第73話 調べもの!!
次の日、学校から帰った後、私はシャングリラの王立図書館に来ていた。シャルからもらった王家の指輪を見せて中に入る。知りたい情報は、モンスターの分布なので、禁書庫に入る必要はないはず。
メアリーさんが、見たら死ぬかもしれない本があるって言ってたから、入らないにこしたことはないと思う。
「えっと、何処にあるかな?」
天井にぶら下がっている案内用の看板を見て、目的の本が分類されている場所を見つける。
「え~っと……」
その中から、私の知りたい黒騎士についての情報が載っているであろう本を探した。見つけた本を片っ端から読んでいくけど、黒騎士についての情報はどこにも載っていない。
「?」
分かった事は、王都周辺のモンスターの中に、黒騎士みたいなモンスターは、一体たりともいない。
「う~ん、どういうこと? あれは、モンスターじゃないって事で良いのかな? じゃあ、やっぱり話の通用しない人って事?」
モンスターの分布関連書籍を読んだけど、答えが載っているものは無かった。
「ちょっと訊いてみよ」
私は、黒騎士に関する本がないかどうかを訊くために、受付のお姉さんのところに向かった。
「すみません」
「は、はい! 何でしょうか!?」
お姉さんは、相変わらずガチガチに緊張していた。王族関係者って認識になっているから、仕方ないことかもしれないけど。
「あの、私がシャルの関係者だからって、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ? もっと気楽に接して下さい」
「そ、そうですか? わ、分かりました。それで、どうしましたか?」
お姉さんの緊張が少し和らいだみたい。よかった。あんなに緊張されていたら、こっちも何か悪い気持ちになっちゃうもの。
「黒い騎士について載っている本って、どのくらいありますか?」
「黒い騎士ですか? 色々とありますけど……」
「じゃあ、王都周辺の黒い騎士についての本は?」
「王都周辺ですか……? う~ん、確か、絵本か童話の中にあったはずです。少々お待ち下さい」
お姉さんは、受付から離れて本棚の方に向かった。そして、ものの五分で、帰ってきた。
「この二冊に載っています。持ち出しは厳禁なので、館内でご覧ください」
「分かりました」
受け取った本二冊を持って、中央のテーブルに着いた。
「う~ん、役に立つかな?」
少し不安になりながらも、絵本から読んでいく。『黒騎士の伝説』という題名だ。内容的には、どこからともなく現れた黒い鎧を着た騎士が、国のために戦い続けたという内容だ。そして、黒騎士には、何人かの仲間がいたみたい。童話の方も、似たような題名と内容だった。
どちらも最後には、黒騎士達は、急に消え去ったと書かれていた。
「英雄みたいな存在だったのかな? でも、急に消え去ったって……」
本当に唐突に消え去ったみたい。何の前触れも無しにその姿を確認できなくなったらしい。
(もしかして、ログアウトした……?)
突拍子もない考えだけど、なんとなく腑に落ちる部分もあった。黒い騎士達は、話の中で何度も、行方不明になっている。『気が付いたら、その場からいなくなっていた』や『いつの間にか、別の街に移動していた』など、なんとなくプレイヤーのような行動をしているように見受けられた。
「考えすぎだよね……」
あれがプレイヤーのはずがない。なぜなら、この本に書かれている事は、この世界のかなり昔の話のはずだからだ。
「この世界の昔……?」
今考えた事が、頭の中で巡っていく。この世界の昔って事は、ユートピア・ワールドのリリース前、ベータ版、アルファ版での世界って事……?
「それで考えれば……あれは、昔のプレイヤーって事? いた、過去のアバターを続けて使っているって事だ。あれ? でも、スキルはどうなるんだろう? あの反応は、気配感知を持っていないとおかしい。でも、あれを最初に手にしたプレイヤーは、私って事になっている……」
色々と混乱してくる。プレイヤーとNPCで、スキル取得順は関係ないはず。だって、私達よりも長くこのゲームの中にいるのに、私達が最初の修得者というのはおかしくなるから。
「ベータ版とかも同じような区分けになってる? だから、あの騎士は気配感知を既に持っているって感じ? でも、あの騎士の正体がプレイヤーだったとして、話し合いに応じない理由は? プレイヤーキラー? でも、あんな騎士の話、掲示板とかに載ってなかった。あんな理不尽な強さなら、掲示板に誰かが愚痴っていそうだけど……いや、ベータ版をプレイしていたんだとしたら、王都周辺にいてもおかしくないかな……でも、あそこで何を? あそこの空き地を守ってた? 何で?」
色々な考えが湧き上がってくるけど、どれも確証がない。答えのない考えばかりが、ぐるぐると頭の中を回っていく。
「う~ん、アーニャさん達が何か知ってそうだけど、何も教えてはくれないよね」
アーニャさんは、何かと秘密にしているので、これについて質問しても無駄な気がする。
「でも、これについて知っているなら、アーニャさんって何者……?」
アーニャさんについての疑問が増えてしまった。でも、それを確認する方法はない。
結局、黒い騎士についての情報は、曖昧なものばかりだった。それに、色々な疑問が生まれてしまった。せっかく情報を仕入れようとしていたのに、何もかもがよく分からなくなった。
────────────────────────
次の日の放課後、今度は、王城の中にいた。こっちも指輪を見せたら、普通に入れた。念のため、持ち物検査を受けたけど。
「取りあえず、シャルのところに行ってみよう」
私は、この前行ったシャルの執務室に向かった。きちんと、道を覚えていてよかった。得に道に迷うことなく、執務室の近くまで来ることが出来た。扉をノックしようとするのと、扉が開くのが同時だった。
「ルナ様?」
「こんばんは、シルヴィアさん。ちょっと、シャルに訊きたいことがあって来ちゃいました」
「そうでしたか。では、丁度よかったです。どうぞ、中にお入り下さい」
「ありがとうございます」
中に入ると、仕事を終えたらしいシャルが伸びをしていた。
「ルナ? どうしたの?」
「ちょっと、訊きたいことがあってね。時間大丈夫?」
「大丈夫だよ。そこに座って」
この前、皆で喋った席に座る。正面に、シャルが座った。シルヴィアさんは、お茶を淹れて持ってきてくれた。そして、シャルの隣に立つ。
「それで、どうしたの?」
「シャルは、黒い鎧を着た騎士って知っている?」
「!!」
驚いたのか、シャルの眼が少し開く。
「どういうこと?」
「この前、すぐに近くの森で、黒い騎士に会ったんだ」
「その見た目を書ける?」
シャルが、シルヴィアさんに目配せすると、シルヴィアさんが羽ペンと紙を取ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
シルヴィアさんから筆記用具をもらって、黒い騎士の見た目を描く。そこまで絵がうまいわけじゃないから、少し恥ずかしい。
「はい」
「…………シルヴィア、どう思う?」
「確証はありませんが、言い伝え通りの姿かと」
「?」
二人が何を言っているのか分からずに、首を傾げる。
「あっ、ごめん。実はね、この王国に伝わる話があるんだ」
「もしかして、黒騎士の伝説?」
「そう。知ってたんだ。ルナが、描いたこの騎士の姿は、その黒騎士そのものの姿なんだ」
「でも、その黒騎士がいたのは、かなり昔の話なんでしょ?」
あの本を読んだ限り、直近の過去の話ではないはず。
「うん。でも、何度か目撃証言があるんだ」
「それも、私達が生まれる前からなのです。つまり、何百年も生きている存在と言えるかと」
「そうなんですか……ん? その報告って、異界人から?」
少し疑問に思ったから、シャルに訊いてみた。私は、プレイヤーだから、死んでも復活してこうやって話せるけど、NPCだったら、絶対に無理なはず。だって、殺されてしまうんだから。
「ううん。兵士とか冒険者とか、色々だよ。寧ろ、異界人からの報告って、ルナが初めてかもしれないね」
「え? じゃあ、報告してきた人は、すごく強い人?」
「ううん。一般兵とかもいるから、そんな事もないと思うよ」
「じゃあ、すごく大怪我してた?」
「それもないかな」
私は、シャルの言葉に、頭を悩ませる。どう考えても、私が遭遇した黒騎士とは違う感じがしてしまうからだ。でも、見た目の特徴が一致してしまっている以上、黒騎士ということは間違いないようにも思える。
「私、その騎士に襲われて、死んでるんだよね」
「「!?」」
シャルとシルヴィアさんが、さっき以上に驚く。
「どういうこと!? そんな報告一度も受けたことないはずだよ! 王城にある記録にも残ってる!」
「そうですね。私も聞いた事はありません。ルナ様、具体的にどこら辺かは分かりますか?」
「えっと……」
私は、王都周辺の地図を取り出して、黒騎士と戦った場所と思える場所を指さす。
「ここら辺です」
「騎士団を動かせるかな?」
「まずは、陛下へ報告する方がいいでしょう」
「そうだった。ルナは、案内出来る?」
「出来るけど」
「じゃあ、ルナとも話し合う必要があるね。すぐに、行動しよう。行くよ、ルナ」
シャルに連れられて、国王様の元に向かった。
「父上! 失礼します!」
「シャル……せめてノックを忘れないようにしておくれ」
「そのような事よりも、重要な事態が起きています。ルナを交えて報告をさせてください」
シャルが真剣な顔で、国王様に向けてそう言った。国王様は、一瞬だけ怪訝な顔をしたけど、すぐに真面目な顔になった。
「ふむ、聞こう」
国王様が話を聞く態勢になった。傍で仕事を手伝っていたメイドさんや執事さん達を手振りで部屋から出す。
「それに座ると良い」
国王様は、近くにあった椅子を指さす。すると、シルヴィアさんが素早く動いて、二脚の椅子を私とシャルの後ろに配置する。シャルは、平然とその椅子に座った。私は、シルヴィアさんと国王様に一礼しつつ、椅子に座る。シルヴィアさんは、私達の後ろに立ったままだ。
「それで、話とはなんじゃ?」
「ルナが、黒騎士と接触したらしいのです」
「ふむ、それは幸運な事じゃのう」
「幸運?」
私は、幸運とは正反対の仕打ちを受けていたので、首を傾げる。
「うむ。姿を消した英雄の姿を見れたということで、世間では幸運の象徴とも言われておる」
その理由なら納得出来る。でも、尚更謎が深まる。
「ルナは、その黒騎士に殺されたそうです」
「なんじゃと!?」
国王様は、腰を浮かせて驚愕の表情になっていた。それだけ衝撃的な事なんだと思う。
「ルナ、それは本当の事か?」
「はい。こちらの呼び掛けには答えず、問答無用で斬り掛かってきました。なんとか応戦しましたが、相手の鎧に罅を与えただけで殺されてしまいました」
「ふむ……」
国王様は、顎に手を当てて考え込み始めた。
「ルナが異界人である事が理由なのだとすれば、民に被害は出ぬだろうが……」
「向こうの考え方が変わっていたとしたら、民に被害が出る可能性もあります」
シャルの進言に国王様が頷く。
「今すぐに動かす事が出来る騎士団はおらぬ。一応、王都内の兵を集めてみよう。ルナ、空いている日はあるかのう?」
「えっと、次の土曜なら空いています」
「うむ。その日までに、準備を進めておくとする。シルヴィア、主も同行せよ」
「はっ!」
何だか、とんとん拍子に話が進んでいる。
「あの、私一人で捜索するのでも良いですよ? 私は死んでも問題はありませんし」
「それは、ダメじゃ。この国の民に関わる可能性がある以上、我々も動かねばならぬ。ルナに協力してもらうのと、頼り切りになるのは違う事じゃ」
私一人でも大丈夫だと思うということを伝えると、国王様は首を振ってそう言った。言いたいことは分かるので、これ以上は何も言えない。
話し合いの結果、次の土曜日に、黒騎士捜索が行われることが決まった。今回の事態で、民に被害が出ると困るためだった。
私もその中に組み込まれている。欲を言えば、ソルやシエルなども呼びたかったけど、王都まで来ること自体が難しいので、断念せざるを得なかった。
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