第72話 黒い騎士!!

 黒騎士は、また一瞬で接近してきた。斜め下から剣が振り上げられようとしている。


「……!!」


 黒闇天を剣に向けて、発砲する。念のためと思って、氷結弾を入れておいたのが功を奏した。剣に当たった氷結弾は、黒騎士の剣を凍らした。その範囲は、地面にまで達している。しかし、剣は、一瞬止まっただけで、氷を突き破ってきた。その一瞬のおかげで、ギリギリのところで避けることが出来た。


「危なっ!!」


 すぐに、バックステップを踏む。


「止まれ!!」


 今度は、黒騎士の身体に向かって氷結弾を撃つ。全部で四発撃ち、その全てが鎧に命中した。黒騎士は、完全に凍り付く。さっきの黒獅子は、これで倒す事が出来た。でも、黒騎士の気配は途切れていない。つまり、まだ生きているということだ。


「リロード術『クイック・リロード』」


 黒闇天の中身を爆破弾に、素早く入れ替える。凍った状態の今なら、そのまま砕けるかもしれない。


「くらえ!!」


 私が爆破弾を放つと同時に、氷が砕かれて、黒騎士が動き出す。黒騎士は、閃く速度で剣を操作し、爆破弾を斬り裂いた。斬り裂いた瞬間に、爆発が起こる。その爆炎をくぐり抜けながら、黒騎士が接近してきた。


「あり得ないでしょ!?」


 私は地面に爆破弾を撃ち、進路を妨害する。黒騎士は、それを意に介さず、突っ込んできた。


「化け物なの!?」


 黒騎士が剣で薙ぎ払おうとしてくる。すぐに黒影を抜いて、剣を受け止める。しかし、当たり前だけど黒騎士の膂力の方が強い。受け止めきれず、そのまま吹き飛ばされる。だけど、それを狙っていた。

 身体を捻って、脚から着地し、そのままバックステップを踏んでいく。そして、その間に黒闇天のリロードを済ませる。込める弾は、氷結弾。爆破弾が通用しないから仕方ない。黒騎士は、すぐにこっちに詰めてくる。


 その進路の撃ち込んで、氷の壁を作り出す。それすらも、一刀両断してくる。


(どう考えても、逃げ切ることは不可能だよね。それに、このまま逃げようとしたら王都にこいつを連れて行くことになっちゃう。それだけは、避けないと……)


 キープしていた氷結弾を惜しまずに使う事にした。逃げ切るよりも倒す事を優先する。


「銃技『一斉射撃』!!」


 十発の氷結弾を一気に撃ち出す。黒騎士の身体が凍り付く。凍り付くから、魔法無効ってわけではないと思う。爆破が効かないのは、鎧の強度のせいとみた方が良さそう。


(なら、その強みを削る!!)


 私は、黒闇天を黒騎士に向ける。


「『夜烏』!!」


 私が放った夜烏が、氷を砕いた黒騎士に向かっていく。黒騎士は、いとも容易く夜烏を斬り裂く。夜烏のオーラが、剣に纏わり付いた。


「攻撃力ダウンか……」


 夜烏が纏わり付いたのが剣なので、攻撃力の方が秀でているみたい。攻撃力に秀でていて、あのダメージで済んでいるということは、黒羽織と夜烏の硬化は、意味がなかったわけじゃなさそうだ。ただ、私の狙い通りに防御力を下げることは出来なかった。

 本当は、連続で夜烏を撃ちたいんだけど、アダマン・タートルの時に撃ったら、身体の力が全て抜けてしまった事から、連続撃ちは避けている。今、ここで、力が抜けたら、速攻で倒されてしまうしね。


「銃技『一斉射撃』!」


 今度は、爆破弾を一斉に撃ち出す。黒騎士は、再び弾を斬ろうとしていたけど、夜烏のせいで先程までの速さで動かすことが出来ないみたい。十発中六発が鎧に命中した。直接鎧に当たったため、黒騎士が後ろに後退する。それでも鎧に傷などは付かなかった。

 さっきは、剣で斬って、爆破の衝撃を受け流していたのかもしれない。自分で言っててよく分からないけど、そうとしか考えられない。


(だけど、これで爆破弾を使える。少しくらい善戦出来るかな……)


 でも、こいつに勝てるビジョンみたいなのが見えてこない。


(てか、何でこの黒騎士と戦っているんだっけ? こいつの目的ってなんなんだろう?)


 成り行きで戦っているけど、本当に襲われている理由が分からない。


「何で襲ってくるの!? あんたの目的は何!?」


 黒闇天を構えつつ、そう訊いてみた。こんな感じになってるけど、話し合いで解決出来るなら、それにこしたことはない。


「…………」


 黒騎士は、無言で距離を詰めてきた。


「もう!」


 私は爆破弾を撃っていく。一発ずつの射撃だと、剣で斬り裂かれる。その結果、爆発が起きるわけだけど、黒騎士は意に介さない。少しくらい怯んでも良いと思うんだけど……


「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!!」


 すぐにマガジンを入れ替えて、爆破弾を十発撃ち出す。さっきよりも近い距離で撃ったから、黒騎士も対応出来ずに九発命中した。爆破によってノックバックする黒騎士。今度は、こっちから接近する。


「体術『衝波』!!」


 鎧に向かって打ち出した掌底が、鎧の向こうの肉体に衝撃を与える。黒騎士の身体が少し浮く。そこに、回し蹴りをする。


「体術『円月』!!」


 勢いよく振った足が黒騎士の脇腹に命中して、黒騎士を少し吹き飛ばす。技を使っているのに、こっちの足も痺れた。


「硬っ……」


 本来だったら、モンスターくらいなら両断出来るくらいの一撃を見舞うこうとが出来るんだけど、あの黒騎士相手だと全くダメージを与えられない。


「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!!」


 さっきと同じ。でも、状況が少し違う。黒騎士は地面から浮いているし、体勢も崩れている。これなら、まともに剣を振う事も出来ないはず。私の狙い通り、全ての銃弾が命中して、さらに吹き飛んだ。


「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!!」


 そこに、さらに爆破弾を撃ち込む。


「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!!」


 さらに、撃ち込む。


「リロード術『クイック・リロード』 銃技『一斉射撃』!!」


 さらに、撃ち込む。


 爆破弾を、計四十発撃ち込んだ。すぐに、リロードを済ませる。爆破弾の在庫も尽きかけている。


(これで仕留められなかったら、危ないかも……)


 そう考えていると、爆煙の中から、揺らめく影が見えた。そして、黒騎士が飛び出してきた。嫌な予想だけは、いつも当たる。私の運をどうにかして欲しいくらいだ。


 黒騎士は、たったの二歩で距離を詰めてきて、上段から剣を振り下ろしてくる。若干左側に寄っていることを見抜いて、右側に行く事で避けようとしたけど、あっちの攻撃が素早く、左腕と左足の膝から下が斬り飛ばされた。


「……!!」


 激しい痛みが襲ってくるけど、それをねじ伏せる。黒騎士は、もう目の前にいる。今が絶好のチャンスかもしれないと思い、黒騎士の鎧に直接銃口をくっつける。


「銃技『零距離射撃』『一斉射撃』!!」


 スキルを組み合わせて、爆破弾を撃ち出す。私と黒騎士の間で激しい爆発が起こる。その衝撃に耐えきれず、私は吹き飛ばされていった。左腕と脚がないので、踏ん張ることも出来ず、地面を転がっていく。。


「うぅ……」


 右手に握る黒闇天の状態を見る。無茶な使い方をしたから、銃口に罅が入っている。もう撃つ事は出来ない。あの黒騎士に対抗出来る唯一の武器が使えなくなった。


「あいつは……」


 爆煙の向こう、黒騎士がいるであろう方向を見る。すると、爆煙の中から黒騎士が歩いてきた。さすがに無傷というわけにもいかなかったのか、鎧の胴体部分に大きな罅が入っていた。逆に言えば、捨て身のあの攻撃で、それしかダメージを与えられていないということだ。


「なんなの……? あんた……?」

「…………」


 黒騎士は、何も言わずに私の首目掛けて、剣を振り落とした。そこで、私は死んだ。


 ────────────────────────


 リスポーンした私は、王都の噴水広場に立っていた。


「はぁ……何なんだろう……」


 今の私は、すごくボロボロになっている。左腕と左足の膝から下なんて、丸出し状態だ。さすがに恥ずかしい。


「この時間なら、ヘルメスの館はやってるよね。修理してもらおう」


 ユートリアに転移した後、すぐにヘルメスの館に向かった。


「ただいま……」

「おかえり、ルナちゃん!?」


 私が来た事に気が付いたアイナちゃんが、カウンターからこっちに来ると、目を見開いて驚いた。


「ちょっと死んだ」

「死んだって……すぐに、アーニャ様を呼んでくるから、座ってて!」

「うん」


 私は、いつもの席に座る。すると、アイナちゃんに引っ張られて、アーニャさんがやって来た。


「どうしたの……って、これまた派手にやったわね。黒羽織だけじゃなくて夜烏も損傷しているし、タイツも作り直しね」

「後、こっちもなんですが……」


 と言って、銃口が罅割れている黒闇天を見せる。


「随分と無茶な使い方をしたわね……」


 アーニャさんは、黒闇天の状態をじっくりと確認する。


「二、三日掛かるわね。あ、でも、夜烏や黒羽織も修理するから、五日は欲しいわ」

「分かりました」


 私は、適当に白いワンピースに着替えて、修理してもらうものと、お金を渡す。


「それにしても、こんなになるなんて、何と戦ったの?」


 アイナちゃんが、お茶を持ってきて訊いてきた。私は、王都の森にいた黒い黒騎士について説明した。


「…………」

「…………」


 アーニャさんとアイナちゃんは、険しい顔になった。


「どうかしましたか?」

「いえ、何でもないわ。取りあえず、しばらくは森に近づかない方がいいわね」

「そうですよね。武器も壊れますし、今は調べ物を中心にしてみます」

「それが良いわ。こうなると、吉祥天でも何かしらの有効打を打てると良いわね」

「吉祥天の弾は、針を刺す必要があるので、鎧相手だと全然使えないんですよね」


 吉祥天で使う麻酔弾などは、薬を流し込むために先端の方に針が付いている。その針は、そこまでの強度があるわけではないので、鎧を貫通させることなどは出来ない。


「散布するみたいなのは、作れないの?」

「う~ん、味方にも私にも被害が来そうだから、少し難しいかな。それに、そもそもそんな弾がないと、私は作れないし」


 アイナちゃんの提案は魅力的ではあるんだけど、そんな弾の情報がないと、銃弾精製は使えない。


「ガス系の爆弾でも作ってみる?」


 アーニャさんまで、そんな事を言ってきた。


「それって、私も無事でいられますか?」

「無理ね」


 私の疑問に、アーニャさんは即答した。


「じゃあ、意味ないじゃないですか!?」

「そうなのよね。風向きによっては、自分に被害が来るからね。マスクでも作る?」

「私の不審者感が、どんどん強くなりますね」

「確かにね。ただでさえ、真っ黒でフード被ってるのに、マスクまで付けたらね」


 不審者感を取るか、安全を取るか……


「マスクもお願いします……」


 取りあえず、安全性を取ることにした。


「分かったわ。夜烏か黒羽織に付ける形にするわ。その方が楽でしょ?」

「ありがとうございます」


 その後は、いつも通り他愛のない話をしてから、ログアウトをした。

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