように見えない。多分、防御力が弱まっているんだと思う。でも、二人の攻撃は、相手に命中しないから、あまり意味がない。
シルヴィアさんと黒騎士の攻防は、互角のまま加速していった。その結果、二人の攻防に、私も介入出来なくなっていた。
(どうしよう……このままだと、この戦いはずっと平行線だ……)
そんな風に思っていると、シルヴィアさんがちらっと私の方を見た。その眼は、私に何かを訴えかけている感じがする。
(何が言いたいのか、正直ちゃんとは分からないけど、多分……)
私はフードを被って、シルヴィアさん達の方に接近する。完全にシルヴィアさんの影に隠れるように移動していく。そして、シルヴィアさんが、黒騎士の一撃を大きく弾いて、少し身体を横にずらした。そこに潜り込む。
「体術『衝波』!」
黒騎士の鳩尾に掌底をぶち込む。その衝撃が、黒騎士の背中まで抜けていった。身体がくの字に曲がる。
「体術『円月』!」
さらに、大きく回した回し蹴りが、黒騎士の頭を打ち抜く。防御力が下がっているからか、この前よりも深く決まったような気がする。黒騎士の兜に罅が入る。そこに黒闇天で、爆破弾を撃ち込む。その衝撃で、兜を完全に砕くことが出来た。黒騎士は、そのまま少し離れた場所に吹っ飛ぶ。
そこで、初めて黒騎士の素顔を見る事が出来た。兜に隠された顔は、当然、全く見た事が無かった。
「まさか、これを砕く者が現れるとはな……」
黒騎士は、初めて声を発する。そして、その眼光は、完全に私に向かっていた。まだ、戦いは終わっていないのかもしれない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます