第70話 新学期!!

 次の日は、制服を作りに行ったりと、新学期に向けての準備に追われていた。そのせいで、ユートピア・ワールドにログインすることは出来なかった。

 その後の一週間は、お金稼ぎに勤しんだ。久しぶりに、シズクさんやアキラさんと話す機会もあったので、結構楽しんだ。最近は、ゲームらしく遊べている気がする。アトランティスは、ゲームとは思えないほどの緊張感があったから、のんびり出来ている期間は、貴重な気がしてきた。

 そして、とうとう高校の入学式が来た。日向と一緒に高校に向かう。とは言っても、中学の隣にあるから、あまり新鮮さはない。


「大空ちゃんだ」


 日向と一緒に歩いていると、進行方向に大空の後ろ姿があった。


「本当だ。大空~!」


 呼び掛けると、大空が振り返って、私達を見つけた。


「朔夜、日向、おはよう」

「おはよう」

「おはよう」


 三人で並んで歩いていく。


「今日は、入学式で終わりだっけ?」

「その後に、クラス毎に分かれて、教室に行くんじゃなかった?」

「三人で同じクラスだといいね」


 そんな風に話ながら、高校の敷地内に入ると、下駄箱があるであろう入口の前に沢山の人だかりが出来ていた。


「あそこに、クラス分けが書いてありそうだね」

「かき分けて行くのも何だし、進むの待つしかないかな?」

「そうだね。そういえば、朔夜は、メレと一緒に冒険したんだよね? どうだった?」


 あれから、メレと一緒に冒険は出来ていない。日向達とも時間が合わなかったので、冒険していない。そのため、大空が訊いてきているのは、あの時アトランティス港に向かった時の話だ。


「えっと……色々大変だったかな。でも、移動だけはすごく楽だったよ。メレが歌うと、モンスターが近寄ってこなかったから」


 私はそう言うと、日向も大空もぽかんとしていた。


「それって、ボスは?」

「それは、さすがに効かなかったよ。ボスを避けて良いってなったら、チートもいいところだしね」


 仮に、ボスを退ける力があるなら、あの時にメレも言っていたはずだから、効かないはずだ。


「それは、確かに。そもそもユニークスキル自体、チートに近いけどね。朔夜のあの移動方法もチートみたいじゃん」

「ハープーンガンの事? あれ意外と難しいんだよ? そのまま引っ張り続けたら、壁に激突だから、直前で身体を捻って足から着地したり、ハープーンを外して、屋根に登ったりってね」


 すごく便利なものではあるけど、少しでもミスをしたら、悲惨な目に遭ってしまう。今までそんな事になったことはないから、相性自体は良いと思う。


「その分、移動制限がほとんどないよね。隠しエリアとかに行けるようになるんじゃない?」

「そうかもしれないけど、日向も大空も同じような事は出来ると思うよ」

「どうやって? 日向はともかく、私はステータスが弱いから、ちゃんと凹凸がないと登れないと思うよ」


 大空も崖などの足場が何とか確保出来る場所なら登れるが、壁のような場所は無理だと思っているみたい。


「日向は、路地とかの壁が両側にあるところなら、壁蹴りで上がっていけそうだし、大空も自分の力ってわけじゃないけど登れるよ」

「?」

「ガーディに乗れば、登れるんじゃないの?」


 私がそう言うと、大空は、少し考え込んだ。


「確かに、ガーディなら登れるかも」

「ほらね」

「ユートピア・ワールド自体、自由度が高いから、行けない場所はなさそうだよね。工夫すれば、どうとでもなりそう」


 日向と大空と一緒に話していると、前の方が空いてきた。そして、張り出されているクラス表を見に行く。クラスは全部で、五クラスだった。その中から、自分の名前を探す。基本的に、出席番号は下の方だから、少し探しやすい。


「二組だ」

「私も二組だよ!」

「私もだ」


 私達三人とも同じクラスになれた。自然と三人で笑い合う。そして、入学式の会場である体育館に向かった。私達の高校は、新入生入場みたいなものはなく、先に会場に入って用意されている椅子に、先着順で座るようになっている。


「ん?」

「どしたの?」

「ううん、何でもない」


 クラス表にメレのこっちでの名前があったけど、多分本人ではないだろう。年齢でいえば、私達の一つ上だし。


 ────────────────────────


 体育館に入ると、さっき以上のざわめきがあった。席は置いてあるのに、誰も座ろうとしていない。まさかだけど、本当に?


「どうしたんだろう?」

「さぁ、回り道をすれば、前には行けそうだから、行ってみよ」


 日向と大空は、人だかりを回って前に行こうとする。私も後ろについていく。すると、新入生が座る席に、一人だけぽつんと座っている人がいた。


「あれって、この前活動休止したアイドルの人じゃない?」

「本当だ。活動休止の理由って、このことだったのかな?」


 本当に、メレのリアルの姿がそこにあった。皆は、気後れして座りにいけないみたいだ。


「どうしよう。座って良いのかな?」


 日向も気後れしているみたい。大空も同じみたい。


「いいでしょ。座らないと始まらないんだから」


 私は、そう言いながら、先に進んで行く。


「お隣座ってもいいですか?」

「えっ? あっ、どうぞ」


 許可が取れたので隣に座る。その隣に、日向、大空と続いた。


「あの……」


 隣に座ったら、いきなり話掛けられた。


「はい?」

「どこかでお会いした事ありませんか?」


 勘が良いのか、私と会ったことがあるのではと訊いてきた。


「あるよ。一週間くらい前に、港に案内したでしょ?」

「え……? ええええええええええ!!!!」


 メレ改め、舞歌が驚いて腰を上げる。そして、すぐに周りに人がいることを思い出して、サッと座り直した。


「嘘、ルナさんですか?」

「そうだよ。後、ソルとシエル」

「え、え?」


 舞歌はすごく混乱していた。それは、日向達も同じだった。


「どういうこと、さくちゃん?」

「彼女がメレなんだよ」

「「え!?」」


 二人も驚いた。普通、友達になった人がアイドルだったら驚くか。


「そういえば、あれから大丈夫だった?」

「はい。大丈夫でしたよ。マネージャーが、すごい謝ってくれましたから」

「それはよかった。じゃあ、これからもログインは出来るんだ」

「はい。ご心配お掛けしてすみません」


 舞歌自身とは初めて話すけど、何も緊張せずに話せた。それから、私、日向、大空、舞歌の四人で色々なことを話した。とはいっても、その内容はユートピア・ワールドの事が中心だったけど。それと奇跡的なことに、舞歌も同じクラスだった。


 そんなこんなで、入学式が始まる。他の生徒もようやく落ち着き、席に座っている。入学式は、滞りなく終わった。その後は、教室に向かったんだけど、舞歌の席に沢山の人が集まって大変そうだった。私達がどうにか出来ればよかったんだけど、割り込む隙もなかった。途中で先生が来てくれたから、途中で止めることが出来たんだけど、その後も舞歌は囲まれたままだった。


「さっきまでは、遠巻きに見ているだけだったのにね」

「私達が、話しかけたのが大きかったのかもしれないね。でも、あのまま放っておくのもあれだったしなぁ」

「朔夜は、正しい事をしたと思うけど。周りの皆が調子良いだけな感じかな」


 私達は、舞歌が解放されるのを待つしかなかった。先に帰っちゃうのもなんだしね。


 舞歌が解放されたのは、それから一時間くらい経った後だった。


「大変でした……」

「お疲れ様。有名人は、大変だね」

「その有名人をご存じない方がいらっしゃいましたけど」

「うぐっ……」


 痛いところを突かれた。


「そういえば、どうして、高校に入学してきたの?」


 ちょっと気になったので、話題逸らしも込めて訊いてみた。


「アイドルとして、三年くらい活動して、最初からすごい人気になったんですけど、普通に学校に通って、学んでおきたいと感じたんです」

「そうか。中学二年から活動をして、卒業してから進学せずに、アイドルを続けていたんだっけ?」


 日向が、補足のような事をしてくれた。これについては知らなかったので有り難い。


「はい。卒業後、一年近く活動して、学力が大切だということに気付いたんです。だから、活動を休止して、学校に通うことにしました」


 卒業したら戻るのか分からないけど、舞歌にとって大事な決断をしたっていうのは分かる。無知のまま、アイドルを続けるのに不安を感じたのかも。


「そうなんだ。じゃあ、私達と同じくらいには、時間があるってことだよね?」

「そうですね」

「じゃあ、今度は、皆で冒険に行こうね」

「はい!」


 舞歌は、学校に来てから一番の笑顔で返事をした。

 こうして、高校生活初めての新しい友達が出来た。それも、アイドルの友達という私の予想しなかった展開だ。新しい生活は、楽しいものになりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る